13 怪物を見つけて倒す、これぞハック・アンド・スラッシュ(のはず)
「おう、いるいる」
車の中から転移したソウマは、目の前にいる敵の姿に呆れる。
そこかしこに潜んでるのが怪物だが、それが固まっていると嘆きもぼやきも出て来る。
「まーた溜まりをつくって」
言いながら目の前の怪物の巣窟にうんざりしていく。
超能力で怪物が集まってるのを見て、おそらくはと思っていたが。
実際に怪物が集まってる場所を見ると気分が悪くなる。
怪物へのおぞましさもさる事ながら。
こういう場所にある独特の雰囲気に。
それを言い表すならば、瘴気や毒気とでもなろうか。
まともな生物なら嫌悪する何かがそこにある。
あえて共通点を言い表すならこうなる。
悪意と。
そんな悪意が集まったところに怪物がいる。
あるいは、怪物が集まったから悪意が密度を増している。
怪物とは世界にひろがった悪意によって発生する。
そんな悪意がとくに溜まりやすい場所に怪物は集まる。
また、悪意の塊である怪物が集まることで、そこに悪意が溜まる。
鶏が先か、卵が先か。
それは分からない。
だが、今となってはこのどちらもが成り立つ。
怪物と悪意、どちらかが集まれば、もう片方も発生するのだから。
そんな悪意溜まりというべき場所に怪物がいる。
放っておけば繁殖して人々を襲う。
なので、見つけ次第始末する事が求められる。
ただ、怪物が集まってるので簡単にはいかない。
普通はそれなりの人数で対処するものだ。
そんな怪物溜まりに、ソウマは一人で向かっている。
一般的な常識に照らし合わせれば、無謀や無茶である。
自殺といってもよい。
だが、ソウマは全く気にするそぶりもない。
そんなソウマに、怪物共も目を向けていく。
いずれも120センチほどの背丈の人型。
怪物の中で最もよく見る最弱の敵だ。
これらが大半である。
だが、中には何体か体格の優れたものもいる。
背丈は180センチにもなろうという個体。
体の分厚さ人間以上。
こんなものが6体。
さらに、背丈はは170センチと極度に多くはないが、頭の形が特徴的なものがいる。
それは口や鼻の部分が更に突き出て、犬そのもののようになってる。
「小鬼に、鬼に、狼人間か」
いずれも姿形から人がそう呼ぶようになった識別のための名前だ。
伝承や怪談、おとぎ話からとられてる。
そんな怪物共がソウマに向かって警戒と敵意を向けていく。
そんな怪物の足下の地面が消えた。
突然、巨大な穴があらわれる。
全部で50体ほどの怪物が全て飲み込むくらいの。
深さ20メートルまでの地面が一瞬にして消えた。
虚を突かれた怪物共は、逃げる事も出来ずに落ちていく。
人間に比べれば強靭な怪物だが、さすがに無傷とはいかない。
位置エネルギーと地面の固さが容赦の無い衝撃として襲う。
開いた穴の底で衝撃音と悲鳴があがる。
小鬼は墜落の衝撃に即死するものもあらわれる。
それを免れても致命傷はさけられない。
怪物達の中で最も数の多かった小鬼は、この時点で潰えていった。
残りの怪物も例外ではない。
小鬼よりはるかに頑強な鬼も、さすがに20メートルの高さを落ちて無事ではいられない。
即死は免れたが、落下から穴の底への激突の衝撃ですぐには動けない。
180センチを超える、分厚い筋肉の巨体が
穴の底でもだえてる。
狼人間と言われた鼻と口の部分が突き出た怪物も同じだ。
こちらは鬼ほど体力や頑強さはないが、そのかわりに俊敏さを持つ。
総合的な戦闘力では鬼を上回るとすら言われてる。
そんな怪物も、穴の底でのたうち回る。
なまじ耐久力や剛健さがなかったために、受ける痛みは鬼よりも大きい。
小鬼ほどではないが、息も絶え絶え。
かろうじて生きてるだけだ。
そんな怪物の様子を、超能力で探りながら、ソウマは次の攻撃を繰り出す。
その場から動かず、超能力だけで。
その瞬間、怪物の体が二つに綺麗に切り裂かれた。
上半身だけ、下半身だけ。
右か左の半身だけ。
あるいは体の前面だけ、背面だけ。
それだけを残して、怪物は切断された。
そして。すぐ次の瞬間、失われた半身が穴の中にあらわれる。
切断された怪物どもの真上に。
重力に従って落下したそれらは、怪物共の死骸として転がっていく。
50体の怪物は、こうして瞬時に殲滅されていった。
そんな怪物の死骸は霞のように消えていき。
その場に霊気の塊である結晶が残った。
その結晶も瞬時に消えて。
その場に元の大地が戻っていく。
わずかなズレはあるものの、穴の分だけ消えていた大地は元に戻った。
「こんなもんか」
怪物を倒して手に入れた結晶を収納空間の中で確認する。
小鬼がほとんどとはいえ、若干強いものもいたので質の高い結晶もある。
「少しは経験値になるかな」
オトハに使う分には丁度良いかもしれない。
ただ、どこで手に入れたのかを説明せねばならないが。
「まあ、そのうちだな」
全てを話すかどうかは状況を見て考える事にする。
やり直しはきくだろうが、慎重になって損はない。
そんな先の事よりも、いまは怪物の方を片付けねばならない。
近隣には同じように怪物が集まってる場所がある。
下手すればそのまま悪意が溜まる。
そうでなくても怪物が集まってるだけで脅威だ。
なるべく急いで片付けた方が良い。
この近隣の安全のために。
(経験値にもなるし)
どちらかというとこちらを求めて怪物の所へと向かう。
転移による瞬間移動で。