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55 2人の迷宮攻略 3

 迷宮突入から2時間。

 迷宮の圧力が消える。

 悪意の塊である迷宮から、悪意の感触が減っていく。

 これをオトハとサユメは肌で感じていた。



 こうなると迷宮の最後は近い。

 怪物を産み出し続けた迷宮の悪意が途切れる前兆だからだ。

 あとは、迷宮の主がどうするかによる。

 ギリギリまで怪物を産み出すか。

 そうそうに見切りをつけて、にじみ出て漂う悪意を己が吸収するか。

 どうするかは迷宮の主次第となる。



 この迷宮の主は、ギリギリまで耐えるようだった。

 減った悪意を大きくまとめ、強力な怪物として繰り出してくる。

 単体の強さだけでみれば、低級の怪物など比べものにならない。

 ただし、産み出すために必要な悪意が大量になるから量産は出来ない。

 そんな怪物がオトハとサユメの前にあらわれる。



 この迷宮では巨大なトカゲの怪物となってあらわれる。

 8本の足を持つ、全長10メートルになるトカゲ。

 その巨体と、巨体が持つ体力だけでも大きな脅威だ。

 だが、この怪物の怖いところはそれだけではない。



 この巨大トカゲは、口から毒を吐き出す。

 あたれば生物の生命を蝕んでいく。

 毒を煙のように周囲に放つ事もある。

 この場合、即死性は薄まるが、継続的に体を蝕む毒ガスの中に浸る事になる。



 遠距離から攻撃出来ればさほど驚異ではない。

 毒を吐き出すにしろ、ガスとしてばらまくにしろ、射程は決まってる。

 ただ、オトハとサユメの持つ武器では、トカゲの巨体を貫ぬくのは難しい。

 霊気を矢や銃弾にのせればどうにかなるだろうが。

 それでも、致命傷を与えるのは難しい。



 そんな毒トカゲに2人は立ち向かっていく。

 サユメが幻影で視線を遮る。

 オトハが毒トカゲに音を放っていく。

 定石通りの動き。

 ただし、少しばかり変化を加えて。



「いきます」

 淡々とした声でオトハは音を放つ。

 毒トカゲの周囲ではなく。

 毒トカゲのその体内に。



 霊気の消費が大きくなるが、音を相手の身体の中で発生させる事は出来る。

 こうする事で、耳のない存在にも音をぶつける事が出来る。

 目の前にいる毒トカゲがまさにこれだ。

 なのでオトハは毒トカゲの脳内に音を直接ぶつけた。



 ぶつけられた毒トカゲは、脳内で破裂する轟音に動きを止めた。

 直接的な衝撃はないが、感覚器や神経に直接の打撃を受ける。

 肉体を傷つけられるのとは別の痛みをおぼえる。

 その不快感に毒トカゲはのたうち回る事も出来なかった。



 音の衝撃は肉体に損壊を与える事はほとんどない。

 しかし、脳や神経に直接の衝撃を与える。

 体が麻痺してしまう。



 当然動きは止まり、毒をはき出す事も出来ない。

 8本の足をふるわせて、体を立てるのがやっとになる。



 ただ、口からヨダレのように毒が盛れていく。

 意図的にはき出してるのではない。

 体が麻痺で緩んで、唾などをとどめておく事が出来なくなってるのだ。

 なので、漏れ出す毒はさほど多くはない。

 毒トカゲの口の周囲に、かすかな毒煙をかもしだす程度。

 それ以上は空気の中に拡散して無害なまでに薄まっていく。



 サユメがそこに突進していく。

 体を震わせてる毒トカゲ。

 その頭に乗って、手槍を突き刺していく。

 頭蓋骨と首の境目、骨が覆ってないところに。

 体を動かす中枢がある部分に。



「ほいっ!」

 どこか間の抜けた気合いを入れる声と共に、手槍を突き刺す。

 これがとどめの一撃となり、毒トカゲは死んでいく。



 出てきた毒トカゲの最初の1体はこうして倒れた。

 しかし、迷宮の主は、続けて幾つもの毒トカゲを出していく。

 それらに向けて、後ろに控えていたオトハが音を叩きつけていく。

 出現と同時に怪物は全神経を音で揺さぶられる。



 麻痺状態に陥った毒トカゲにサユメが襲いかかる。

 手槍を首の後ろから脳髄に突き刺していく。

 こうして出現した巨大で強力な怪物は、次々に倒されていった。


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