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04 『天才紅教授の魔法講義 其の二十二』

    22 幻覚


 ガラス張りの学内カフェの卓上には、ハイビスカスで飾ったLサイズのグラスが置いてあった。学内カフェ名物トロピカル・ジュースLサイズ一つに、青と紅二本を絡めてハート型にしたストローが挿してある。テーブル越しの椅子に腰かけたカップルが、チューチュー吸っている。

 最近、メガネ君に影のように寄り添う女のコがいる。変態学生代表のようなメガネ君の腕に体を寄せる彼女はけして、おブスではない。キャンパスの黄戸島は過疎地で妙齢女性は少ない。にもかかわらず彼は美少女〝彼女〟をゲットしたのだ。必定、学内ではこの噂でもちきりである。

 学食に行くにも、講堂に行くにも、彼女はいつも一緒だった。

 その時間帯での魔法科紅教授の講義は、擂鉢形というか円形劇場形で行われていた。


「当校〝黄戸島村立大学〟魔法科において、魔法の概念を、次のように分類した。第一の基礎魔法、第二の従魔法、第三の人工精霊魔法、第四の召喚魔法。そしてこれら四つの魔法を組み合わせることによって生じさせる第五の幻術魔法と第六の回復魔法が挙げられる」教授が図化した要点をスクリーン投影し、口頭で補足を加えてゆく。「精神干渉系である幻術魔法は、心理学・催眠術をベースに、基礎魔法、獣魔法、人工精霊魔法、召還魔法要素を加味・駆使して、ターゲットの精神に干渉。幻覚・幻聴を見せ、精神攻撃をする」


 教授が立っている教壇の横で、助教である私・縫目フラ子は、プロジェクターのPCを操作していた。


 それにしても、あのバカップルはウザ過ぎる。こんなところにまで来て、講義の真最中に、ベロチューはないだろう。

 メガネ美人の紅教授は年齢不詳である。外見上はアラサーだが、学科長と溜口で会話する仲であることからアラフィフなのだろうと学生たちに言われている。だが私の中では、人魚を食べて不死と化した八百比丘尼やおびくにそのものだ。少なくとも昭和時代、否、明治時代には生を受けていないと辻褄が会わない。

 その人が講義を止めて、パンと柏手を叩いた。

 するとだ。メガネ君の横にいた女子学生が、スッと消えたのである。キョロキョロと目で探すメガネ君なのだが……。


 教壇の紅教授が、

「催眠術の一種ともいえる幻術魔法は、精神攻撃系魔法として発達した。だが逆に精神療法としても応用可能だ。どうだね、メガネ君、癒されたかい?」


 二重身〝ドッペルゲンガー〟は〝魂の分身〟現象だ。医学においては〝自己像幻視〟と言い、脳の側頭葉と頭頂葉の境界領域(側頭頭頂接合部)に脳腫瘍ができた患者が自己像幻視を見る脳機能障害の症状だと説明されている。だが、十九世紀世紀のフランスの女性教師エミリー・サジェの件は特殊で、学生や生徒四十人以上が、彼女の二重身を目撃されており、この謎は未だに解明されていないという。


 実を言うとメガネ君が私に、あまりにもしつこくストークしてくるので、紅教授が〝治療〟を兼ねた幻術魔法実験の被験者モニターに、彼を選んでいたのだ。私の分身は恋人となり、献身的に寄り添っていたというわけだ。紅教授の柏手で〝術式〟解除がなされた。幻の〝彼女〟はもういない。鼻からまで涙を流した学生が立ち上がって呆然とし、なんだか憐れだった。

 講義が終わった帰り際、メガネ君がいたあたりの床に、ハートのストローが落ちているのを見つけた。


   了

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