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11 ゲームを知らない子供達

「そうだよなあ」

 オトハの言葉に現実の厳しさを思い出す。

 確かにオトハの年頃だと、ゲームを知らない世代に入るだろうと。



 怪物が突然出現した大災害。

 これによって人類の8割から9割が失われた。

 当然、文明を維持する事も難しい。

 かろうじて生き残った者達は何とか現状維持に努めていったのだが。

 それすらも困難なのが今の状況だ。



 当然ながら生活に余裕はない。

 残ってる文明の遺産を使い、どうにか日々を過ごしてはいる。

 何とか生産設備を残そうとする。

 知識や技術を伝承しようとする。

 だが、手が届かない部分はどうしても出て来る。



 電化製品は壊れたら、もう修理は出来ない。

 不可能ではないが、出来る人間が少ない。

 修理を頼んでも、予約待ちの状態が続く。

 そもそもとして、資源の確保すら難しくなっている。



 救いなのは、超能力とレベルを手に入れた事。

 超能力で日常生活や怪物との戦いで有利な力を手に入れた。

 レベルを上げれば能力を底上げ出来る。

 能力が上がれば知識や技術を身につけるのも簡単になる。

 ここに超能力が加われば、より有利に事を運べるようになる。



 それでも生活が苦しくなるのは避けられない。

 残った人類だけで文明を維持するのは困難を極めた。



 このしわ寄せは子供達にも向かう。

 20世紀の文明水準をどうにか保つも、生活が苦しいのは変わらない。

 社会は労働力を求めるし、そうなると若年就労が当たり前になる。

 今では中学校を卒業する年齢になれば就職するのが当たり前になってる。

 高校や大学への進学は例外的な事になっている。



 そもそもとして、高校や大学で教えを垂れる事ができる人材が不足している。

 受け入れようにも、それが不可能になっている。

 専門学校などの職業訓練への進学がどうにか成り立ってるくらいである。



 だが、進学以前の就学すらも。

 それ以前の生活すら困難な者もいる。



 大災害では大量の孤児も発生している。

 これらを放置したわけではないが、何もかもが足りないご時世である。

 食わせようにも糧がなく、住まわせようにも家がない。

 しかも怪物の脅威が常にある。

 誰もがこんな状況なので、孤児を救うのもままならない。



 救う余裕が誰にもなかった。

 手を差しのべる者はいたが、満足な状況を与える事などできない。

 それでもまだ救われたならマシな方。

 失われた、こぼれてしまった多くもいたのだから。



 10年前にこれが起こった。

 以来、かつての余裕のある生活は失われた。



 当然、真っ先に削られるのは娯楽だ。

 漫画やアニメなどを楽しむ時間がない。

 これらを楽しむだけの時間などない。

 生活に追われ、どうにか日々を過ごすのに精一杯。

 誰もがこんな状態だ。

 娯楽を楽しむ余裕もない。



 そもそも供給していた作者達の大半が消えている。

 出版社やアニメ製作会社なども。

 インターネットは残っているが、ここに掲載するべき作品がない。

 生き残りもいるが、創作に時間をかける余裕など誰ももってなかった。



 ゲームなどの娯楽も同様だ。

 生き残った制作側の人間が少ない。

 仮にいたとしても、ゲームで稼ぐような状況ではない。

 娯楽よりも実用的な何かを作り出さねばならなくなっている。



 娯楽が不要というわけではない。

 人は楽しみを求める。

 しかし、それを楽しむ余裕は今の人類にはほとんどなかった。



 当時11歳だったソウマはゲームで遊んだ記憶がある。

 しかし、5歳だったオトハは触れる事すらなかった。

 ゲームに興味を持つ事もないほど幼かったのだ。

 だからゲームがなんであるのか分からない。

「ああ、そうか」

 ほんのわずかな時間の差で、世代間の違いが出てしまっている。

 遊びを楽しむことが出来た世代と、それがかなわなかった年代とで。



「なんかわりいな」

 ばつの悪さを感じ、ソウマは詫びの言葉を入れる。

「本当は、佐々波くらいなら、もっと遊んでるべきだったんだけど」

 そうはいかない時代になってしまった。

 15にもなれば働きに出なければならない。

 もっと若くして社会に出てるものもいる。

 そんな丁稚奉公や元服のような時代に戻ってしまった。



 それが当たり前になってしまった子供に、ゲームの話をする。

 ソウマくらいまでならば通じる共通体験。

 それがオトハにはない。

 それが可哀そうで申し訳なく思う。

 しかし、

「気にしないでください」

 オトハの方も気を使っていく。



「大変なのは誰も同じ」

 オトハも今がどういう状況なのかはわかってる。

 誰にも余裕がない事を。

「生きてるだけで十分」

 オトハも自分がかろうじて生きている事を理解している。

 今はそれだけ幸運なのだと。

「だから、仕事をがんばろう」

「……そうだな」

 その心意気にソウマも応じる。



(けど)

 それでも思う。

(そうやって頑張らなきゃいけないのが間違ってるんだよな)

 怪物に脅かされる世界。

 これが良いわけがない。

 確かに生き残れたのは幸運だろう。

 しかし、幸福ではない。



 怪物が消えさるまでこの状況は続く。

 いずれ解決するにしても時間がかかる。

 それまでは、襲われる恐怖と隣り合わせで生きていくしかない。

(どうにかしないと)

 そう思いながら考える。

 これまでと、これからを見つめながら。



 そんなソウマに、

「いつか教えて」

「なにを?」

「ゲームを」

 オトハが純朴な調子で尋ねてきた。

 あまり変わらない表情で。

 でも、幾分柔らかそうな顔で。

「おう、いつかな」

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