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03 らてぃあ 著 『遺言騒動』

【概要】 祖父の困った遺言に振り回される「僕」の話

「あんまりだわ。建物を解体するなんて」

 興奮する母の声が聞こえた。泣いているのだろう。語尾が震えている。

「確かにやりすぎだ。しかし義兄さんたちならやりそうだ。お義父さんも困った遺言をしたものだ」

「エドガに残す物が無くなってしまうわ」

「それは無いよ。男の子に大半の財産を継がせることになっている。ショーン義兄さんには娘しかいない。エイブのほうは結婚する気配すらない」

 父が母をなだめる。しかし母は納得いかないようでいらいらと室内を歩き回る。

 メイドのネリが僕の肩に手を置いて首を振ったので、僕は立ち聞きを止めて台所に移動した。主人の息子が居る場所ではないが暖炉は温かく、コックとネリ以外は来ないから内緒話には最適だ。

「ネリはおじいさまの遺言の内容を知っている?」

「詳細はわかりませんが、遺産の大半は紋章の入った指輪を手に入れた男子に譲る。指輪は神様が守っている。と書いてあったと聞きました。それでエイブ様は教会の敷地を掘り返して神父様を激怒させたことも」

「指輪が隠してあるのは、敷地内だというヒントも与えられているよ。エイブ伯父さんは勘違いしたんだ。それに、指輪が見つからなければ5年後に伯父二人と僕で3分割することになっている」

「エドガ坊ちゃんは指輪の隠し場所がお分かりですか?」

「見当もつかないよ。でも、あの屋敷が無くなるのは寂しいな。解体工事が始まる前に身に行きたいんだ」

「2時間程度なら車を出させます」

 祖父の屋敷には思い出がたくさんあった。最近は学校の勉強や付き合いで忙しくて足が遠のいていたが、その前は毎週祖父の家に遊びに行っていた。一部には抜け目ない商売人と思われていた祖父だが、孫の僕や従姉には優しく、様々な遊びやいたずらを教えてくれた。

 早く遺産を望む伯父二人は喧嘩しながら、屋敷を家探しし、指輪が見つからないと偽物を用意して弁護士を激怒させた。あげく屋敷を解体してまで探索すると言いだした。僕のことなど眼中に無いし、妹である母が何を言っても止められないだろう。


 屋敷の手前の道で車を停めさせ、歩いて門をくぐる。二階の窓に目をやるとレールが曲がっているらしくカーテンの模様が歪んでいた。主である祖父が死んだ時は静かなだけだったが屋敷は今や略奪にあったかのように荒れていた。穴だらけになった生垣を乗り越える。前庭にそびえるカエデの樹を見上げた。祖父によると、この地に僕たちの祖先が住み着いた時に植えたものだという。

 幹に慎重に足を掛け登り始めた。半ばまで上がって枝の分かれ目に落ち着くと右手を伸ばして洞を探り当てた。

「こらっ!! そこで何をしている!」

 怒鳴り声に思わず身をすくめる。恐る恐る下を見ると従姉のキャシがにやにや笑いを浮かべていた。

「驚かすなよ」

「アンタ、運がいいわよ。エドガ叔父さんは外出したし、父さんは今酔っぱらってる」

「眠っているの?」

「世界の終わりまで起きないくらいぐっすりと。それより、その木の穴に指輪があるのね?」

「違うよ」

 僕は洞の中にある物を掴み出すと空中で手を広げた。キラキラ輝きながらビー玉が落下していく。落ち葉の上にそれらが着地するとキャシはそれを拾い集めて見つめた。そしてまた僕を見上げた。

「ねえ、その穴はお祖父様に教えられたのよね」

「そうだよ。先祖代々使っているって言ってた」

「ほかにも穴はあるかしら、ねえ、ちょっとそのままそこに居てね」

 言うや否やキャシは屋敷に駆け込んだ。そして二階の窓から顔を覗かせる。キャシの真剣なまなざしは僕の後ろを見ていた。振り返ると遠くに教会の十字架が見えた。キャシは廊下を歩き、次の窓から顔を覗かせる。3つ目の窓から首を出すと腕を伸ばして指さすと言った。

「そこに、もう一つ穴があるわ」


 従姉の言う通り、カエデの樹にはもう一つ小さな穴があり、指輪はそこにはめ込まれるように隠されていた。僕はなんとか指輪を外して樹を降りた。

「こういうことだったのね」

 駆け寄って来たキャシが言う。

「こういうことって?」

「あたしには、窓からの景色を『神様が守ってくれる』って教えていたのよ。多分、叔母様も同じように教えられたんじゃないかしら、遺産は男子に残す建前になっているけど男女の親族が話し合わないと気が付かないヒントになっていたのよ。お祖父様らしいいたずらよ。あら、何で私に渡すの?」

 キャシは僕に指輪を衝き返した。

「私が見つけたと言ったら、父さんは自分の手柄にしちゃうわ。アンタが大威張りで披露すればいいのよ。そうすれば屋敷も解体も免れる」

「でも、伯父さん怒るだろう?」

「父さんはすぐに立ち直って、私とアンタの婚約を言いだすわよ。よろしくね。未来の旦那様」

 ニヤリと笑われて、僕は従姉に言い返す言葉が見つからなかった。


     了

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