46話-旅立ちの日
朝の空港ロビーって、なんでこんなにテンション上がるんだろ?
ガラス張りの天井から差し込む光がピカピカ眩しくて、外は超寒いのにここは暖房ガンガンで暖かい。
キャリーケースがガラガラ言って、スピーカーからアナウンスが流れて、急いでるサラリーマンがカツカツ歩き回ってる。
なんか全部が「新しい物語のスタートだぞ〜」って言ってるみたいで、俺はちょっとワクワクしてた。
出発ロビーの柱の前で荷物を下ろす。
手荷物の中には例の帳面が入ってる。
二年前に倉庫で見つけて以来、ずーっと大事にしまってたやつ。
あの帳面、革表紙で重厚感あるくせに、中身は真っ白のページばっかりだった。
「俺を書いてくれ〜」って言ってるみたいに、棚の奥でお留守番してたんだ。
でも表紙の裏だけは特別で、ばあちゃんの達筆でこう書いてある。
**《これから、あなたが書くこと。》**
当時の俺には全然意味分かんなかった。
過去のこと話すの超怖いし、未来とか考える余裕ゼロだったから、
とりあえず棚に戻しちゃったんだよね。
---でも今は違う。全っ然違う!
「……こっち向いて」
後ろから声がして振り返ると、咲良が毛糸のスヌードを両手で持って立ってた。
白い糸がキラキラ光ってて、めっちゃ可愛い。
「これで向こうでも風邪ひかないでよ」
咲良がちょっと背伸びして俺の首に巻いてくれる。
毛糸のふわふわ感が首に当たって、心の中までポカポカになった。
「……ありがとう。俺、ちゃんと旅立つ人に見える?」
「うん!ちょっとだけ"語りに行く人"って感じ」
二人でクスッと笑う。もう不安とか寂しさとか、そういうネガティブな感情は吹っ飛んでた。
「……ナポリタンのレシピ、絶対守れよ?」
「うん!でも"語り手の席"はちゃんと空けとくからね」
「じゃあまた、新しい話を届けに帰ってくる」
自然にそう言えてる自分にびっくり。過去を隠してコソコソ生きてた俺は、もうどこにもいない。
搭乗口に向かう前に、ベンチに座り込んだ。膝に帳面を置いて表紙を開くと、
真っ白なページが朝日でピカーッと光る。
指でばあちゃんの文字をそっとなぞった。
**《これから、あなたが書くこと。》**
---ばあちゃん、やっと分かった!これ、俺の人生を語り直す専用帳面だったんだ。
ペンを取って、記念すべき一行目を書く。
**「これは、僕が語り直す物語だ」**
インクがジュワーッと紙に染み込む瞬間、胸の奥でずっと閉まってた扉がパカッと開いた感じ。
ばあちゃんがくれた真っ白なページは、もう真っ白じゃない。
咲良が支えてくれて、ばあちゃんが背中押してくれて、
俺の言葉で人生を書き直すスタートラインが、今ここに引かれた。
「ご搭乗の準備が整いました〜」ってアナウンスが響く。
帳面をそっと閉じて咲良の方を見ると、ガラス越しの朝日をバックに小さく手を振ってる彼女がいた。
その笑顔には「置いてかれちゃう子」の影なんて全然ない。
むしろ「行ってらっしゃい!」って送り出してくれる人の、キラキラした誇りと希望が詰まってた。
俺は思いっきり息を吸い込んで、ゲートに向かって歩き出す。
胸の中で、ばあちゃんと咲良と俺の物語が一本の糸でしっかり繋がってる。
その感覚が、静かに、でも確実に俺の中で生きてた。




