52 始めるに当たって激励の言葉をかける、ただしやる気を出させたりしない
魔族側の動きはともかくとして。
迷宮攻略を続けるソウマ達は、配達も続けていく。
なんだかんだで荷物は常に存在するし、それを待ちわびる人たちがいる。
そんな者達への届け物を運ぶ。
あまり金にはならないが、必要な仕事だ
迷宮攻略はこの途中で行っている。
日中は荷物を届けるために軽ワゴンを走らせ。
夜はオトハとサユメをつれて迷宮へと向かう。
転移で春寒移動が出来るソウマにとって造作もない。
配達で小銭を稼ぎつつ、怪物退治にいそしむ。
オトハとサユメのレベルを上げるために。
その成果を確かめるために。
「それじゃ、この迷宮はお前らで片付けろ」
この日、ソウマは2人に試練を与えた。
2人で迷宮の主を倒せと。
レベルが上がってるとはいえ、かなり危険な仕事になる。
それでもオトハとサユメは引き下がらない。
「はい」
短く肯くオトハ。
超能力を使わない自分の声での返事。
それが彼女なりの決意と誠意に表し方だった。
本来の自分で返事をするという。
「はいよ!」
元気よくサユメは応える。
ただし、いつものような軽い調子はない。
自然と低くおさえられた声で。
顔にもトレードマークになってるニヤケ笑いもない。
仕事に赴く時の、真剣な姿勢と表情を見せている。
「ま、気負うな」
そんな2人だからこそ、ソウマは軽い調子で接していく。
「力んだらしくじる。
気を抜け、力を抜け。
その方が上手くいく」
逆説的だが、これは真実だ。
体に力が入ると、動きが鈍くなる。
力も出なくなる。
心がこわばると、思考が停止する。
目の前の出来事を正しく見ることが出来なくなる。
適切な対応をするための考えが出来なくなる。
「だから力を抜け」
心と体から。
これが事にあたるために必要な気構え心構えになる。
気持ちと動きは真剣に。
しかし力みを抜く。
自然と立っていられる程度の力で良い。
それ以上は不要。
意識を保つ。
しかし力まない。
これは両立する。
出来ないと思うものが力を出せという。
全力を尽くせという。
根性を出せと精神論に陥り、全てを壊滅させていく。
そして、力みを抜いての行動を、ふざけてると弾圧する。
いちばん良い状態を破壊する。
そして全滅していく。
作り上げたものを廃墟にしていく。
ソウマはこれを嫌っている。
頑張るだけ頑張って、破滅に向かう。
そんな馬鹿な事をするつもりはこれっぽっちもなかった。
オトハとサユメにさせるつもりもなかった。
「いきなりは無理だろうけど」
これも分かってる。
なにせ迷宮の主を倒せというのだ。
雑魚の殲滅ではない。
簡単にできるものではない。
だが、それでも最初に伝えていく。
「知ってるだけで何かがかわるもんだ」
知ってるから意識する。
意識するから、知ってる事に沿った考えや行動をする。
マインドコントロールや洗脳に等しいのかもしれない。
しかし、それで上手くいくなら、使っていく。
「まあ、やるだけやってみろ。
今のお前らなら失敗もしないだろう」
あとは実際にやって確かめるしかない。
知っていても体がついていかない、頭が動かないもの。
実際にやって確かめるまでは。
だからやるしかない。
「行け」
「はい」
「うん!」
ソウマの声に応えて、オトハとサユメは向かっていく。
目の前の迷宮の門の中へと。
その背中を追って、ソウマも迷宮へと入っていった。
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