71 事業拡大に伴う新規採用はこうなりました
無謀にも思える事業拡張。
その為の人集めだが、これは意外と簡単に終わった。
今の時代、職にありつけない人間は珍しくない。
特にレベルも高くない、知識や技術のない人間はいくらでもいる。
だから、採用しようと思えばいくらでも応募者はいる。
さすがにソウマくらいの零細になるとそうそう人もこない。
だが、皆無ではない。
あえて大手ではなくソウマのような小さな所に就職しに来る者もいる。
大手に入れなかったからやむなく、という理由になるが。
とはいえソウマも人は選んでいる。
最低でも探索者である事。
そして組合経由での募集に応じた者であること。
これを募集の最低条件にしていた。
最低限のふるいにかける事が出来るからだ。
探索者として登録出来るくらいの人間性はもっていてもらわねば困る。
根性のねじくれたひどい人間は既に消えているけども。
「このさいレベルはどうでもいい。
技術がなくてもかまわない。
まともな性格と人格をしててくれれば」
これまでの人生で色々見てきた経験からの考えだ。
どれほど優れた能力を持っていても、人格や性格が屑だと必ず問題を起こす。
能力が高いと被害はなおさら大きくなる。
だから、性格と人格だけをソウマは優先していく。
探索者組合の方もソウマの要望をくみ取り、なるべく性格や人格で選別していく。
とはいえ、極端に酷い人間はまずいない。
能力も問わないという事で、該当者はいくらでもいる。
おかげでソウマは、大量の応募件数をつきつけられる事になる。
「思った通りだけど」
食っていくのが難しいご時世だ。
雇うといえば応募が殺到する。
旅団にいた時に経験していた事だ。
しかし、零細の個人事業主のところにまで押し寄せるとは思わなかった。
それらを無視するわけにもいかない。
望んだ人間を確保するために目を通していく。
ただ、人選はしっかりされている。
修理と料理をもっている事。
性格の方も問題がない事。
この2点を備えた人間が集まっている。
その中でソウマが求める人間を見定めていく。
出来れば書類選考の時点で上手く分別しておきたいと考えながら。
とはいえ、生類だけで何が分かるというわけではない。
一緒に仕事をしてみるまで人間性など分かるものではない。
それでもこの段階で出来るだけの分別をしておきたかった。
また、採用しない者達をこのまま放り出すのも勿体ない。
ソウマが抱える事は出来なくても、横暴者の持つ能力を求める所はあるかもしれない。
そう考えて、なじみのある探索者や旅団に声をかけていく。
探索者だけではない。
旅団にいた時になじみになった商売相手などにも声をかけていく。
探索者に依頼を出す者達は数多く、様々なところに伝手がある。
こうした所にも人を押しつけていく。
「修理が出来る人間、欲しくない?
料理が出来る奴も」
尋ねてみても、良い返事が出て来る事はほとんどない。
それでもいくつかの職場から採用したいという声を聞くことが出来た。
平和になって仕事が増えて、人員拡大を考える所が増えてるおかげだ。
さすがに応募者全員を振り分ける事が出来るほどの採用枠はない。
だが、これで応募者のうちの何人かを就職させる事が出来た。
応募者が減って選別がしやすくなる。
それでも結構な数が残っているのだが。
「それにしても……」
書類を見ながら考えてしまう。
修理と料理という、探索者にはあまり必要がなさそうな脳録。
むしろ一般的な仕事で重宝しそうな力。
これらを持つ人間は、怪物退治になど乗り出さずに普通に仕事が出来るはず。
それが探索者になってる。
「まだ仕事が無いのか」
世の中の情勢を垣間見てしまう。
まだ一般的な仕事などが復活してない。
探索者以外に募集してる仕事がない。
だから戦闘に関係の無い能力の持ち主が怪物退治に流れ混んでくる。
不毛で悲惨な事だ。
ここをどうにか改善するにも、人間の勢力圏が拡大し、一般的な仕事が増える必要がある。
ソウマが魔族や怪物を撃退する事で、この状況を改善していってる。
だが、結果がはっきりと形になるのはまだ先のこと。
今は就職先はまだ、探索者しかなれる仕事がない。
魔族や怪物がはびこるようになった直後よりはマシだ。
それでも、かつての状態には及ばない。
「早いとこ、どにかなってくれないかな」
書類に目を通しながら現状にぼやく。
そうしながら目を通す手元に残った書類の数。
これは、魔族と怪物によって崩壊した世の中の一端をあらわしていた。
そんな書類からソウマは2人を選んでいく。
数多くの落選者を出したが、これは伝手をたどってあちこちに紹介するつもりだ。
しかし、これはさすがに他でも採用されないだろうという者がいる。
それをソウマは引き取った。
採用した者が無能というわけではない。
性格が駄目という事もない。
ただ、さすがにこれは他の所は採用をためらうだろうという要素があった。
その部分を見たオトハとサユメも、
「これはさすがに……」
「ヤバイよね、色々と」
と難色を示した。
それ故に、ソウマは引き取る事にした。
他が駄目なら、自分がやるしかないと。
「なるべくしてなったって事なんだろうけど……」
様々な事情に思い浮かべ、色々と考え込んでしまう。
そんな新規採用者となった2人をソウマは組合に迎えに行く。
採用の通知を送り、初出社となる日に組合事務所に来るようにと指示をして。
そこで待っていた2人は緊張した面持ちでソウマに名乗っていく。
「九十九里カナヤです!」
「御来屋シラベです、よろしくお願いします」
声を張り上げる少年。
腰を90度に曲げる少女。
少年少女というより、いっそ子供といって良い年頃。
そんな2人がソウマの目の前に立っている。
実際、カナヤは12歳。
シラベが10歳。
働きに出るのもどうかという年頃だ。
それでも食っていくために働きに出るしかなく。
その為の手段が探索者しかない。
しかし、探索者として仕事をまわすのはためらわれる。
かといって、子供といって良い年齢を労働力として採用するのもためらわれる。
では何もさせずに放り出したら、路頭に迷って飢え死にする。
なので、組合事務所の方で仕事を与えていた。
労働力というよりは子供のお使い程度ではあったが。
そんな難しい状況にいるからソウマは採用する事にした。
もちろん知識や技術は期待してない。
才能や能力あっても、年齢を考えれば経験などありえないからだ。
今の段階では、性格や人格の方に期待するしかない。
こちらの方は組合事務所の評価を信じる事にした。
事務所の手伝いをしてる2人の評価は悪くはない。
境遇に同情し、哀れみをおぼえて手心を加えてなければ。
「信じるしかないか」
履歴書に付け加えられてる組合事務所からの評価票。
真偽をただすのも難しいこれを、ソウマは受け入れる事にした。
駄目なら放り出すという厳しい選択をするつもりで。
能力はともかく、性格や人格が駄目な人間を許すつもりなどソウマにはない。
だから願った。
カナヤとシラベの2人がまともな人間であるように。
放り出さずに済むようにと。
あるいは、放り出したら清々するような屑であるようにと。
もし人間の屑なら良心が痛むことはない。
ゴミを捨てる事が出来たと喜べる。
それくらい後腐れ無く処分できる人間であるよう願った。
もちろん、こうした内心はかくしていく。
顔や態度にあらわれないようにしながら。
「はいよ」
表向きには気楽に軽い調子をよそおって。
「じゃあ、仕事にいこう」
いつも通りに仕事へと向かう。
そんなソウマにカナヤとシラベは驚く。
「あの、それだけですか?」
「ん?
何かあるのか?」
「いや、そうじゃなくて……」
「テストとかやらないんですか?」
シラベも尋ねてくる。
当然だろう、採用していきなり仕事に行こうというのだから。
普通、最初に仕事がどれくらい確かめるものだろうと。
組合事務所で手伝いをしていたから、2人にもこれくらいはわかる。
「ああ、そういうのいいから」
ソウマは面倒くさそうに応える。
「仕事がどれくらい出来るかなんて、やらせてみるまでわからないし。
それに、今のお前らのレベルで大きな事が出来るとは思ってないよ」
「そりゃまあ、そうだけど」
「でも、それじゃ何で私たちを?」
「成長させて元を取るためだ」
ソウマははっきりと言い切った。
率直でドライな言い分にカナヤとシラベは言葉を失った。
「ああいう人ですから」
硬直する2人にオトハがとりなしていく。
「でも、大丈夫。
あれでお人好しだし」
サユメも続く。
「口ではぶっきらぼうに言っても、人を見捨てたりはしないから」
サユメの言葉にオトハも頷く。
2人とも実体験から自信を持って言える。
オトハは戦闘力のない能力であるにも関わらず拾ってもらえた。
サユメは子供の頃から面倒をみてもらった。
この実績が2人にとって信頼と信用の根拠になっている。
「ただ、こき使われるのは覚悟した方がいいねー」
「かなりスパルタなのは確かですから」
決して楽な道でない事も伝えていく。
超能力の使い方を考えてくれて、効果的な戦い方を教えてくれる。
しかし、いきなり怪物の中に放り込まれたり、迷宮に突入させられたり。
さらには迷宮の主すらも倒せといわれる。
それだけの実力があるとみなされたからではあるが、決して楽な事ではない。
「でも、これに耐えられば大丈夫です」
「そうそう。
兄ちゃん、簡単に人を見捨てたりしないからだ。
出来ない人間は出来るようになるまでビシバシ鍛えてくれるから」
「死にそうになりましたけどね……」
「死なないように頑張らないといけないけどねー」
だんだんと擁護してるのかけなしてるのかわからない言い方になっていく。
そんなオトハとサユメの言葉に、新人2人は怖じ気づいていく。
とんでもない所に来てしまったのかもしれないと。
しかし、帰る場所もない。
つらくても、ここで踏ん張るしかない。
顔を青くしながらも、カナヤとシラベはソウマについていく事にした。
そこまで言われてるソウマとしては、納得がいかないものがあった。
確かに厳しいかもしれなかったが。
「そこまでひどかったか?」
ささやかな抗議をあげる。
「ええ、とっても」
「あれは地獄だよ、兄ちゃん」
呆気なく経験者2人による反論を受けて撃沈してしまった。
先輩2人の言葉に、新人2人が戦慄をおぼえる。
だが、オトハとサユメは後輩への気遣いも忘れない。
「でも、本当に無茶とか無理をさせたりはしないから」
「駄目だと思えば兄ちゃんはちゃんと動くから」
慰めになったかどうかは定かではない。
それでも、カナヤとシラベはソウマについていく。
ここで頑張るしかない、踏ん張るしかないという思いで。
業務と人員拡張初日はこうして始まった。
次回はまた時間をあける事になりそう。
書き溜めが全然ない。
少しずつ書いていくので、しばしお待ちを。
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