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第二章「アンノウンメモリー」

この物語はフィクションです。実際に存在する人物、地名等等には一切関係はありません。


また、この作品には残酷描写を含みます。


俺「今のは正直イラッと来たぞ」


???「ごめんごめんって。それにしてもよくこんな辺鄙へんぴな場所選んだね。田舎道のど真ん中に立つどんな企業が使っていたのかもわからない廃ビルで自殺とは。」


 イラッと来たといったのに追い討ちをかけにくるとは


???「あれか、迷惑かけたくなかったけど盛大にやりたかったてやつかな?」


俺「多分そうだろうな」


???「それじゃ、自己紹介ターイム。僕『涙天 飛向』。よろしくね~。君の名前は?」


俺「そうだな、自分は、、、わからん。」


彼女はポカンとした表情をしたあと、ひっくり返った。


ヒナタ「本当に言ってる!?まじで!?どうりでなんか僕が知ってるいつもの君じゃないと思ったんだよ。」


俺「まぁ、驚くのも無理ないだろうな。俺だって思い出したいんだよ。」


ヒナタ「まぁ、僕君の名前知ってるんだけどね」


俺「じゃあ教えてくれればいいじゃん。俺の名前はなんだ?」


ヒナタ「いや、君は今名前を思い出さないほうがいい。君の過去の記憶はあまりにも今の君には刺激的すぎる。きっと君はあの焼身で記憶を無くしたんだ。実際いいリミッターなのかもね。まじで思い出さない方が身のため。」


俺「そんだけ俺の過去は悲惨なものなのかよ。わかった。」


ヒナタ「わかったならよし。」


俺「まぁ、好きなように呼んでくれて構わないよ。呼び名はあったほうがいいしな。」


しばらく考えるそぶりを見せたあと。ピカーんと閃いたようにニヤリとした


ヒナタ「じゃアンノウンくん」


俺「アンノウン?」


ヒナタ「そう、不明瞭って意味。だって何もわからないんでしょ?それに、何にでもなれるってポジティブな意味もあるし」


俺「そのポジティブパートは今自分で考えただろ」


ヒナタ「バレましたか。まぁでも、君には新しい人生を歩んで欲しいしね。」


なんとなく、その言葉に含みと悲しみを感じた。


ヒナタ「さて、切り換えて話を進めよう。まず初めに、あなたは神を信じますか?」


アンノウン「帰っていいか?」


ヒナタ「あぁ待って待って。これは君にとって大切なことなんだ。だって、僕のことを説明するには、神様の存在が不可欠なんだ。」


アンノウン「神ってあの神様?」


ヒナタ「イグザクトリー。あの君たちが考えているような神様って認識でいいよ。僕こと、涙天 飛向は君を守るためにここに天から送られてきた、いわば使いなのだよ」


アンノウン「そう言う宗教の手法ですか?」


ヒナタ「真面目に聞いてよ~。まず、君には特別な力がある。その例が昨日のあの装置の即時適応だね。」


アンノウン「おっ、ちょっと信憑性が上がった。続けて続けて」


ヒナタ「あの装置を使うには一定の精神面での訓練、鍛錬が必要になるわけだけど、君の場合君の特殊能力とうまく噛み合って、あの装置を最初からうまく運用できたといううしだいだ」


アンノウン「俺の特殊能力って、結局どんなのだよ?」


ヒナタ「どさくさに紛れて引き出そうとしても無駄だよー。でも装置の説明はできるよ。あの時は急ピッチだったから、しっかり説明してしんぜよう。」


アンノウン「細かい理論は置いといて、大まかに説明してくれ」


ヒナタは一つ咳払いをして、博識気にメガネを上げるような動作をした。メガネないのに。


ヒナタ「砕いて言うと、あれは人格発現装置だね。人々は無意識のうちに喜怒哀楽を自由に操って、さまざまな顔を持って生きている。そんな感情や性格の一部を大幅一時的に増幅させて、その上で力に変換するというものなんだ。」


アンノウン「実際俺が使ったのは悲しみだったってわけだな」


ヒナタ「そうそう」


アンノウン「ちなみにあいつらウイルスは人工的に作られたものなか?」


ヒナタ「そうだね。僕たちが追っている正体不明の悪の組織が破壊行動を繰り返す機械を作ってるね。」


アンノウン「あんな奴が現実で作られるのか?」


ヒナタ「作られるのは正解。でも、産地が違うね~」


アンノウン「神様の話があったってことだから、あの世、、、とか?」


ヒナタ「ごめんそれは僕の話だから。正解は電脳世界でした。ざんね~~ん流石にそこまで規模大きくありませーん」


うざったらく、そして粘着してくるようなニュアンスだった。挑発的な態度に思わず周り右をして帰りたくなる


アンノウン「俺の足が家の方向を向いて進み出す前にその世界俺の知らない電脳世界について説明してもらおうか。」


ヒナタ「よくぞ聞いてくれた。電脳世界とは、簡単に言えばインターネットの中の世界。僕はそこで暮らしてるんだ。なんでもできるし何をしてもいい」


アンノウン「そんなことしたら秩序が簡単に乱れるだろ」


ヒナタ「そうそう。そんな乱暴者の一部があの昨日の化け物、熱々な人とかね。僕たちはあいつらを食い止めるために仕事をしている。いわば治安管理委員会ってところだ」


アンノウン「仕事って?」


ヒナタ「アンノウンくん、君はコンピューターウイルスって知っているかい」


アンノウン「あれだろ、パソコンとかスマホに侵入してデータを破壊したり改竄したり悪さをするシステムのことだろ。なんだ、昨日のあれがウイルスだって言いたいのか」


ヒナタ「君はつくづく察しがいいし飲み込みが早いね。真っ白なキャンパスだからこそかもしれないけど。話を戻そう。僕たちは電脳世界の中でヴァーチャルフューチャープロテクター、通称vfp、対コンピューターウイルス部隊に所属して戦ってる。でも昨夜、事件が起こった。電脳世界からあいつらが現実世界に現れた。原因は完全に不明。今の目的は、あいつらの根源を見つけて。潰すこと」

ヒナタは胸の前で拳を握りしめた。


アンノウン「でもさ、普通に考えておかしいよね、電脳世界のウイルスが現実世界に出てこれるって。」


ヒナタ「そうそこが謎なんだ。もともと電脳世界はそう安安と危険なものを外に持ち込めるわけが無いんだ。だってうちの神様が作ったシステムだからね。」


アンノウン「そうなのかよ。もう驚かん。」


ヒナタ「もうちょっといい反応してくれてもいいのに」


アンノウン「というか俺ほとんど情報がないのに戦わされたのかよ。」


ヒナタ「ごめん。本当はもうちょっと時間が経ってから落ちついた状態で訓練させるつもりだったけど、あんなことが起きたから。正直あの時戦えるのは君しかいなかったんだ。」


アンノウン「vfpって組織なんだろ。だったら人員はいくらでも裂けたんじゃ」


ヒナタ「僕たちが戦えるのはあくまで電脳世界だからの話。僕たちの能力や武器はあくまでもプログラムされた電脳世界ならではのもの。最強の僕も現実世界では無力というわけさ。結局人員も適当に強そうな人をリストアップしてスカウトしただけのいわば一般人だから。」


アンノウン「つまり、また現実にあんな奴が来たら、俺は馬車馬のように働かされるというわけだ。泣けるぜ。でもこのカードローラー?も電脳世界の産物なんだろう?じゃあなんで現実世界でも使えるんだ?適応できたとはいえな。」


ヒナタ「ベースは電脳世界で使える能力と同じなんだけど、君の力がその装置と同期してこっち(現実世界)でも使えるようになったんだ。そのカードローラーは無改造のもので本来現世で使えるはずのないものなんだけどね。」


一瞬「俺すごっ」と心の中で自画自賛した。


アンノウン「ちなみに、昨日ウイルスは現実世界にきてたけど、改造とかすればあんたらの武器もこっちに持ち込めるのか?危険物扱いだろ?」


ヒナタ「そうなるね。でも実は昨日あのウイルスのデータを僕の凄腕の改造大好き人間に渡したら、一日で作れるって言ってくれたもん。」


アンノウン「そんなヤバいやついるのかよ。やっぱり俺の力は特別なんだな。もっとその力を活かすために概要だけでも教えてくれないの?」


ヒナタ「ダメだね。記憶っていうのは結構心と繋がってるんだ。連結、連動して思い出すことなんてざらだよ。多分概要に関する記憶も君の過去全てを引っ張ってくる。君の核心的な部分でもあるから。見たことあるでしょ映画とかで、記憶を思い出したと途端に泣き崩れるとか。」


アンノウン「もう一回泣きながら気絶したけどな」

やはり慎重になるか。しかたない、自力で記憶を思い出すしかないか。


ヒナタ「どちらにせよ、戦ってもらう。君の使命なんだ。そしてアンノウンくん。運命を乗り越えて幸せになってくれ。君の過去も。記憶も。全部を抱きしめて。」


アンノウン「何だいきなり臭いセリフなんて吐いて」


でもなんだかその時のヒナタの言葉には熱が帯びていたような気がした。


こうして俺の夏は始まった。8月1日。本来夏休みの初日。ジメジメとした廃ビルの一角。不安定な過去、未来、記憶の狭間で照りつける太陽の光に焼かれて。今日も蝉騒が鬱陶しい。


2020年8月1日9時30分

ーーーーーーーー


その後俺は電脳世界に住んでもらうということになった。勿論最初は反対して自分の家に返してくれと頼んだのだが、念押しされて言われたように記憶の宝庫である自宅は記憶への干渉が大きく発生するリスクが高すぎるとのことだった。ということで今からその電脳世界に入っていくわけなのだが。


アンノウン「ヒナタ、これは何だ」


ヒナタ「あれ、SFとかでよく見かけない?ポータルだよポータル。」


アンノウン「あぁ、確かに聞くけど、これいきなり入れって言われても怖いだろ。昨日知らなかった世界がそこに広がってんだぞ。」


ヒナタ「アンノウンくんそこは妥協してよ。君は物分かりがいい性格だってしってるよ」


アンノウン「自分が持っている情報を過信しすぎだ。ましてや人の性格だぞ。」


ヒナタ「もうめんどくさいから入ってよ」

そういうとヒナタは俺の背中を勢いよく前に押し出しポータルに俺を入れた。


勿論いきなりのことで受け身も抵抗も、ましてや覚悟もできておらずしばらく恐怖が付き纏い目を思いっきり瞑った。



 だが、次目を開けた瞬間そこには近未来的な光景が広がっていた。

聳え立つ高層ビル。飛び出す街頭のスクリーン。そして夏なのに心地よいちょうど良い気温。視覚、聴覚、触覚を使い全てに新鮮味と驚きを覚えた。


ヒナタ「ようこそアンノウンくん。ここは君の拠点となる世界。どう?住む気になった?」


アンノウン「ああ、そうしようかな」

さっきまで反対していたのだが、何だかこっちの世界も悪くないように感じてしまった。正直負けた感じであるが。


そんな抵抗を覚えながら、ひたすらヒナタについていく。しばらく歩きヒナタに目の前にある大きなビルに中に入るように促される。そんなビルの屋上を見上げると、vfpと書かれた文字が光っていた。そして勿論俺は気づいた。


アンノウン「もしかしてvfpって」


ヒナタ「気づいた?そうそうここが僕たちの組織だよ。意外と近いでしょ。おまけにデカいときた。」


vfpとはどのような組織なのか。ワクワク感を抱えながら中へと入る。

入ってすぐさま大きなエントランスに驚いた。

明らかに大組織なのがわかる。その行き届いた清掃と受付。従業員以外は出入りできないようにつけられた社員証確認用ゲート。そして受付の人までいる。


ヒナタはさっさと受付の人に俺の事情を話し、ゲートを通してくれた。そしてすぐさま近くのエレベーターに乗り込み、目的の階へと案内される。

エレベーターを降りると幾つもの部屋が長い廊下に一定の間隔で並んでいた。

そして、その廊下の奥から1人の青髪の女性が現れた。


ヒナタはその女性を見た途端いきなり駆け出した


ヒナタ「こたつーあれできてるー」


コタツと呼ばれた女性がこちらに気付きやっほーと言いながら手を振る。


ヒナタ「コタツ〜、昨日は大変だったんだよー」


コタツ「そうなのね、よしよし。あっ、例のスナイパーライフル改造完了したよ。」


ヒナタ「やった、コタツ好きぃ。」


そう言われたコタツ?さんは嬉しくなったのかヒナタの頭を撫でた。これは百合というやつだ。入る隙はねぇ。やっぱ帰ろう。

と思ったところで勘付かれたのか、コタツ?さんが気づいたのだ。


というかスナイパーライフルっていったか?できてる?まさか改造大好き人間って。


コタツ「ちょっと待ってね少年、いきなりこんないちゃいちゃしちゃって。」


アンノウン「いいんですよ。その隙間に入る権利を持っていないのですから。」


コタツ「何とも冷めた反応だねぇ。もっと感情を顕わ(あらわ)にしちゃってもいいんだよぉ思春期なんだから。」


ヒナタ「まあ何はともあれ自己紹介をしよう」


俺たちは軽く自己紹介をした。

終わったところでコタツさんが俺の右手についている装置に気がついた。


コタツ「あっ、その機械。使ってくれているんだね。」


明らかに嬉しそうである。

まるでカードローラーが自分の産物であるように。流石に自分で作ってないでしょ。


コタツ「それねぇ、僕が作ったんだよ。」


心を読まれた、、!そんな気がしたが。

アンノウン「さらっと心を読まないでくださいよ、怖いですって」


コタツ「僕得意なんだよねぇ、相手の心読むの」


こういう人は敵に回しちゃいけない。そう心の中で思った。


アンノウン「というかこれコタツさんが本当に作ったんですか?正直そうとは思えないんですけど」


コタツ「失礼だねぇ、僕は機械いじりが得意なんだよ。」


ヒナタ「ねぇ僕のあの武器は」

ヒナタ急かすように言った。


コタツ「あっ、忘れてた。ごめん持ってくるよ」


そういうとすぐ近くの部屋に戻って行った。ヒナタは口を膨らませていた。その表情には一割の怒りと、十割の興奮があった。あれ、感情110パーセントって何だよ。まあいいや。

そしてしばらくして帰ってきた。その手には一丁のライフルが握られていた。


そのライフルをみるやいなやヒナタのテンションがおかしくなった。


ヒナタ「うっひょー!。これが新しい改造スナイパーライフルかー。アンノウンくん、これでね、僕も、現実世界でね、戦えるようになるんだよ。この武器を使えば現実に現れたウイルスも駆除できるようになるだよ。バリバリ銃刀法違反に引っかかるけどいいよね?ね?」


コタツ「喜んでもらって嬉しいよ。勿論こだわらせてもらったよ」


何中奴に何中変態武器を持たせてしまったのだろうこの人は。もう取り返しがつかないぞこれ。

アンノウン「えっと、コタツさんは武器も作れるんですか?」


コタツ「僕はオールマイティー型の発明家だから基本的に頼んで貰えばどんなアイディアも形にできるんだよ。今回の改造は現実でも使用可能なスナイパーライフルの実現だったからね」


もしかして実は頭切れるのか?この人は。現実世界に電脳世界の産物を一日持ち込めるようにした人ではあるから、世界的に見てもトップクラスなんだろう。


コタツ「おぉ僕をみる目が変わったねぇアンノウンくん。まりで僕を少し前までぼんやりしてるバカだと思っていたように。」


アンノウン「頼むからそこまで心を読まないでください。」


コタツは小笑いした。やっぱこえぇこの人。


コタツ「あっ、そうそう。君のそのカードローラーを時期にアップデートしようと思ってるから楽しみにしといてねー。」


そう言い残して上機嫌で俺たちの元をさって行った。ヒナタは舐め回すようにスナイパーライフルを眺めて体を擦り付けている。というか舐め始めたな。なんだこの部隊は変人しかいないのか。


ーーーーーー


 その後俺は一つの部屋に案内された。正直先のヒナタの奇行っぷりを見たら逃げたいのは山々なのだ。

そしてその一室はどうやら彼女の社宅だったようだ。

ちなみにコタツさんはこの部屋の隣に住んでいるらしい。

今すぐにでも逃げたいという気持ちが高まった。

そんな中で衝撃的な一言を投げかけられる。


ヒナタ「今日からここで暮らしてもらいます。」


アンノウン「えっ、別室とかじゃないのか?」


ヒナタ「違うけど」


 しばらくの沈黙が流れる。

俺は頭の中でハテナが高速で回転した。

奇怪的行動の数々。癖の強い隣人。事件が起こる予感しかない組織内の一室。


アンノウン「い、や、だ、」


 その一言と共に俺は部屋の出口へと走り出し、玄関口のノブを捻った。いや、捻ったという表現は違うな。ノブを捻るために力を入れたのだ。だがノブが下がらない。


ヒナタ「どこへ行こうというのかね。アンノウンくん。言ったよね。ここに住んでもらうって。」

いやらしい手つきと共に迫ってくるヒナタはまさに恐怖そのものだった。


アンノウン「てめぇ、何がしたいだよ。あれか、ヤンデレってやつか?ああいうのはファンタジーだから面白い一つのコンテンツなのであって現実にあるとめんどいだけなんだよ」


ヒナタ「何を言っているかわからないけど、全部君を守るためなんだよねぇ」


アンノウン「そういう護るよ発言とかが一番怖いんだよ。頼むよ流石に別室にしてくれ。」


ヒナタ「それはだめだね許されないねぇ」


アンノウン「誰か助けてー」


そう叫んだ瞬間だった。vfp内に大きな警報が鳴り響いた。


アナウンス「vfp隊員の方々全員に緊急連絡です。現在再び現実世界にてウイルスが漏洩しました。被害を最小限に抑えるために職員は出動し、民間人を速やかに保護、避難を完了させてください。場所は潤滑(じゅんかつ)小学校です。」


ヒナタ「これからについてまだ何も話せてないのにいきなり出動とか、ついてないねぇ君も」


アンノウン「今の状況であるなら自分は逆に万歳な話だな」


ヒナタ「はいはい、そんなこと言ってないで早く出動するよ。きっと、状況は前よりも酷いことになっている。前は現場に君がいたからまだ良かったけど、今回は到着するまで時間がかかる。今回ばかりは自分はちょけてられない。」


緊張感と戦慄が俺の背中にゾクゾクと走る。

ヒナタの口からこのような発言が出るということはすなわちレッドカードギリギリであるのと同義であるのだろう。昨日からの会話でヒナタの性格をある程度掴んできたからこそわかる。


俺たちは急いで現場に向かうべく、部屋を後にした。


ところでだが、小学校の名前癖強すぎるだろ。


2020年8月1日10時


ーーーーーーー


 部屋をでて、電脳世界をでて、現場の小学校へと到着した。

部屋を飛び出してから約30分は経過しただろうか。

現場は慌ただしく動いている。そして次々と小学生や職員たちが昇降口から出てくるのが見える。そして野次馬も集まってきた。今回は隊員がたくさんいるようだ。

 

 そういえばだ、俺が熱々と戦った時には隊員は出動していたのか。とりあえずヒナタに聞いてみると。

 「うん出動していたね」


と返ってきた。

どうやら速やかに市民たちや関係者を避難させていたようだ。だが戦闘ができず数人の死人が出てしまったようだ。

俺があの日見た焼死体もその一つだろう。

ヒナタはさらに追加の情報を出してきた。


 「でもあの現場で間に合話なかった人たちがいたでしょ?だから死人の遺族に対しての説明やvfpの責任問題解決があるわけなんだけど、まだ昨日の今日だから状況確認整理精査ができていないんだよ。」

俺は諭すように返す


 「いや、あの状況なら仕方がないだろ。初めての案件だったんだろ?そして昨日の今日と言ったじゃないか。」


ヒナタは、流石だ飲み込みが早いと言わんばかりに頷いた。

どうやら自分が戦えなかったことに負い目を感じているようだ。でも、今回は戦闘に参加できるということで、その言葉節々から「今度こそ」と聞こえてきたような気がした。

 

 会話が一段落すると野次馬の中から突然1人の女性が叫び出した。

 「ねぇ、中で何が起こっているの?娘はどこなの!」


 この学校の中にきっと彼女の娘がいるのだろう。

そしてその言葉は野次馬たちの好奇心と恐怖心、そして暴動の導火線に火をつけるのは十分であった。

もうこれ以上ウイルスのことは隠せないであろう。

人は隊員たちに群がり、なんとか現場の中へと入ろうとし、隊員の盾に押し返され、ウェーブを繰り返す。


 そんな悲惨な光景を見ていると1人の女性が話しかけてきた。

 「君がヒナタちゃんの護衛対象兼事件解決のキーパーソンかな?」

第一声が聞こえてきて、すぐさま背後を振り返るとその女性はなんとど至近距離にいた。いうならばガチ恋距離。そのうえ。

 「ヒナタちゃん、ちゃんと戦闘狂に育て上げた?」

とかいきなりいかれたこと言い始めた。


 さて、いきなりの登場であったがヒナタの説明によると彼女はvfpの社長で「オペレト」というらしい。へ?

 「社長なの!?」


そんな反応を見て「勿論!」といってグッとを俺にぐりぐり押し付けてきた。

やめていただきたい。


 透き通った茶色い髪と少しのお姉さん肌を併せ持っている。だが、わんぱくな性格だと一発でわかる。お姉さんキャラは絶対できないな。

これがvfp社長なのだと正直言って拍子抜けだ。

だが随分と頭は切れるそうで、どうやら凄腕のホワイトハッカーらしい。あと、vfpを立ち上げるにあたってヒナタがスカウトした人材らしい。

さらに彼女は俺の事情なり力のことなどなどの個人情報を知っているらしい。なるほどつまり俺のストーカー第2号か。やめてくれ。


俺は問いかける

 「社長さん、私は何をすればいいのですか?」


そのアンサーが返ってくる。

 「君の今回のミッションは学校内に潜入したウイルスの駆除だよ。人質の救出は我々に任せたまえー。ヒナタちゃんはさっきコタツちゃんに新しいライフルをもらったそうだからしっかり援護してあげてね。」

「よろしくっ!」と最後につけてウインクまでした。

ヒナタは了解した。


 「ちなみに今回ウイルスに関する前情報はありますか?」

俺は情報を要求した。

だが申し訳なさそうに、「ないよ!」とたった一言たった0.5秒で吐きかけられた。

この部隊やってらんねぇな。

そう思いつつも覚悟を決める。


いよいよ突入の時間がやってきたようだ。


ーーーーーーー


8月1日 10時45分


 ヒナタと共にターゲットを駆除すべく昇降口から突入。即左側に続く長廊下を確認。敵は確認できない。

確認すると、先ほど受け取った無線からオペレトさんの声が聞こえる。

 「通信良好。2人ともに今入った情報だよ。ウイルスは活性化してさらに被害を拡大中らしくて、姿が確認できた。三階に上がってほしい。ウイルスちゃんはそこにいる。なお現時点よりウイルスの名前を、『オーバーリミット』とする。」

聞いた情報を元に三階までかけ上がる。階段を一段また一段と駆け上がる。


 小学生達の無事を祈りながら。

 

 小学校。俺の記憶は全部抜け落ちてしまったから何も思い出せない。でも小学校という単語を聞くと、なぜだが胸がざわつくのだ。何かとっかかりがありような。例えるなら、歯に何か挟まったような。

 

 そんな考え事をしていると三階についていた。

そして着いてそうそう俺は絶句した。


 そう、それは転がってきたのだ。完全に魚の目をしていた。信じたくもない、焼死体とはまた違い一目でそれが人であるということがわかってしまった。

転がれるということはボールのようなもの。ボールのようなものでいやなもの。それは今の現場から精査して簡単に予測してしまえるものだった。


 子供の生首だった。


 転がってきたのだ生首は血の道を作り、俺達から見てx軸マイナス方向へと血の跡を残しながらゆっくりと減速して止まった。


 そして階段から躍り出た先の廊下に勿論いたのは。“ウイルス”だった。


 「アンノウンくん、速く身をまとって!」

ヒナタからの指示が聞こえる。震える手を握りしめて、昨日の手順の通りに悲しみのパーソナルをカードローラーで起動する。腕をぶん回し力の源である青玉を回収して力を全身に駆け巡らせる。やはり涙が止まらないが視界を奪われるのですぐに拭き取り敵を観察する。


幸いにも何もしてこなかった。と言うより俺たちの動きを観察しているように見えた。


 右手は手の形をしておらず、五寸釘のような針が装備されており、血がべたりとついている。そして左手にはさっきの子供の首から下部分がしっかり握られていた。

その図体は全体的にロボっぽい。だが、頭部から本体らしき顔が露出している。そしてその肝心の本体の顔は子供のような幼い顔であった。

そんな顔とは裏腹に、ウイルスの周囲にはすでに手遅れな死体がゾロゾロと転がっており、窓にはドロドロな血液がこれでもかとついており、中には時間が経過して軽く固まってしまい、ハエが無数たかっていた箇所もあった。


 相手に集中しているとなんとウイルスは、

 

「お兄さん達何しにきたの」

と無邪気な声で問いかけてきた。

人を殺しておいて正気の沙汰ではない。そしてその声はまるで幼い男の子のようであった。

身にまとっている装甲と手に持っている産物がなければ本当に可愛い子供だっただろうに。


そしてヒナタは迷いなく、

 

「勿論君を倒すためだよ」


と答える。

だがウイルスは疑問を呈した。


 「なんで?僕悪いことしてないよ。僕はどっちかというとみんなのヒーローなんだよ?」


どうゆうことだ。話を聞いてみると内容はこうであった。


 昔からいじめっ子に嫌がらせを受けており、怒りが沸点を超えてしまったそうだ。だからこそこの学校で育て上げられた環境も人も何もかも全てが悪いと考え、今この学校を破壊し、その後は他の学校も破壊しに行くとのことだった。


俺は頭にはてなが浮かんだ。

 「ヒナタ、ウイルスは普通、感情と嫌だった過去を持つのか?」

 

「うん、最近になって発見され始めたね。私たちが追っているいちばんでかいハッカー集団の仕業だと思うよ。昨日のあの熱いやつもそうだったよ。あれは憤怒で燃えてるんだって昨日説明したじゃん。」


 「あの危機的状況で頭に入ってくるわけないだろそんな細かい情報が。でもあいつは喋れなかったよな。」


「プログラムによっては喋れないこともあるんだよ。言語能力がないってだけじゃないかな。一番最初の試作品というところだろうね。でもあれだけ膨大な力を現実世界に持ってきたり作るには、それ相応の処理能力を持ったコンピューターと実力がいるね。」


「なんでも作れるけど、それは技量しだいってことか。」


「そうその通り。しかも、電脳世界の網目をくぐるには、もっと強い力が必要になるね。」


次にヒナタはオーバーリミットについて考察と説明をし始めた。

 「彼の感情と動機だけど、復讐心がメインなのは確定だね。感情っていうのは犯罪を犯す上で非常に大事になってくる要素なんだ。感情は時に感情と動作のコントロールの制御を殺す。だからこそ感情をウイルスのプログラムして、動機を元に正確に任務を達成しようとしているんだ。」


なるほど、目標にむかって猪突猛進をするという悲しきオートマタなのか。


 「話し合いはそんなとこでいいかな?というかどいてくれるのが一番なんだけど?」


 オーバーリミットは俺たちに問いかけた?

いいタイミングだな。前提知識はある程度そろった。仕掛けさせてもらう。


俺はあの子供の無念を晴らすためにも勝たなければならなかった。とにかく集中して、水をイメージする。

いきなり大技だ。いくぞ!

 「ウォーターサイクロン!」

渦を巻きながら相手へと飛来していく。

相変わらず技名はダサいが威力は抜群であろう。

だがしかし、ロボというあまりにも頑丈なその筐体は全てを受け止めてしまった。

攻撃が終わるのを確認したのち、左手に握っていた子供の下半身を思いっきりぶん投げてくる。

反射的に受け止める体制をとった。ここで死体をぐちゃぐちゃにされたくはないと思ったからだ。

水の障壁よっ!

昨日よろしくの壁を柔らかいクッションのように使う。だが、それだけでは衝撃を受け止め切れなかった。

思いっきり体っが後ろへと吹き飛び死体も天井へと放り投げられブチっという音と共に天井にぶつかり、重力に沿って落ちる。

かという俺は廊下の床に叩きつけられ、大きく背中を痛めた。

完全にやられた。


 「アンノウンくん!」

そう叫ぶとヒナタはライフルをしっかりと構えなおし、油断したロボ野郎の頭頂部目掛け、

 「貫け!スペード!」

という掛け声とともに引き金を引き、火薬の匂いと鈍い音を響かせた。どうやらライフルに名前があるようで、スペードというらしい。今の一言は魂が込められていた。相当気に入ったんだろうな。


そして見事その銃弾は命中し、頭頂部に痛烈なダメージが入ったように見えた。片目が潰れたようだが、それでもめげずに今度は右手の釘を突き出し突進してくる。

このままではヒナタが体当たりを喰らってしまう。それはまずい。俺は気合いで立ち上がり、背中に痛みを背負いながらもう一度ウォーターサイクロンを放つ、結果突進は止まり、防御の体制をとった。だが、サイクロンの反動で俺は軽くひざまず)いてしまった。流石にさっきのが効いたな。


どう考えてもまずい状況。何か別の能力は、技は、とにかく考える。

 「ヒナタ!何か他にないのか。俺が強くなれるようなものが。」

そう一言かけると、何か思いついたようにサイドバックを漁り始めた。

そして一枚のカードを取り出した。

いや、それはパーソナルであった。

 「アンノウンくん!これを使って!」

突然なんだ!?

とりあえずカードを受け取る。そこには怒りと書かれていた。

「昨日熱々を吸い取ったよね?そのパーソナルだよ」


 「相手から感情を奪ってパーソナルに記録できるっていうのか!?」


ヒナタは得意のニヤケ顔を見せて「その通りさ。」といった。

正直鬱陶しいが、このアイテムはありがたい。

まさに僥倖というやつだ早速使わせてもらう。

 「ヒナタ!時間を稼いでくれ!起死回生の一手だ!」


 「合点承知!」


ヒナタはまだやれると言わんばかりに余裕のある返事をしてくれた。

 いいよ、そういうのが一番元気もらえんだ。

ヒナタはライフルをとにかく打ち始めた。

その手捌きは見事なものであった。


 ヒナタのライフルはオートマチックだが、リロードが必要であった。リロードする時にはマガジンを落とす、新しいマガジンを装填する。コッキングレバーを引く動作が必要なのだが、最早それらの動作を全部一気に進行させるようにしてリロードを行っていた。その目つきは普段の名前けているものとは違い、完全に狩に行っている肉食系動物と同じ目だった。本当にガンマニアなのが伺える。その情熱は鎮火できなさそうだ。


 俺は俺で3回目の憑依を行う。既存のパーソナルを外して、今回ゲットしたパーソナルを装着。全身へと再び力を送りこむ。


 そうするとなんということだろう。イライラして仕方がないのだ。あぁこれは怒っているんだ。俺の内側から湧き上がる感情は俺の腸を煮えくり返そうとしてくる。俺は炎系の技が使えそうな気がする。とにかくだ、俺は、俺は、、、

 「俺は怒っているぞ!」

急に叫んだのに驚き、一瞬オーバーリミットのガードが甘くなった。その瞬間を見逃さない。

理不尽に散った子供たちのためにも。


まずヒナタが打ち続けている弾丸に火を纏わせてみた。

昔から武器に属性をつけるのはセオリーだろう。

またその弾丸が命中すると相手は突然怯え出し、情けない声を出し始めた。

 「いやだ、もう燃えたくないんだ。やめてくれ。もう花火は懲り懲りなんだよ。いやだ、苦しい」


途端にウイルスの様子が明らかに鈍くなった。

その弾丸は装甲部分に当たったはずなのだが、怯え続けている。相当火にトラウマがあるようだった。


 だがそんな行動に対してヒナタは何か考え込んでいる。ヒナタはしばらくして口を開いた。

 

「おかしい、普通ウイルスにトラウマなんて植え付けないはずじゃないかな?だって殺戮マシーンを作りたいなら、動機だけを設定すれば心の弱みなんて握られなくて済むじゃん。」


確かにそうであった。現に彼は今も怯えている。だが、この怒りは治らなかった。考えているとこ悪いが、先に倒させてもらおう。

 「ヒナタ、やっちゃうよ。いいよな」

 「とりあえず強火で炙ってあげて」


燃え上がる怒りに身をあえて任せてみることにした。

行くぞ!

 「イラプトブレイズ!」

ウイルスの下から噴火したように炎が湧き出てくる。

その赤すぎる光の中で苦しむ一つ。こちらに助けを求めてきたが炎は急には消えない。もし、このウイルスの過去に何かあるのだとすれば、私たちはそれに気が付かなければならないのだろうか。

 

 そうこうしているうちにヒナタはパーソナルの中にウイルスを吸収した。次はどのような能力が使えるのか。少し楽しみである。


 だがその前にこの現実に直面しなければならない。子供達の死体だ。これを機にして電脳世界の存在はバレ、きっとパニックが起きるだろう。どのように遺族に説明すれば良いか。どこに責任が行くのか。俺にはまだ荷が重すぎる仕事と内容であった。初任務が悲惨な結末を迎えるとか。

 泣けるぜ。


ーーーーーーーー

 その後学校からできるだけ民間人の目に晒されないように脱出をした。俺たちが現場の最前線にいたとなると、俺たちが前に出る羽目になるからだ。それだけは避けなければならない。特に俺が一目に触れるのが一番まずいらしい。

死体は処理班に任せるとのこと。

 

 車に乗りさらに遠くへそそくさと逃げる。オペレトさんが運転してくれるようで、「せめて私に仕事をさせてくれ」だそうだ。正直一番正気度を削られた俺たちに対しての恩返しとしては対価が釣り合わないが。

 

 車に揺られながら任務中に考えた小学校の頃について頑張って思い出してみることにした。小学校。俺は、、、。


 頭に激痛が走った。思わず「ああ」と声が漏れ、ヒナタが気づいた。その間に記憶が、過去が俺の頭を飛び回り、今にもその記憶は脳から穴を開けて突き抜けていきそうだった。ヒナタは心配をして、背中をさすってくれた。


 思い出した。俺は、小学校の時。


ーーーーーーー


 小学校のとき、確か僕は友達がいなかった。周りと疎遠だったのだ。友達を作らないというより、作れないの方が正解に近かった。でも、その理由だけはモヤがかかってみえない。一番思い出したくない。よっぽど苦い記憶なのだろう。そして周りからその理由に関しての噂話がなされていて、僕は毎日精神が参っていたんだ。そんな日常が続いて僕は、中学生になったんだっけ。


ーーーーーーー

 記憶の再生はここで止まってしまった。中学生以上であるということは確定した。だがそれだけだ。でも、何か一つ真実へつながる鍵を手に入れた気がするんだ。思い返すと涙が溢れそうになった。辛い記憶だ。でも、、

 「ヒナタ、俺一つ思い出したよ。」

俺は嬉しかったのだ。その感情が伝わったのか。

 「よかったね」

と笑顔で返してくれた。しかし、その目は寂しくもあった。

 「はいはいお二人さん。明日から大変なんだから、気を抜いている暇ないよ。」

俺は適当に「へいへい」とだけ答えた。


 車は揺れ続ける。本格的に始まった仕事。俺は今日も自分を探すために生きるのである。

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