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50 ソウマの魂胆と思惑

 迷宮の主を倒す。

 そう言われたからだろう、オトハとサユメの口数は減った。

 迷宮を消した後も。

 帰りの車の中でも。

(そりゃそうだよな)

 それも当然とソウマも理解はしている。



 ただ、沈黙するよりも、どうやって戦うかを語ってもらいたい。

 黙ってるだけで時間を費やしてるのだし。

 もう少し積極的になってもいいんじゃないかともソウマは思う。

 とはいえ、こればかりは一人一人の胆力や、修羅場をくぐり抜けた場数による。

 無理強い出来る事ではない。



「ねえ、兄ちゃん」

 重苦しい沈黙を破り、サユメが尋ねる。

「兄ちゃんはさ、どうして隠してんの?」

「ん?」

「隠れて迷宮を壊してるのはなんでかなー、って思って」

「ああ、それか」

 そう考えるのも当然か、そう思ったソウマは簡潔に答える。

「面倒だから」



「面倒?」

 出てきた答えにサユメは怪訝な顔をする。

 黙って聞いてるオトハも不思議そうな顔をする。

 面倒とはなんなのだろうと。



「これだけ一気に蹴散らせばさ、嫌でも騒ぐだろ」

 簡単に迷宮を攻略する。

 それが出来る人間がいると知ったら、多くの人はどうするか?

「俺に仕事を押しつけてくる」

 そうなるのは明らかだ。



 人は怠け者だ。

 仕事をしたくないというのが大半だ。

 だから、仕事が出来る者に押しつける。

「お前は優れてるんだから」

「お前は金を持ってるんだから」

 能力があるならやれと。

 義務という強制をしてくる。



 それでいて、嫉妬する。

 あるいは恐怖を抱く。

 自分より優れてる事に憤りを感じ。

 自分より優れてる者が危害を加えてくると。



 そんな人間に力を見せつけたらどうなるか?

 ソウマに危険な仕事をやらせようという連中が大量発生する。

 昨日まで気のいい人間だったものが、猛り狂いながら仕事をさせようとしてくる。



「そんなのごめんだ」

 そういう場面を幾つも見てきた。

 小さなところから大きな事まで。

 様々な出来事から、ソウマは人間の本性を見いだしてきた。



 そんなこれまでの経験から、ソウマは警戒していた。

 己の力を見せる事を。

 だから地味な能力であるように見せかけていた。

 それでも、収容空間という能力は絶大なものではあるが。

 単に荷物運びとしても、十分以上に強力だ。

 現在地や敵の存在を探知する能力だけでも、十分すぎるほどに便利である。



 それだけでもソウマは求められた。

 古巣の旅団からは、退団しないでくれと望まれた。

 これがより強力な能力を持ってると知ったらどうなるか?

 より多くを求めるだろう。

 少なくとも期待はする。



 こうした勝手な期待を袖にしたら、人は腹を立てる。

 不意にした者に怒りを抱く。

 勝手な事だ。

 やらねばならない義務など何もないのに。



「そういうのが面倒だから、こうしてコソコソ動いてんだよ」

 隠れて活動する。

 見えないところで怪物を倒す。

 そうして稼いでいく。




「それに、目立ちたくないからな」

 これが一番の理由である。

 ソウマに自己顕示欲はない。

 承認欲求ともいうのだろうか。

 自分の姿を見せつけたいとか、賞賛をあびたいとかは全く思わない。

 なんでそんな事をしなくちゃいけないのか分からない。



 目立てばそれだけ不利にもなる。

 どこに居ても注目される。

 家にまで押しかけられる。

 そんな生活などまっぴらだった。



 だから隠れて行動している。

 稼ぎはたくさん欲しいが、自分を露出してまでとは思わない。



「こうやって気楽に車を走らせながら稼げればそれでいいよ」

 気ままな風来坊。

 そんな生活がソウマの理想だ。

 豪奢や贅沢もしたいが、それは気楽さを犠牲にするものではない。



「というわけで、こうして隠れてコソコソやってる」

 そういって説明を締めくくる。

「だから、もっと強い奴を育てて、そいつに活躍してもらう。

 そうすりゃ、俺が頑張る必要はなくなるからな」

 ここでソウマは話を迷宮の主退治に戻していく。



「お前らが強くなれば、俺が頑張らなくてもいい。

 期待を受ける人間が増えるからな」

 ソウマとしてはこれが伝えたい事だった。

 なので、サユメが始めた話しにのった。

 迷宮の主退治の緊張を誤魔化そうとしてるのを感じ取りつつも、

 そうと分かっていながら、敢えてそれに応えていった。



「……だから私たちに?」

 オトハが尋ねていく。

 その為に、ソウマが表に出ないようになるためにレベルを上げていたのかと。

「そういう事」

 ソウマはあっさりと認めた。




「強い人間をたくさん作る。

 そうすりゃ、俺を頼ろうとしなくなる」

 全員が強ければ、期待をかける先が分散する。

 押しつける相手が増える。

 ソウマ一人が背負わされる事はない。

「だから、お前らにやらせる」



 一番の問題は、誰を強くするかだ。

 ソウマの事を言いふらす人間では困る。

 口の堅い、信じても良い人間を選ばねばならない。

 そこでオトハとサユメである。

 この2人なら信じてもよいとソウマは考えている。



「だから頑張ってくれ」

 軽い調子で言うソウマ。

 その声に、

「はあ……」

「うーん」

 オトハとサユメはどう答えるべきか悩んでしまった。



(もっとも……)

 考え込んでる2人をよそに。

 ソウマはそこまで問題を大きく考えてはいなかった。

 たしかに人間は我が儘で鬱陶しい存在だ。

 しかし。そんな警戒が必要の無い世の中ではある。

 問題のある人間は既に消滅してるのだから。



 この事については口をつぐみつつ。

 それはそれとして強い人間を育てていく。

 レベルの高い人間がいれば楽が出来る。

 これも偽りのない事実なのだから。


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