51 魔族の暴虐性
ソウマ達が迷宮を攻略してまわり。
その合間に物資の配達をしてる頃。
そこから離れた場所で、とある動きも活発になっていた。
「こんなものか」
各地の迷宮から集めた怪物。
その数はそれなりのものになっていた。
当初の予定よりは少ないが、それでも十分な数になっている。
それを見て、牛の角を持つ魔族は納得する事にした。
「シケた顔をしてんなよ」
そんな角持ちの魔族に別の魔族が声をかける。
こちらは額に目を持つ魔族だ。
「そんなんじゃ、何やってもしくじるぞ」
そういって元気に笑う。
三眼のこの魔族は、角持ちの魔族に誘われた者だ。
怪物をけしかけて人類を攻撃する、だから協力してくれと。
三眼は応じてやってきた魔族の1体だ。
他にも何体かの魔族が角持ちの所に来てる。
これらに怪物を分け与え、人間の領域に攻め込む事になっている。
その直前である。
首謀者の角持ちは、予定よりは減ってしまった怪物の数に落胆をしている。
これでは思ったほどの成果は出ないだろうと。
そこにやってきた三眼は、気楽な調子で状況を見ていた。
「失敗したっていいじゃねえか。
別にこれが最後ってわけじゃないんだし」
その通りである。
今回の攻勢が失敗しても、これで終わりではない。
再び怪物を集めてまた攻勢をかければ良い。
繰り返していけば、人類を滅ぼす事が出来るだろう。
だが、無駄な手間をかけたくはなかった。
兵隊を集めるのにも手間と苦労がかかる。
雑兵にもならない小鬼ならばいくらか簡単に集まるが。
これでは数合わせにしかならない。
もう一段階上の鬼や獣人が最低でも欲しい。
しかし、これらを誕生させるには時間がかかる。
一度に作れる数にも限界がある。
怪物を作るには悪意が必要になる。
この悪意の量によって生産できる数が決まる。
この悪意を大量に抱える迷宮でなければ、怪物の増産は出来ない。
そんな迷宮はそう多くはない。
数え切れないほど大量の迷宮。
人類からするとそう思えるのが迷宮だ。
しかし、魔族からするとまだまだ足りない。
人類を殲滅するには。
攻め込むだけなら良いだろう。
制圧し占領するなら十分な兵力だろう。
だが、魔族が求めてるのは殲滅だ。
ただの1人の人間も生かしておくつもりはない。
その為には大量の兵力が必要になる。
人類の都市の隅々まで浸透していけるだけの数が。
「……取り逃しがでるな」
これが角持ちの魔族の懸念だった。
勝つのは当然。
問題は勝ち方だ。
人類を根絶やしに出来ないなら、勝利に意味がない。
そこまでしたくなる程、角持ちは人類を憎悪している。
他の魔族もだ。
どの魔族にも人類への敵愾心がある。
生かしておくのを苦痛に感じる程の。
存在を感じるだけで憤りがこみ上げるほどの。
理由は魔族によって様々だ。
傷つけ甚振る事に歓喜を見いだすから。
ゴミのような汚物と見なして嫌悪するから。
勢力の拡張の邪魔になるから。
他にも様々な理由があるだろう。
このあたりは個体差がある。
角持ちの場合は、嫌悪感だった。
人間を見下してるである。
これは、人間と魔族が似通ってるからというのもある。
魔族と似ている、しかし魔族ほどの能力や才能を持ってない。
魔族ほど強くない。
これが許せない。
魔族と似ていながら、魔族より劣る。
そんな存在がいる事が許せない。
角持ちと似た姿を持ちながら。
自分と似ている存在がだ。
それが大きく劣る。
そんな連中と同類扱いされる事が許せない。
いびつな同族意識と言える。
同じ存在ならば、同じ程度の能力であれ。
それが劣るならば、自分もその仲間とみなされて劣った存在扱いされる。
誰が言わなくても、角持ち自身がそう感じる。
だから許しておけなかった。
みんな仲良し病。
みんな一緒病。
角持ちの心理をいうならこうなるだろう。
皆という集団で一つの人間とみなす。
そこにいる人間全員が同質・同水準の存在である。
角持ちにはこうした意識があった。
この中には人類も含まれていた。
だから人類を憎悪していた。
魔族に届かない水準の存在。
それだけで皆という集団の水準を下げる。
角持ちはこの皆の中に自分も加えていた。
だから水準を下げる人類が許せなかった。
そういって良ければ、ナルシストといえるだろう。
自己愛性パーソナリティ障害。
これ故に、自分を引きずり下ろす劣った存在が許せない。
だが、自分の優位性を確認するために劣った存在がいないと困る
だから集団を作ろうとする。
この矛盾する性質を牛の角をもつ魔族は抱えていた。
自覚と無意識の部分を重ね合わせて。
それでも角持ちの魔族は人類への憎悪と嫌悪をたぎらせて。
確保した兵力で人々を殲滅しようとする。
それを完璧にはなしえぬ事に苛立ちつつ。
今は出来る事を出来る範囲で成し遂げる事にした。
自分の心に大幅な妥協をして。
これが彼のナルシストな部分を刺激する。
己の思い通りにならない事に腹をたてながら。
「どうしてこうなった────」
大幅な狂いが出てる予定に。
そうなった理由が分からないから余計に頭にきていた。
自分の思い通りにならない。
それは虚栄心と誇大妄想の持ち主にはたえられない。
憤死寸前まで怒りがこみ上げてきている。
それをどうにか抑えて、角持ちは今できる最善をなそうとしていった。
己の故のない憤りのために。
気に入ってくれたら、ブックマークと、「いいね」を




