1 円満退職からの独り立ち
「じゃあな」
渡澄ソウマは短い一言で古巣に分かれを告げた。
居心地のよい場所だったし、離れたくはない。
だが、やりたい事が他にある、今までの住処よりも優先して。
(しょうがないよなあ、残念だけど……)
自分の中に残る未練を振り切るように歩き出そうとする。
だが、見送る側はそうもいかない。
「なあ、考え直さないか?
というか、考え直せ」
いまだに執着を見せるのは古巣の頭領だ。
多くの探索者によって成り立つ旅団という集団の頂点。
そんな人間がソウマの見送りに来ている。
正確にいうならば、引き留めにだ。
「しつこいぞ」
苦笑しながら団長の言葉を止める。
辞める・辞めさせないで何度も言い合ってきた。
その果てに出した退団という結果である。
それを団長自身が覆しては話にならない。
「いい加減諦めろ」
「諦められないから言ってるんだ」
団長は見苦しいと思いつつも未練たらたらだった。
それは他の団員も同じだ。
去りゆくソウマを惜しむ声を惜しむことなく口にする。
「やっぱり行くんですか?」
「戻ってきてくださいよ」
「しょうがないけど……残念です」
それらはソウマの働きぶりと実績から出てくるものだ。
こちらも引き止めたいという思いがあふれてる。
しかし、止める者はいない。
「ごめんな。
どうしてもこっちがやりたくてな」
そういうソウマのやろうとしてる事を、旅団員は既に聞いている。
だから止める事はなかった。
「離れた町や村に荷物を届けたいから」
その必要性は誰もが分かってる。
だから、やるというソウマの心意気を応援するしかなかった。
そうして盛大な見送りを受けて、ソウマは旅団事務所を後にした。
5年も一緒に活動していた者達だ。
ソウマも名残惜しい。
しかし、踏みとどまるわけにはいかない。
これからの為にも。
「じゃあな。
またどこかで。
一緒に仕事をする機会もあるだろうし」
「ああ、そうだな」
旅団長も踏ん切りをつけていく。
いまだに引き留めたくて仕方ないというそぶりを見せつつも。
そんな姿に苦笑をしつつ、ソウマはこれからに向けて足を進めていった。
とはいえ、完全に納得できる者ばかりではない。
無理だと分かってても、気持ちに区切りがつけられない者もいる。
そんな一人は、ソウマの後をつけていき。
「…………まだ何かあるのか?」
とっくに察知していたソウマが振り返る。
追跡者は足を止めて消していた姿をあらわした。
「あー、やっぱり見つかるか」
あはは、とわざとらしい笑い声をあげて、透明になって追跡していた事を誤魔化そうとした。
そんな彼女の額を、ソウマは軽くはじいた。
「いてっ」
言うほど痛そうでもなく、でも顔をわざとしかめて、
「酷いっすよ。
女の子相手に」
これまたわざとらしく糾弾した。
冗談めかして。
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