39 怪物を倒すことで迷宮を削っていく
容赦のない圧倒的な殲滅。
次々に倒されていく怪物。
そこには多少の思惑もある。
「ついでに怪物も減ればありがたいし」
迷宮に限らず、一定の濃度をもつ悪意溜まりは怪物を出現させる。
悪意が凝縮して怪物を産み出す。
迷宮ならなおさらだ。
悪意が凝縮して形になった場所だ。
その悪意がさらなる悪意を生んでいく。
発生した怪物が悪意を放ち、迷宮をより強固にしていくからだ。
迷宮が怪物を生み、怪物が悪意を生む。
この循環が迷宮をより強固に、巨大に成長させていく。
怪物も同じだ。
悪意で発生するのが怪物だ。
悪意の塊である迷宮は、この怪物を産み出す孵化器である。
怪物の母体といっても良い。
そんな迷宮である。
悪意がつきるまで怪物を発生させ続ける。
ならば、だ。
発生が追いつかないほど怪物を倒していく。
最後の悪意が消え去るまで。
こうなれば、もう怪物も出てこない。
言うは易しである。
出来ることならとっくに誰かがやっている。
迷宮にいる怪物は数多く、その全てを殲滅する事など不可能に近い。
小鬼程度なら出来るかもしれないが、高レベルの強力な怪物はそうもいかない。
この為、迷宮攻略はボスと呼ばれる怪物を倒す事が基本となる。
ボスを倒せば迷宮も消えるからだ。
ただ、ソウマは違う。
迷宮のどこにいようと怪物を見つける事が出来る。
その怪物の所に瞬時に転移が出来る。
見つけた怪物は即座に始末出来る。
それがどんなに強力な怪物でもだ。
こうして迷宮内の怪物を倒していき。
次の怪物が出現するのを待つ。
そして迷宮の中で怪物が出現したら、それを倒していく。
ゲームのリポップ、敵の再出現待ちのようなものだ。
その場にいる怪物を倒したら、次の怪物が出るのを待って倒す。
経験値稼ぎに調度良い。
迷宮削りにもなる。
迷宮は己を形作る悪意を使って怪物を発生させる。
ならば怪物を作り出せば作り出すほど迷宮は縮小していく。
悪意を再生産してくれる怪物が消えていくのだから。
これを続ける事で、迷宮は己を保てなくなる。
減少した悪意の分だけ縮小していく事になる。
ソウマが狙ってるのはこれだ。
迷宮に怪物を吐き出させて縮小させる。
迷宮そのものを徹底的に弱体化させる。
怪物を次々に作らせ、経験値にしていく。
容赦のない搾取である。
だがソウマは気にしない。
相手は怪物で迷宮だ。
悪意の塊だ。
放っておけば悪さをする。
誰かに危害を加える。
そんな存在にかける情けはない。
恩を仇で返す輩なのだから。
そんな迷宮から最後のひとしずくまで絞り尽くすように、怪物を作らせていく。
次々に出現する怪物を倒していく。
その都度、迷宮は削られていき、徐々に縮小していく。
対照的に、オトハとサユメのレベルは上がっていく。
次々に倒される怪物が霊気結晶になって。
なにせ、出現した瞬間にソウマが倒すのだ。
そして、あらわれた霊気結晶は回収されてオトハとサユメの前にでてくる。
「本当にいいのかな、こんな楽をして……」
「そうですね……」
あまりにも楽に経験値を手に入れ、レベルがあがる。
ありがたいが、これで良いのかと思うのも当然である。
「いいの、いいの。
楽して儲けろ」
ソウマは全く気にせずに答えていく。
「苦労しなくちゃいけないなんて、間違ってんだから。
楽して儲けるのが基本。
その為に工夫を重ねていくもんなんだから」
おおよそあらゆる作業はこういうものである。
最初は手探りで初めて、効率の悪い作業をしているものだ。
それを知恵を使い、経験を重ね、工夫をしていき、手間や負担を減らしていく。
費やす労力を減らしても、成果は今まで以上になるようにしていく。
「だから楽してる事に罪悪感を持つな。
それが正しいんだから」
「そうかなー」
「…………」
釈然としないサユメ、その隣でオトハも首をかしげる。
これでいいのかと。
だが。ソウマがやってくれと言ってるのだ。
なら受け入れる事にする。
本人が納得してやってるのならば、他人がどうこう言うものではない。
「それに、2人が強くなれば俺の手間も減るし。
これはその為の投資だ」
「うーん」
「はあ……」
これまた2人は釈然としないものを感じた。
ならば期待に応えようとは思うが。
そんな2人が悩んでいる最中も、霊気結晶は届けられる。
次から次へと。
それを前にして2人は悩みながらも手をつけていく。
放っておくのももったいないし、ソウマの気持ちを無下にするわけにもいかない。
「それじゃあ」
「いただきます……」
手を合わせて礼を言いながら、2人は霊気結晶を使って、霊気を己にとりこんでいった。
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