62 おそれていた魔族、しかし
怪物を超えた危険な存在、魔族。
それが目の前にいる。
生まれて初めてみる危険物に、オトハとサユメは緊張をしていく。
2人が目にした魔族は、人と変わらない姿をしていた。
額に三つ目の瞳がある以外は。
ただ、にじみ出てくる霊気は通常の怪物を上回る。
怪物以上に危険と言われる理由が感じられた。
そんな危険物を倒せという。
正気なのかと2人は疑いたくなった。
しかし、ソウマが本気なのは間違いない。
怪物と同じように、目の前の魔族を倒せといっている。
その声が届いていたのか。
魔族は呆けた顔をして。
それからあきれた顔をした。
「なに言ってんだ?」
その声には嘲りが込められていた。
出来ると思ってるのかという気持ちとともに。
それだけ魔族は自信があった。
いきなり周りから何もいなくなったのには驚いたが。
突然あらわれた人間に倒されるわけがないと。
それだけ人間と魔族の実力差は大きい。
この極端な強さを持つから魔族は絶対的な強者として存在している。
隔絶した能力で人間を見下し、馬鹿にしている。
そんな人間が、「あいつを倒せ」と言ってるのだ。
聞いて驚くよりも呆れてしまうというもの。
「あのな、そういうのは笑えないぞ」
冗談にもなってない、そう続けようとした。
しかし、魔族の言葉はそこで止まる。
目の前に突然あらわれた幻によって視界が遮られる。
「…………なに」
そうつぶやいた瞬間、頭の中に轟音が響いた。
先手必勝とばかりにサユメが放った幻。
それは魔族の視界を塞ぎ、意識を一瞬だけ止める。
その瞬間にオトハが魔族に轟音をぶつける。
衝撃が骨も筋肉も内臓も揺らすほどの音量で。
巨大な霊気で身を守る魔族だが、さすがにこれは完全には防げない。
音は振動となって襲いかかる。
通りやすいかどうかの違いはあるが、完全に防げるものではない。
霊気とて同じだ。
音が振動となって霊気を伝う。
これが衝撃となって魔族を襲っていく。
体全体を走り、脳に直接の衝撃がたたき込まれる。
音として認識される揺さぶりは、魔族に耐えがたい苦痛をもたらした。
思考が一瞬とまる。
そこにサユメが次の幻影をたたき込む。
目に見える形ではなく。
目の奥にある脳に直接見せていく。
魔族の頭の中に様々な幻影が生まれる。
苦手なもの、嫌いなもの、三眼の魔族が恐れるもの。
それらが頭の中で発生し。
恐れおののくうちに意識が真っ暗に染まった。
何もない。
己だけ。
圧倒的な静寂が魔族にまとわりつく。
己の存在すらわからなくなりそうな静けさ。
その中に三眼の魔族は置かれた。
そんな幻に耐えられなくなったとき。
今度は別のものがあらわれた。
三眼の魔族が求めてやまないあらゆるものが。
三眼にとって最上の快楽と至福を得られるすべてが。
幻となって脳内に映し出された。
恐怖をおぼえ、己の存在が薄れ。
すべてが消え去りそうになった時に、望むあらゆるものがあらわれた。
そこでおぼえる最高の歓喜。
この喜びの中であらゆる精神が解放されていくのを感じながら。
三眼の魔族は己の精神を完全に崩壊させた。
恐怖により心が死滅する事もある。
だが、快楽により人はすべてを満たされる。
もうこれで十分、これ以上はいらないと。
己の命すらも捨てさるほどに。
最高の快楽は、忘我にいたる。
文字通り、我を忘れる。
すべてを手放し、呆けていく。
そのとき、自我は、心は、魂は消えていく。
オトハの放った轟音という衝撃で意識を揺さぶられ。
生じた心の隙間をサユメにつかれ。
その心は最後に恍惚の中で消えていった。
そして。
立ち尽くしたまま満面の笑みを浮かべ。
あらゆる穴から体液を漏らしながら。
弛緩した体を三眼の魔族を貫かれる、オトハの手槍で。
その首を切り落とされる、サユメの小太刀で。
怪物を凌駕する力を持つ魔族。
それは、あまりにもあっさりと倒された。
時間にして10秒も経ってない。
あまりにも簡単に倒せてしまった。
この事実にオトハもサユメも実感を抱く事が出来なかった。
魔族の恐ろしさは2人も耳にしている。
戦車や戦闘機すらもあっさりと撃退し、軍艦すらも中に浮かべた。
そんな巨大な力を持つはずの危険物。
それがこうもあっさりと倒せてしまった。
すぐには信じる事は出来ない。
そんな2人にソウマは近づき。
軽い調子で声をかける。
「簡単なもんだろ」
まだ2人は頷く事は出来なかった。
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