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ナポリタンでは終われない  作者: yuuma
第一章:帰れない場所、帰ってきた風

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4話:ちちぶまゆの余韻

 カフェ・アカシアは閉店モード。

 照明はほぼ消灯、厨房の明かりだけがポツンと残ってる。

テーブルの上には、取り残されたコースター一枚。……お前、今日の営業お疲れ様。


 棚には祖母の年代物カップたちがずらり。

 その中に――いた! 猫のマグ!

 子どものころ俺が「これがいい!」って駄々こねて選んだやつ。まだ現役だったのかよ、お前。


 カバンからお土産用に買った小さな紙袋を取り出す。

 秩父土産の「ちちぶまゆ」。

 フタをパカッと開けて、一個つまむ。


 パクリ。

……うわ、柔らかっ。

 薄い絹みたいな求肥の中に、やさしい白あんと小豆。

で、その瞬間――頭の中に、昔の映像が勝手に再生された。


 誰かの声、照明の熱、割れそうな拍手音。

……ちょっと待て、今そういうの観たい気分じゃない。


 甘さの奥に渋みが滲んで、喉から胸の奥までスーッと沈んでいく。

あの頃のこと、ぜんぶ水底に沈めたはずなのに。


……いや、いいんだ。

 過去は言わなきゃ、なかったことになる。

 あの出来事も、あの夜の声も、テレビ越しの視線も。

 語るつもりなんて、ない。マジで。


 もう一個の「ちちぶまゆ」を指でコロコロ転がす。

 壊れやすくはないけど、ほっとけば崩れてくる――ああ、なんか俺だな。



 その時、暖簾がサラッと揺れた。

 外で犬がワン、と一声。

 静かな夜に、それだけが残った。



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