31 そして怪物はいなくなった、でもどこへ?
「いないな、怪物」
「いませんね、怪物」
周囲の空間を、周囲の音を。
それぞれ拾っていくソウマとオトハは、様子が違っている事に気づいていった。
いつも通りの配達をして。
そのついでに怪物退治の依頼をこなそうとして。
そこで気づいてしまう。
怪物が消えてる事に。
普段は都市から村へ、そして町へ。
更に村から村へ、町から町へ。
移動してる間に1回は襲撃を受けるもの。
しかし、この時の配達ではそういう事は一切無い。
それどころか。
「怪物が消えてんだよ」
怪物退治に赴いたらこれである。
倒して欲しい怪物の姿がない。
おかしいと思った地元の自警団が周辺を捜索したが、やはり見当たらない。
「まあ、隠れてるだけかもしれん。
念のために確認してきてくれ」
怪物退治の依頼はそのままに、念のための確認を頼まれる。
断る理由もないので、ソウマ達は目撃情報のある場所を。
そして、更に広い範囲を出来るだけ探っていく。
それでも怪物の姿はない。
「音はないです」
オトハが周りを探っても、それらしい音がない。
ソウマも周辺を探知するが、それらしい気配はない。
せいぜい野生の動物の姿があるかどうかだ。
怪物が放つまがまがしい霊気、悪意の存在は見当たらない。
「足跡はあるんだけどねー」
サユメも自分の見た痕跡を伝えていく。
ソウマやオトハと違い、超能力での探知や探索は出来ないサユメではある。
しかし、これらに頼らない調査・追跡能力を身につけている。
奇襲攻撃に必要だからだ。
相手の気配を察知する。
足跡を見つける。
姿を隠せそうな場所を見つけて、逆にそこを襲撃する。
わずかな痕跡をたどって相手を追跡する。
こういった技術や知識に磨きをかけている。
そんなサユメの見立ては、時にソウマやオトハの探知能力を上回る。
そこに何かがいれば、2人の方が有利だ。
しかし、既に立ち去ったあとだと2人の能力はほとんど何の意味もなくなる。
いる者を、ある物を見つけるのが主な能力だからだ。
しかしサユメはそうではない。
どうしても残る痕跡。
これを見つける事が出来る。
それでも、こういった事が出来る超能力には劣るが。
しかし、残ってる何かを見つけ、それを探る事は出来る。
「行ってみるか」
そう言ってソウマは、サユメが見つけた痕跡をたどる事にした。
怪物がいてもいなくても、依頼者に報告はしなくてはならない。
その為の情報を集めねばならない。
そうして30分。
サユメを先頭にして足跡をたどり。
それでも怪物の姿を見つけられず。
ソウマ達は結果を報告した。
「そうか、分かった」
依頼者はそう言って報酬を支払ってくれた。
怪物はいなかったが、いないならそれでいい。
それでも、調査はしてくれたし、それで姿が見つからないなら仕方ない。
だが、調査費用として、怪物退治の費用は払うという。
「ありがとうございます」
依頼料の2万円を受け取り、ソウマは頭を下げた。
サユメとオトハも同じく頭を下げた。
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