42 迷宮の中心にそびえる巨木の伐採作業、迷宮の主は死ぬ
迷宮のボスの姿は様々だ。
鬼や獣人のような人間型の場合もあれば。
人面獣や人面虫のような、人と生物の融合型も。
完全な獣や虫になってるものも。
あるいは植物のものも。
こうした特徴を渾然一体とした合成獣も。
これらは迷宮によって違う。
「ここはこうなってるのか」
そう言ってソウマが見つめるこの迷宮の主は、巨大な樹木だった。
樹木の大きさは、高さ104メートル、幹の直径が30メートル。
【時空】による空間把握能力で確認したのは、まさしく大樹だった。
その巨大な幹から、多くの太い枝を伸ばしている。
枝には葉と花を咲かせて。
異様なのはその花だ。
花びらの中心に人の顔が浮かんでいる。
人面花。
あるいは人面樹。
そう呼ぶべき怪物。
怪樹や妖樹と呼ばれる植物型の怪物。
それが迷宮の中心にそびえ立っていた。
このいくつもの顔がソウマを見つめる。
無表情に、淡々と。
硬質な樹皮故か、表情は動かない。
感情も意図も読み取れない。
だから、かえって不気味だった。
そんな妖樹だからだろう。
平原のような迷宮が出来上がったのは。
樹木が生い茂るのは平原や森林だ。
だからこの巨大な妖樹は、野外のような迷宮を生み出したのだ。
「らしいなあ……」
なるほどとソウマは納得していった。
そんな樹木に咲いてる人面の花。
それらがソウマ達を見つめる目に意思が宿る。
目にうつる存在が敵なのだと理解したのだろう。
侵入し、怪物を倒し続けきた敵だと。
表情のないままの顔とは別に、瞳には怒りと憎しみが宿っていく。
それだけでソウマ達は察した。
変わらぬ表情のままにらみつけてるのだと。
そんな人面花の顔が、次々に超能力を放っていく。
この花の一つ一つには意思や知恵がある。
それらは個別に様々な超能力を発現し、攻撃をしかけていく。
石つぶてを作って放ち、氷の塊をぶつけ、火炎を発生させる。
更に別の顔は、口から花粉を吐き出していく。
催眠、しびれといった効果をもった、人間にとっての毒を。
これらを超能力の風にのせて、毒ガスのように叩きつけていく。
備えがなければ吸い込むだけで死に至る可能性があった。
「はいはい」
だが、ソウマからすればどうという事もない。
まず、自分とオトハとサユメの周りを空間で遮断する。
球体状に己と仲間を囲む空間を作る事で、あらゆる攻撃を遮断していく。
空間そのものに断絶した層を作る事で、外部からの影響を間然に防いでいく。
そして空間の刃で巨木である敵をまとわりつかせていく。
巨大で太く頑健なその巨体を切り倒すために。
それは一瞬にして行われ。
巨大な怪物は、瞬時に横倒しにされていった。
文字通りに、地面へと。
「え?」
「ん?」
見ていたオトハとサユメは何が起こったのか分からなかった。
ただ、いきなり目の前に何かが落ちてきて。
それが終わるや否や、巨木の怪物は地面に倒れていった。
土台となる根っこの部分を失って。
この間、1分も経ってない。
このわずかな時間に何が起こったのか?
オトハとサユメには全く理解が出来なかった。
しかし、ソウマがやった事は単純だ。
根っこから掘り起こして、倒した。
ただこれだけである。
まず、こういった植物系の怪物を倒す手段はいくつかある。
燃やしてしまう事。
除草剤などで枯らしてしまう事。
そして、切断してしまうこと。
目の前にそびえたつ巨木型の怪物も例外ではない。
ソウマがとる手段は、切断だ。
それも己の能力を使ったやり方で。
まず、目の前の巨木の怪物。
これの全体像を【時空】の超能力で把握していく。
表に出てる部分だけではない。
土の下に隠れてる根っこの方もだ。
空間を把握するのがソウマの超能力だ。
隠れていても見通す事ができる。
直接触れなくても、そこに手を伸ばす事が出来る。
直接相手の急所を攻撃できる。
土という天然の防壁など無意味にしてしまう。
そんなソウマは、【時空】の能力で根っこの広さと深さを見通して。
それらを転移で引きずりだしていった。
細切れにして地上に。
地上に突然あらわれたのはこれだ。
無分別に散らばる根っこは、地面に転がるそばから塵や霞のように分解されて消えていく。
怪物の死体らしく。
それを見ていた人面花の瞳に驚愕が浮かんでいく。
散らばってるのが何であるかを理解して。
己の体が足下から消えていってるのを実際に感じて。
このままでは倒れこんでしまうと察して。
人面の花におびえの色が浮かぶ。
あわてて攻撃の手を強めていく。
炎が、暴風が、毒となる花粉が激しく舞い上がる。
何とか自分を苛んでる目の前の敵を倒そうとしていく。
しかし、それもソウマの作り出した空間の防壁に阻まれる。
「…………」
そんな人面花の、巨大なる妖樹のあがきを、ソウマは無言で見つめていた。
どこまでもさめた目で。
無駄な事を、そう思いながら
人面樹に対抗する術はない。
空間に直接作用するソウマの攻撃は物理的なものではない。
それだけに防ぐ手段がなく、されるがままとなってしまう。
どうにかするには、ソウマを倒すしかない。
だが、巨木の怪物にはその手段がない。
徐々に根っこが削られ、幹の方までのぼってくる。
そして、地表から出てる部分も切断されて。
太く長い幹は横に倒れていった。
それは明確な巨木の死を意味した。
枝葉や花、太い幹を失っても植物は死に絶えるわけではない。
根っこが残ってれば再生もできる。
だが、肝心な根を失ってしまってるのだ。
もう再生する事も出来ない。
長くのびた幹が、重力にひかれて倒れる。
最初はゆっくりと。
しかし確実にずれ込んでいき。
最後には、勢いをつけて地面に横倒しになっていった。
いくつもの枝が下敷きになる。
巨体の重みでそれらは次々に折れていく。
巻き込まれた人面花もつぶれていった。
どす黒くなった赤い樹液をまき散らしながら。
他の部分も無事では済まない。
失った幹の基礎の部分から分解が始まる。
霞のように、靄のようにだんだんと消えていく。
その様を見て、残ってる人面花の目が見開かれる。
嫌でも理解してるのだ。
今はまだ到達してないが、やがて自分たちのところも同じように消えていくと。
それ所の恐怖が人面花を襲う。
それは花一つ一つの意思であるだけではない。
倒れた巨大な妖樹そのものの意識でもある。
それぞれが別々の意思を持ちながら、しかし枝と幹でつながった一つの意識をもってるのだ。
その意識が一つ一つの人面花に思いを表出させていた。
死にたくない、消えたくないと。
そんな思いをくみ取るものなどいるわけもなく。
人面樹は伐採され、消滅していった。
最後は怪物らしく、霞のように消えて。
「わあ……」
「…………」
その様子を、サユメとオトハは呆然と見ていた。
2人からすれば、あっという間の出来事だった。
人面樹が攻撃を仕掛けてきた、と思ったら、次の瞬間には地面から生えてた部分が消えさった。
そのまま巨木は倒れていく。
ただ、それをソウマがやった。
これだけはわかった。
どうやったかまでは分からなかったが。
その説明をソウマから聞くと、更に2人は呆然とした顔をしていった。
「すごい……」
「はい……」
普通なら時間をかけて倒す事になるボス。
それをあっさりと瞬殺。
それを見て2人はそれ以上何も言えなくなった。
同時に迷宮も最後を迎える。
中枢を失ったゆえに。
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