5 こんな悲惨な世界では危険が常につきまとう、だから商売も成り立つわけですが
「それじゃ、必要な手続きをしておこう」
オトハと職員を促し必要な書類を作成していく。「新人を押しつけたんだから、職員も手伝ってくれるよな」
「ええ、それはもう」
面倒を押しつけた組合側にもしっかりと仕事をしてもらう。
探索者組合は所属する探索者の状態を出来るだけ把握しようとしている。
登録はいつで、どのような仕事をこなしてきたのか。
成功と失敗はどれくらいなのか。
仕事を割り振る上でこうした情報は欠かせない。
手間がかかるのが難点だが。
これらを終えて、ソウマは独立を申請。
同時にオトハを仲間として登録した。
たった2人だが旅団がこうして結成された。
これが終わると、ソウマは早速仕事の依頼に目を通していった。
自分が扱える、自分だからこなせる仕事を見つけるために。
ついでだからオトハにも手伝わせる。
「荷物運びの依頼で、村や町への配達を扱う仕事を選んでくれ」
指示を出して依頼票を探っていく。
「……こういう仕事でいいの?」
作業中にオトハが尋ねてくる。
疑問はもっともだ。
ソウマが指示した仕事は、割の悪いものといわれてる。
荷物は少なく、料金も安い。
大手だったら赤字になるから引き受けたがらない。
小規模な運送業ですら避けようとする。
オトハですらもこれくらいの事は分かる。
しかし、ソウマにとっては都合がよい。
「大丈夫、これでいい」
オトハの疑問にこたえるように、説明が続く。
「確かに安いし危険だ。
普通ならやらないだろうよ。
でも、必要な事だからな」
聞いてオトハは頷く。
確かにその通りなのだから。
「大災害からこっち、都市の外への物資輸送は大変になってるからな。
特に小規模な農村とかだとな」
その通りである。
およそ10年前。
怪物が出現して人類の8割から9割が失われたと言われる日。
大災害と呼ばれるこの騒乱から、世界の多くは人類にとって危険地帯となった。
出現した怪物は人に襲いかかり殺す。
これらをどうにか退けた人々は、都市部を中心に集まり、怪物と戦い続けてる。
さすがに怪物も武装した人間が多く集まり都市を攻略するのは難しい。
だが、それ以外の多くの場所は、怪物が跳梁跋扈する危険地帯となってしまった。
とはいえ、都市部だけで全てがまかなえるわけもない。
資源の採掘地や農場など、都市の外で生産しなくてはならないものもある。
こうした場所では当然様々な物資が必要とされる。
なのだが、こういった場所はどうしても人数がすくない。
運ぶ量も少なくなるし、運送料も下がる。
それなのに怪物に襲われるので、危険も大きい。
割に合わないのだ。
「だけど、俺ならどうにか出来る」
そう言ってソウマは選んだ依頼票を持って受付へと向かう。
どういう事だろうと思いながらも、オトハはその後ろについていった。
依頼を受けたソウマは、荷物の置いてある倉庫へと向かう。
そこには、伝票が貼り付けられた荷物がおかれていた。
いずれも小口だが、集まると結構な量になる。
それを見て、ソウマは自分の能力を使っていく。
すると、積み重なっていた荷物が消えた。
「──収容空間」
オトハが能力を言い当てる。
様々な物品を別の空間に格納する能力。
「正解」
ソウマの返事がオトハの考えが正しいことを明らかにする。
「これがあれば、荷物を運ぶ手間を考えなくて済む」
それは運送を営む上では大きすぎる利点だった。