20 押しかけ団員を断る術はどこで売ってますか?
オトハを案内した翌日。
探索者組合に呼び出されたソウマは、受付へと向かった。
そこで。
「お前の所に入れてくれって要望がきてるぞ」
「その要望です!」
サユメが元気よく手を上げていた。
「痛いいいいいいいいいいいいい!」
にぎった拳から、中指の関節を突き出す。
その突き出したとがった部分で、サユメのこめかみを左右から挟む。
当然、霊気で強化して。
その結果が、ほとばしる悲鳴である。
「何をやっとる!」
「だから、兄ちゃんのところに押しかけたんだよ…………って、痛い痛い痛い痛い!」
「痛くしてやってんだ、ありがたく思え」
「なにも!
ありがた、く!
ないいいいいいいい!」
組合の受付前で悲鳴が響き渡る。
「あー、五月蠅いからどっか行け」
仕事の邪魔にもなるので、受付前で騒ぐ二人を職員は追い払った。
「それで、なんでわざわざ来た?」
「ううううう……、まだ痛い」
「もう少し痛くしてやろうか?」
「ごめんなさい、ごめんなさい!
もう勘弁してください、オダイカンさま」
「だったら白状しろ。
嘘や隠し事はなしだ」
涙目のサユメであるが、ソウマは何一つ容赦しなかった。
「いやあ、兄ちゃんは昨日言ったじゃん」
「なにをだ?」
「怪物退治をしたいって」
「そうだな」
「それで、戦力が無いとおっしゃっておりました」
「まあな」
「そ・こ・で!」
ここでサユメは一言ずつ強調した。
「旅団のエースであるこのボクが仲間になろうと────」
「なぜだ!」
ソウマ、たまらず怒鳴り声をあげる。
「いや、だって。
戦力があれば怪物退治するって事っすよね?」
「そりゃそうだ」
「でも、今は戦力がない」
「そうだな」
「だから、補強としてボクが助っ人として参加するんすよ」
「わざわざ来る必要ないだろ」
ありがたい話だが、サユメがやってくる理由がない。
ソウマがいた旅団は、決して大手ではない。
だが、中堅どころとして手堅く活動をしている。
危険は避けられないが、その中で確実に利益を出し、生き残ってきている。
探索者の生還率や生存率がこれを物語ってる。
大手のように華々しい活動はない。
最強格のように誇れる逸話もない。
だが、地味に地道に着実に成果を出している。
ここに一目置かれてもいる。
特に生きて帰る可能性の高さから、新人からの人気は高い。
死傷率の高い仕事だ。
生き残るための方法を誰もが求めてる。
それを成し遂げてる旅団に入りたいと思うのは当然だ。
そんな旅団をわざわざ飛び出す理由がない。
全体のレベルも上がり、大きな仕事にのりだそうとしている。
それを見てソウマは、自分が関わらなくても大丈夫と思って独立したのだ。
これから躍進しようとしている注目株。
そこをわざわざ抜け出して、独立開業したばかりの零細にすらならない個人事業主。
そんな状態のソウマの所にやってくる理由がない。
「悪いことは言わん、帰れ。
お前なら旅団で大活躍が出来る」
「でも、もう団長とは話しをつけたっす。
今更帰るのもばつが悪いんで」
「頭下げて、土下座して、靴でも尻穴でもなめて復帰させてもらえ!」
「いやあ、さすがにそこまでは。
兄ちゃんになら体の全てを捧げて媚びへつらうのもやぶさかじゃないっすけど」
「さっさと帰れ!」
ソウマの怒声は更に膨れ上がる。
「でも、兄ちゃんが拾ってくれないと、ボクは路頭に迷うっすよ」
「だから、戻ればいいだろ」
「そうなったら、一人で迷宮をさまよう事になるっす。
怪物に殺されるかもしれないっす」
「殺しても死なないだろうが」
「それか怪物に生け捕りにされて、エッチな事や破廉恥な事をされちゃうかもしれないっす」
「それが嫌なら旅団に帰れ」
「一人で動いてるボクを見て、心ない同業者が手籠めにするかもしれないっす」
「そこまで悪趣味な奴はいないから安心しろ」
「ほら、ボクって性格はともかく、見てくれは割と美少女じゃないっすか」
「……まあな」
不承不承、ソウマは認める。
たしかにサユメはかわいい。
悪ガキ・エロガキ、次点でメスガキ属性を持つ美少女だ。
男っぽい口調や態度も、ボーイッシュで魅力的。
悪い大人が手を出す可能性は十分にある。
また、怪物が殺さずにお楽しみとしてとっておく可能性も高い。
人間型の怪物には、女を捕まえてお楽しみに使う奴らもいる。
こういう連中は女の中でも見目の良いのを選ぶ傾向にある。
「そうさせないためにも、ここは兄ちゃんが引き取るしかないんすよ」
「旅団に帰るという選択肢は?」
「あるわけないっす」
きっぱり言い切るサユメに、後悔や躊躇いはない。
「俺が断るとは思わないのか?」
「ないっす」
これまたはっきりと言い切る。
「困ってる人を見捨てられないお人好しの兄ちゃんじゃん。
飛び出して押しかけたボクを捨てるわけないじゃないっすか」
「…………」
言い切られて言葉もなくなるソウマ。
ため息だけがただただ口から漏れた。
「というわけで、よろしくお願いするっす」
「はいはい……」
嘆きながらソウマは押し切られた。
経営状況は厳しいが、人手があるのはありがたい。
それにサユメの能力なら外でも問題ないのは分かってる。
なによりも気心がしれている。
「あ、それと」
「ん?」
「お相手はお風呂が終わって、新しい下着を着けてからにしてほしいっす」
直後、再びサユメのこめかみがソウマの拳ではさまれた。
「痛いいいいいいいいいいいいいいい!」
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