03 紅之蘭 著 『天才紅教授の魔法講義 其の二十』
梗概/黄戸島村立大学魔法科講師・紅教授と助手・フラ子の日常。
20 橋の上で(バランス)
黄戸島の市街地から村立大学キャンパスに入るとき、敷地を横切る黄戸川があり、そこにかかる大学橋を渡らねばならない。
休日の買い物で外出していた大学で助教をしている私・縫目フラ子は、道路前方を歩く、編み降ろしの髪女性の後ろ姿を見かけた。大学橋を渡ろうとしている。追いかけて声をかけよう。
「紅教授」
「やあ、縫目ちゃん」
途中、ロマンスグレイな学科長がいた。
「縫目君、いつも元気だね」
――いつも素敵だな。きゅんきゅん。
私が橋に足をかけたとき、そこで、ガラガラと橋の両端が崩れ落ちた。
空に浮かんでいたのは、ビジュアル系ロックグループのボーカルみたいな、縦縞ジャケットを羽織った長い髪の男だった。
「我こそは、ゴエテリア七十二悪魔柱が一柱・オセ総統」
そいつは紅教授の横にいた。
「我は三個軍団を率いる魔将だ。どーだ。恐れ入ったか。泣け、叫べ、跪け!」
「オセ総統と言えば、七十二悪魔といっても最底辺にいる子だろ? こんなところにいるとしたら、さしずめ前学長に捕まって使い魔にされ、この橋に封印されていたのだね? 前学長は先週に亡くなった。封印が解けたんだね?」
「おおさ。今や君たちはアンバランスに、支柱に乗っかった橋の板の上にいる。私はこのゲームを始まる前に、上流にある溜池堰堤を決壊しておいた。激流がここに到達するのはあと五分。さあ、君たち、どう解決する」
学科長がいる橋中央下部には一本だけ橋脚があり、そこを支柱に、橋がアンバランスに乗っかっている。
学科長がいった。
「橋脚の端にいる紅教授と縫目君がジャンプして、向こう岸に飛び移るといい」
「学科長、そんなことをしたら、真ん中に取り残された学科長はどうなるのです?」
腕を組んだ紅教授は、
「なるほど、トロッコ問題みたいなものだね。学科長の提案がもっともベターだと思う」
「紅教授、全員助かる方法はないのですか?」
「ないこともない」
紅教授は学科長を呼び寄せた。学科長が紅教授のもとに駆け寄る。そのことによってバランスが崩れ、カタパルト投石器よろしく私は、大学側の向こう岸に射出される。橋の端に取り残された紅教授は、学科長を抱き寄せる。
「これで学科長は私のもの。ふふふ、若い縫目ちゃんに勝った!」
「紅教授、何言っているんですか」
濁流が押し寄せてきた。
だが橋梁は沈まず、筏になって下流へと押し流されていくだけだった。
夕方、村の漁業組合捜索船団が、沖合に浮かぶ橋梁を発見。二人を救出した。
さて一つ問題。
このトロッコゲームを仕掛けた悪魔総統オセは現在、すっかり、紅教授に飼い馴らされている。
学科長が訪ねてきたとき、
「紅教授、オセをいったい、どうすれば使い魔に――」
「パイパイの魔法。――この子は学科長と私の子ですよ」
その悪魔は幼児化して、教授に抱っこされて、すやすや寝息をたてている。
えっ?
了




