04 柳橋 美湖 著 『アッシャー冒険商会 34』
〈梗概〉大航海時代末期、英国冒険貴族ファミリーが織りなす新大陸冒険活劇。連作掌編。今回もフランス・ルイジアナ植民地領都セントルイスで行われた魔法使い会議の続編だ。
34 洞察力
――ロデリックの視点――
僕・ロデリックは、妻・マデラインとともにフランス領新大陸植民ルイジアナの首都・セントルイスに来ている。
「伯爵、このピラミッドは十ヤードにも満たない小規模なものですね」
「ロデリック君、こういう無名のもの墓には掘り出し物があるものさ」
十七世紀末の北米は、東海岸にイギリス、中部にフランス、そして東部から南部にかけてスペインが割拠していたのだが、三国植民地間の物流はほとんどなかった。だが三国に分れて暮らしていた魔法使いたちは密かに、魔法使い協会新大陸支部を結成し、交流していた。
乗馬服姿の妻が格闘ポーズを取って、開口した玄門の前に立つ。
「旦那様、背中をお預かりします。お気をつけて」
「君の奥方に守ってもらえば、山賊どもも近づくまいよ」
白髭の伯爵に続き、僕は精巧に石組みがなされた羨道の奥へと向かう。
ルイジアナを南流するミシシッピ川支流・イリノイ川東岸には、古代文明カホキアの都城遺跡とおびただしい数のピラミッド神殿がある。支部長のダレット伯爵は、メンバーを率い、いくつかの調査がなされたピラミッドを案内してくれた。それは最も大きな墳丘・モンクス=マウンドではなく、目立たない、ごく小さなもの。方形テラスを二段重ねた小型ピラミッドだった。
松明を持った伯爵が振り返り、
「羨道は緩やかなスロープになっていて、最も深いところでも六フィート半というところだろう。またそこは今やってきた羨道とクロスする、もう一本の羨道がある」
「玄室はどの方向に?」
白髭の老紳が笑みを浮かべ、
「興味深いことに、このピラミッドには羨道の十字路以外に、目立ったものがない。じゃが、三方の突き当り・壁には、それぞれ興味深いレリーフがある」
案内された三方の突き当りの壁には、同じ紋様がある。
「インカ帝国の太陽神〝インティー〟の円盤によく似ていますね」
僕は、レリーフを軽くスケッチしてみる。三つの〝インティー〟の顔を比べてみた。
東は寄り目、西は離れ目、そして北が上目遣いになっている。
伯爵は、
「これのどこに法則性があるのじゃろうのお?」
そのとき――
僕は、稲光のようなものを目のうちに見た。
儀式のインスピレーションだ。
まず例の十時羨道がクロスした場所の床に円を描く。通常はそこに火の五芒星を描くのだが代わりに、〝インティー〟を描く。この魔法陣の中央に正魔法使い、四方向に従魔法使いが立ち、儀式を執り行う。
四人の従魔法使いは、三方向にある〝インティー〟と玄門に合わせ、寄り目・開き目・上目。それから開いた口をする。
そのうえで、姓魔法使いは、霊視の粉末〝イブン=ハジ〟を自らに振りかけ、精霊を使い魔化する〝ズカウバの燻香〟を焚き、黒曜石の破片を列状にはめ込んだ木刀〝マカナ〟を右手でかざしながら、左手で〝キシュ〟の結印をする。そうして、「イア、イア、ヨグ=ソトース」と門ノ神の召喚詠唱をするのだ。
「――なるほど、このピラミッドには、隠し部屋があるのか? クロスポイントに、転移門があるのじゃな?」
支部長の老伯爵は、アイデアを採用し、すぐさま儀式を執り行おうとしたのだが、僕は止めた。
「たぶん。しかしながら御承知のように、〝時ノ神〟召喚による時空飛行はたいがい、未知の空間に弾き飛ばされるか、あるいは精神に異常をきたすリスクがあります」
「分った」伯爵はゴクリと喉を鳴らした。だが、僕と妻がマサチューセッツ植民地に帰還して数年後、禁呪をやってしまったらしい。儀式に参加した魔法使いたちは全員、帰ってこなかったと聞いている。
了
〈登場人物〉
アッシャー家
ロデリック:旧大陸の男爵家世嗣。新大陸で〝アッシャー冒険商会〟を起業する。実は代々魔法貴族で、昨今、〝怠惰の女神〟ザトゥーを守護女神にした。
マデライン:男爵家の遠縁分家の娘、男爵本家の養女を経て、世嗣ロデリックの妻になる。ロデリックとの間に一子ハレルヤを産んだ。
アラン・ポオ:同家一門・執事兼従者。元軍人。マデラインの体術の師でもある。
その他
ベン・ミア:ロデリックの学友男性。実はロデリックの昔の恋人。養子のアーサーと〝胡桃屋敷〟に暮らしている。
シスター・ブリジット:修道女。アッシャー家の係付医。乗合馬車で移動中、山賊に襲われていたところを偶然通りかかったアラン・ポオに助けられる。襲撃で両親を殺された童女ノエルを引き取り、養女にした。