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03 柳橋美湖 著 『アッシャー冒険商会 36』

〈梗概〉 大航海時代末期、英国冒険貴族ファミリーが織りなす新大陸冒険活劇。連作掌編。今回は、インディアン・サマーについて。

     36 可憐


 ――アラン・ポオの日記――


「馬十頭が盗まれた? 賊は、どこから侵入したのです?」


 朝、少し明るくなったころアッシャー荘家令である私、アラン・ポオは、原住民出自使用人の取りまとめ役・ハイアワサに事態を訊ききましたところ、


「アラン様、こちらへ」


 まだ地面が凍っていて、霜に複数の足跡が残っております。

 アッシャー荘のお屋敷の周囲には、ここを守る門人食客が寝泊まりする丸太小屋が連なり、さらに周囲を一〇〇インチ(※二・五m)の柵で覆っておりましたので、ちょっとした砦のような外観を呈しておりました。


「ハイアワサ。柵の一角が壊され、そこから足跡がオークの森に向かっている。これは厄介ですね」


 フランス系はイングランド系よりも小柄ですが、母方がイングランド人のためか、英国人である私はいささか背が高い方でございます。ですが目の前にいる黒髪を長く伸ばしてひっつめにした褐色肌の原住民偉丈夫は、数インチ高く、八十インチ(※二m)を超えております。


「はい。賊の数は十人ばかり。しかし日が昇ったらすぐに霜はとけて、奴らの足跡は消えてしまいます」


 九月末になるとここ北米では初霜が降る。それから十一月半ばにかけて、夜間に雪が降り、氷も張るようになる。ところが、ひとたび夜が明けると暖かくなって、雪や氷が溶けて足跡が消える。馬泥棒は文字通り、足のつかない季節を狙ってやってくるのでございます。


「駄目もとだが……」


 頭に霜を戴いた私とハイアワサは馬を駆って、色づいた葉が落ちだしたオークの森を西に向かって駆けて行きました。


「アラン様、やはり足跡は途絶えてしましましたね」


 すると横合いの大枝のあたりから声がいたします。仰げばそこに器用に寝そべり、こちらを見下ろす幼女がおりました。


「ツァトグゥア様――」


 そのお方はハイアワサたち原住民が女神と崇める存在。ツァトグゥア様は、二つ名が〝怠惰の女神〟だけあって、双眸は半開き、大きくあくびをしながら、


「ハイアワサよ。汝の配下で、左腕に大きな古傷を持つ者がおろう。そやつを締め上げれば、賊の居場所を吐くだろうよ」


「ゴヤスレイは真面目な男だ。まさか――」


 それでアッシャー荘へ戻った私とハイアワサは、小柄なゴヤスレイを捕らえて縛り上げ訊問したところ、女神の仰せのように、賊に金を渡され手引きしたことを白状したのです。ただ賊に子供の一人を人質にされ、やむを得ず犯行に加わったことが明らかになりました。

 北米マサチューセッツ湾に臨んだ英国海外領土ニューイングランドには、マサチューセッツなどいくつかの植民地があり、そこから西へ向かい、アパラチア山脈を越えた中米には、広大なフランス海外領土が広がっております。賊どもは盗んだ馬をそこで売ろうというのでございましょう。


「ファイアーボール!」


 一見優男のロデリック旦那様は魔法貴族でございましてね。奥様マデライン様は幼いころから私めが、剣技・格闘術の手ほどきをいたしました。そして私、アラン・ポオの三人が賊どもを先回り。賊の出鼻をくじきます。


 後方からは、ハイアワサと配下二十名からなる騎馬の若衆の本隊で、挟み撃ちに。ゴヤスレイの娘を救出、馬二十頭も無事奪回。もちろん捕らえた一味・十人は、治安判事につき出させて戴きましたよ(ドヤっ)。


 そうそう、女神様には蜂蜜種を一瓶、ご奉納の旨、ご報告申しげておきましょう。


 了

〈登場人物〉


アッシャー家

ロデリック:旧大陸の男爵家世嗣。新大陸で〝アッシャー冒険商会〟を起業する。実は代々魔法貴族で、昨今、〝怠惰の女神〟ツァトグゥア(ザトゥー)を守護女神にした。

マデライン:男爵家の遠縁分家の娘、男爵本家の養女を経て、世嗣ロデリックの妻になる。ロデリックとの間に一子ハレルヤを産んだ。

アラン・ポオ:同家一門・執事兼従者。元軍人。マデラインの体術の師でもある。


その他

ベン・ミア:ロデリックの学友男性。実はロデリックの昔の恋人。養子のアーサーと〝胡桃屋敷〟に暮らしている。

シスター・ブリジット:修道女。アッシャー家の係付医。乗合馬車で移動中、山賊に襲われていたところを偶然通りかかったアラン・ポオに助けられる。襲撃で両親を殺された童女ノエルを引き取り、養女にした。

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