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02 柳橋美湖 著 『アッシャー冒険商会 38』

〈梗概〉大航海時代末期、英国冒険貴族ファミリーが織りなす新大陸冒険活劇。連作掌編。今回はロデリック氏の親友ベン・ミア氏の養子アーサー少年視点。

     38 探索、レディ・ティターニャのこと


 ――アーサーの日記――


 冬が訪れて間もない満天の星空だった。

 父様と僕が暮らしていた荘園屋敷マナーハウス・〝胡桃屋敷〟には古城によくあるような塔があり、そこに望遠鏡を持ち込んで、父様と僕は二人で、星を観ていたものだ。

 父様はヒョロッと背の高い三十半ばのイケメン。職業は魔法使い、稼業は荘園主だ。


「さそり座と射手座の間をかすめるように、ぼんやりと光る帯があるだろ? そこが銀河だよ、アーサー」

「あれっ? あの箒みたいに見えるのは?」

「彗星か。自分が知る限り記録にないものだ。お手柄だね、アーサー」そう言って僕の頭を撫でてくれた父様は、「なんとなくレディ・ティターニアが訪ねてくるような気がする」と続けた。

「レディ・ティターニアって?」

「自分の幼馴染だ」

「どんな人?」

「会えば分るさ――」

 父様が笑った。


 十七世紀も終わりになろうとするころだった。

 ニューイングランド地方は北米東海岸にあり、そこにいくつかある英国系植民地の一つがボストンを首都とするマサチューセッツ植民地だ。そのマサチューセッツの辺地にアーカムという町があり、その町外れに、父ベン・ミアが、荘園を営んでいた。本国イギリスで没落しかけた貴族が、起死回生を狙い移住して来る。このあたりでは珍しくもないことだ。


     *


 ズドドーン……。


 観測を終えた僕らが床に就いて間もない十二時近くだったか、屋敷に近い小作人集落の方角で、先行に続く爆発音があった。

 屋敷の使用人たち男衆は手に手にマスケット銃を持ち、女衆はフライパンやら鋤を持ち、総勢二十人が玄関前に集合していた。

 母国から父様についてきた執事・サマセットじいやが、

「旦那様、お庭の要所に見張りを配置しました。夜が明けるまで、警戒を怠りませんようにいたしましょう」

 未明からだんだん東の地平線が白っぽく明けだす。

 小作人集落の代表を十人組長コンスタブルという。現在の十人組長はアームストロングさんだ。その人が、集落の人々を連れて逃げ込んできた。

「ベン・ミア様、助けてくだせえ」

「どうしたのだ?」

「集落の広場に、ボートくらいでっかいナッツが突き刺さって、そこから二十インチ《五十センチ》くらいの大ナメクジがウジャウジャ湧きだし、集まった奴の首筋に張り付いた。ナメクジがくっつくと、人でも家畜でもみんなおかしくなって、こっちへ襲ってくるんでさ」

「その大ナメクジが憑りついた者を捕らえて、外してみたかい?」

「はい、試しに一人にやってみたんですが、出血多量で死にそうになっちまった……」

「神学校在籍中、図書室で読んだことがある。――恐らくは寄居虫がうなだ」

 逃げ込んできた人たちは老若男女三十人。屋敷の中では家の者たちが窓や玄関に、家具を置いてバリケードにしていた。そこへ寄居虫に乗っ取られた村人たち二十人、馬五頭、牛十頭、さらには犬三匹と猫一匹が左右に体を揺らすようにフラフラと、ゆっくりゆっくり詰め寄ってくる。


 ――歩き方が変だ!


「アーサー、よく見ておけ。敵は、針状の細管を人や家畜の中枢神経に突っ込み、人形使いのように操っている。幸いな事に、銃器を使うほどの知性はないようだな」

 そのときだ。

「ほほほっ、ベン・ミア君、お困りのようね。助太刀させて戴くわね」

「父様、誰、この方?」

「さっき話ししていた、レディ・ティターニアだ」

「私って神出鬼没なの」

 今でもはっきり憶えている。ダチョウの扇子を手にしたその人は紅のドレス姿で、ブロンドのお団子ヘアをしていた。背が高い。ボストンの町にでも行かないと見かけない、まるで女優のような美人だ。

「ねえ、ベン・ミア。要は村人や家畜を傷つけず、寄居虫を駆除すればよいのでしょう?」

「話しが早くて助かるよ」

「これをお使いなさいな」

 謎の貴婦人はポシェットを携帯していて、その中からスプレイ式の香水瓶五本ほどを、父様に手渡した。

 その父様は爺に僕を預けると、後方にいる使用人たちや村人たちに、「屋敷を死守するように」とだけ命じ、レディ・ティターニアと一緒に、操られている人々の群れに飛び込んでいく。寄居虫がついた人や動物は動きが驚くほど緩慢だ。素早く動いた父様と彼女が、舞うようにターゲットの首筋にスプレイ噴射をして回る。スプレイをかけられた寄居虫が、人々の首筋から剥がれ落ちていき、正気に戻っていく。

 なので戦闘は、ものの十分とかからず、終わってしまった。


     *


 集落広場には十人組長が言っていたように、ボートくらいもある大きなナッツが突き刺さっていた。

 レディ・ティターニアが、

「これがいわゆる〝播種船はんしゅせん〟のようね。雀蜂の巣のようなものだから、焼いちゃぇば、寄居虫は全滅する」

「あのお、申し遅れました。僕、ベン・ミアの息子のアーサーっていいます。以後、お見知り置きいただけますと幸いです」

「こらあ、ベン・ミア、私をさしおいて結婚なさっていたの。もおっ、プンプン」

「この子は実の両親を流行り病で亡くした遠縁の親戚でね。養子として引き取ったんだ」

「なーんだ、未婚の父ってやつね。やーん、エッチい」

 〝ナッツ〟の周りに大量の焚き木を積み上げて、松明の火を放ったのだけれども、なかなか焼けず、最終的に父様が特大ファイアーボールで外殻を砕いてやると、内面は、わりとあっさり焼けて、消し炭になった。


 魔女狩りが盛んなころで、魔法使いにとっては受難の時代だ。父様は播種船が燃え尽きるころ、「念のためにね」と屋敷の者や村人たちに魔法術式をかけ、記憶を消した。


 レディ・ティターニアは十日ほど屋敷に滞在した。その間、普通なら安楽死させるほどの骨折をした馬の治療とかもしてくれた。そんなふうにスローライフを楽しんでいた。

 僕もそうだけど、屋敷の者も村人も皆、明るい彼女が大好きになった。

 でも別れは唐突で、夜中、胸騒ぎがして起きてみると、客室をノックしてもその人はいない。いつものように望遠鏡をのぞいているだろう父様がいるはずの、天体観測の塔に行く。すると父様が空を仰いでいる。その先にある天空を彗星が横切って行くのが望めた。


 了

〈登場人物〉


アッシャー家

ロデリック:旧大陸の男爵家世嗣。新大陸で〝アッシャー冒険商会〟を起業する。実は代々魔法貴族で、昨今、〝怠惰の女神〟ザトゥーを守護女神にした。

マデライン:男爵家の遠縁分家の娘、男爵本家の養女を経て、世嗣ロデリックの妻になる。ロデリックとの間に一子ハレルヤを産んだ。

アラン・ポオ:同家一門・執事兼従者。元軍人。マデラインの体術の師でもある。


その他

ベン・ミア:ロデリックの学友男性。実はロデリックの昔の恋人。養子のアーサーと〝胡桃屋敷〟に暮らしている。幼馴染だという神出鬼没の謎の美女レディー・ティターニアがいる。

シスター・ブリジット:修道女。アッシャー家の係付医。乗合馬車で移動中、山賊に襲われていたところを偶然通りかかったアラン・ポオに助けられる。襲撃で両親を殺された童女ノエルを引き取り、養女にした。

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