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新年を待つ姉たちへの手紙

 どうしようもないほどに寒い朝が終わって、なんとかなりそうな寒さの昼になった。ご飯を食べに行くため坂道を降りていると、いつの間にか僕の隣で佳月が歩いていた。佳月って坂道に慣れているから、坂道では僕より早かったよな?


「佳月、どうしたの?」

「大一、もうすぐ新年でしょ。ご家族に手紙を送らない?」と佳月は小声で僕をじっと見た。


 思わず足が止まった。佳月も真面目な顔つきで足を止めた。


「今日なら師範がいないから、何かあった場合私が見ることになってるの。だからね、手紙の検閲の担当も私になるの」

「確かに先生の検閲は厳しそうだね」と僕は上の空で呟いた。

「私だってちゃんと見るよ」と佳月は小さく唇を突き出した。「ただ、細かく見るつもりはない。機密情報が書かれていないかは見るけど、どうせ大一はそんなに知らないし」


 何と言うか……。僕は佳月を見た。6歳児に見えたくらい少し体格のいい佳月だけど、僕から見ればまだ小さい。普通に話しているつもりでも僕は佳月を見下ろして、佳月は僕を見上げている。なのに、なぜか佳月は小さな子どもだと思えない。青は青でも紺色の瞳だからか、綺麗な顔立ちをしているからか、年相応の子どもに見えない時がある。

 僕はうーん、と顎に手を当てた。ずっと前の方を歩いていた敢太が戻ってきた。


「何の話してんだ? 昼メシ冷めるぞ」と敢太は佳月の腕を取った。

「年が明けたら、大一をダイって呼んでいいかって話してたの」と佳月はニヘッと子どもらしい笑顔で敢太と僕を見た。「愛恵人だってそう呼んでるでしょ?」

「あ〜、確かに。じゃあ、オレもそうするか」と敢太が頭を掻いた。

「いいよね?」と佳月は一瞬真面目な顔つきに戻って僕を見た。


 たぶんあだ名の話の方への「いいよね?」、じゃないな。僕は道に咲く花を見た。踏みしめられてもシャンと咲いている。


「うん、僕も考えておくよ」

「よし、決まりだな」と何も知らない敢太は大きく笑って佳月の腕を引いたまま走り出した。


 12歳の敢太が5歳の佳月の腕を掴んだまま走ると、拉致しているように見える。濡れ衣を被せられないか心配になって僕も敢太に付いて走った。

 明子さん家に着くと、ほかほかのご飯が机に並んでいた。烈、美実さん、真生はお箸や湯呑みを並べている。それから、初めて会う黄色っぽい茶髪の30半ばの女性と、愛恵人が楽しそうに話している。僕らに気づくと愛恵人は軽く腰を上げた。


「あ、ダイ! この人、僕の母さんなんだ!」

「あなたは覚えていないかもしれないけど、お久しぶりね。愛恵人の母、雷電 芙雪ふゆきです」と彼女は親しげに微笑みかけた。「あなたのお母さんの妹でもあるの。だから気軽に叔母さんって呼んでね」

「東 大一です。愛恵人にはいつもお世話になっております」と僕は軽く頭を下げた。


 叔母さん——芙雪さん——も緑色の目だ。佳月は叔母さんの向かい側に座った。


「芙雪さん。何かお話でもあったのですか?」

「ええ。美実に大切な話があったの」と叔母さんの眉間に微かな皺が寄った。

「二軍の方とのお話ですか?」


 短い沈黙が降りた。愛恵人ですら、美実さんの様子を伺うように台所を見た。芙雪さんは何も言わずに頷いた。


「そうだわ。明子たちにも話があるから、隣の部屋に行くね」と叔母さんは部屋を出た。


 愛恵人は僕らの隣に戻ってきた。烈たちは向かい側に座っている。佳月は敢太と愛恵人に挟まれている。手を合わせてから、食事を始めた。明子さんとそのご主人はいつも別室で食事を取っているらしい。僕は肉を口に運んだ。


「ねえ、佳月」

「なに?」と佳月は箸を机に置いた。

「叔母さんって、明子さんたちに何の話があるんだろう?」

 すると烈が「既婚者と、未婚の子どもは別々に食事を取ると決まっているんだよ」と教えてくれた。


 なんで、と聞こうとしたが何となく分かったからやめた。たぶん、将来、相伝隊員と蓮医隊員が結婚してほしいのかも。物静かな美実さんと、やかましい敢太は明らかに合わないのに縁談が出ていた。

 敢太は烈を見た。


「そういや烈。来年、蓮医隊員がまた増えるって愛恵人から聞いたんだけど」

「うん。ご存知の通り、愛恵人の妹だって」と烈は真生に微笑みかけた。

「なあ、真生」と愛恵人は箸を動かす手を止めた。


 時計が鳴った。行儀が悪いけど、僕はご飯をかき込んだ。


「ごちそうさまでした!」


 僕は食器を流しに置いてから、明子さん家を出て行った。坂道を走り登り、家に入った。時計を見た。昼休みが終わるまで、30分ある。

 僕は時々考えながらも、一気に手紙を書き上げた。書き終える直前には愛恵人たちも戻ってきていた。


「佳月。この手紙、確認お願い」

「分かった」と佳月はすぐに読んだ。「うん、問題はないから昼休みが終わる前に芙雪さんに預けといて。そうしたら、出してくれるから」

「ありがとう。読むの早いね」

「だって、師範が帰ってくる前に出さないとめんどくさいよ」と佳月は手紙を置いて、道場へ向かった。


 こそっ、と少しだけ追伸を書いた。それから、糊でベッタベタになるまで封をした。

一方そのころ、6歳にも満たない佳月に宛てられた新年の招待を断るのに奔走する真道。

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