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ラウンド1:我、筆を執る理由(わけ)~創作の魂、ここにあり~

(オープニングの熱気を帯びたスタジオ。照明が少し落ち着き、中央のテーブルを囲む4人の巨匠たちに、より柔らかな光が注がれる。司会のあすかが、手にしたタブレット「クロノス」に新たなテーマを映し出し、静かに口を開く。)


あすか:「皆様、素晴らしいオープニングトーク、誠にありがとうございました。それぞれの『マンガとは何か』というお言葉、その一言一句に、皆様の生き様と哲学が凝縮されているようで、私自身、心を揺さぶられました。」(深く一礼する)「さて、ここからはさらに深く、皆様の創作の核心へと迫ってまいりたいと存じます。『クロノス』が示す最初のバトルトピックは…こちらです。」


(「クロノス」のスクリーンに、力強い筆文字で『我、筆を執る理由わけ~創作の魂、ここにあり~』というテーマが映し出される。スタジオの壁面にも、その文字が荘厳なエフェクトと共に投影される。)


あすか:「皆様をマンガへと駆り立てた、その根源的な情熱とは何だったのでしょうか?そして、そのペンを通して、最も伝えたかったメッセージ、あるいは表現したかった世界とは、どのようなものだったのでしょう。…まずは、手塚治虫先生。オープニングではマンガを『可能性』そして『終わりのない旅路』と表現されましたが、その旅路において、先生を突き動かし続けた『魂』の在り処について、お聞かせいただけますでしょうか。」


手塚治虫:「ふむ…『魂の在り処』、ですか。」(少し目を伏せ、言葉を選ぶようにゆっくりと語り始める)「ええ、確かにマンガは無限の可能性を秘めていると、私は今でも固く信じております。しかし…その可能性を追求する中で、常に自問自答してきたことがあります。それは、この表現手段を通じて、一体何を、どこまで読者に届けるべきなのか、そして、届けることができるのか、ということです。」(ここで一度言葉を切り、他の三人の顔を静かに見渡す)


手塚治虫:「若い頃は、ただただ描きたいという衝動のままに、様々なテーマに挑戦しました。生命の尊厳、戦争の愚かさ、未来社会への警鐘…。それらを物語という形で、特に未来を担う若い世代に伝えたいという使命感のようなものが、確かに私を突き動かしていました。しかし…」(少し声のトーンが変わり、内省的な響きを帯びる)「しかし、時として、あまりにも生々しい現実や、人間の持つどうしようもない業を描こうとすると、それをそのままの形で提示することへの躊躇も生まれました。読者がそれをどう受け止めるのか、あるいは、商業的な作品として成立するのか…そういった現実的な壁に突き当たるたび、美しいオブラートで本質を包み隠してしまうような、そんなもどかしさを感じていたことも…否定できません。ですから、私の『魂』というのは、常にその理想と現実の狭間で、より良きものを、より真実のものを求め、もがき続けてきた…そんなものかもしれません。」(静かに語り終え、深く息をつく)


あすか:「理想と現実の狭間での、もがき…手塚先生の真摯なお言葉、胸に迫ります。スタン・リーさん、手塚先生のお話にも通じる部分があるかもしれませんが、先生が『シェアード・ドリーム』と表現されたマンガを創造する上で、読者に最も届けたいと願った『魂』とは、どのようなものだったのでしょうか。」


スタン・リー:「オー、ミスター・テヅカのその葛藤、アーティストなら誰しもが抱えるものかもしれないね、実に興味深い!」(手塚に親しみを込めた視線を送る)「僕の場合かい?そうだなあ…僕の魂の叫びは、もっとシンプルかもしれないね!とにかく、読者をハッピーにしたい!現実の辛いことなんて、僕のコミックを読んでる間だけでも忘れさせてあげたいんだ!」(エネルギッシュに両手を広げる)


スタン・リー:「もちろん、僕のヒーローたちだって、ただ強いだけじゃない。スパイダーマンは家賃の心配をするし、X-MENは社会から疎外される痛みを抱えている。そういう人間的な弱さや悩みをしっかり描くことで、読者は彼らに共感し、『ああ、こいつは俺と同じだ!』って思ってくれる。そして、そんな彼らが困難に立ち向かい、時には打ちのめされながらも、決して諦めずに再び立ち上がる姿を見て、勇気をもらってほしいんだ!だから、僕のマンガの魂は、やっぱり『ネバー・ギブアップ!』そして『どんな時でも希望はある!』ってことかな!それを、最高のエンターテイメントとして届ける!これに尽きるね、エクセルシオール!」(自信に満ちた笑顔で締めくくる)


あすか:「希望と、ネバー・ギブアップ!まさにスタン・リーさんのヒーローたちそのものです。…さて、水木しげる先生。オープニングではマンガを『屁のようなもの』と、非常にユニークな表現をされましたが、その自然な発露としてのマンガに込められた、あるいはそこから滲み出てくる『魂』というものについて、お聞かせいただけますでしょうか。」


水木しげる:「魂ねえ…。」(ゆっくりと首を傾げ、少し遠い目をする)「いやあ、お二人の話を聞いとると、なんだか水木サンだけ場違いな気がしてくるねえ。高尚な魂だの、希望だの言われても、こちとら、そんな立派なもんは持ち合わせとらんのですよ、へへへ。」


水木しげる:「水木サンなんかはね、まあ、ご存知の通り、戦争で片腕はなくすわ、復員してからも食うや食わずの貧乏暮らしだわでね。マンガ描くっちゅうのも、最初はそりゃあもう、生きるため、今日のメシにありつくためだったのが正直なところだった。だから、原稿料もらえりゃ何でも描いたし、寝る間も惜しんでね。でも、そうやって無我夢中で描いとるうちに、なんかこう、自分の中に溜まっとったおりみたいなもんが、スーッと出ていくような、そんな感じがあったんですよ。」


水木しげる:「戦争で見た無数の死や、人間の愚かさ、それから、貧乏の中で見つけたささやかな幸福だとかね。そういう、言葉にするには重すぎるようなもんが、妖怪だとか、名もなき兵隊だとか、そういう形を借りて、紙の上に現れてくる。それが、水木サンにとってのマンガかねえ。だから、魂なんて言うと大げさだけど、まあ、生きてきた証というか、見てきたもん、感じてきたもん、それを正直にぶちまける…それができりゃあ、あとは野となれ山となれ、ですよ。それで、たまたまベビーたちが『面白いねえ』なんて言ってくれたら、そりゃあもう、水木サンにとっては、最高の勲章だねえ。」(飄々とした表情で、しかしその言葉には確かな重みがある)


あすか:「生きてきた証…そして正直にぶちまける。水木先生の壮絶な体験と、そこから生まれた表現の力強さを感じます。…では、鳥山明先生。先生はオープニングでマンガを『最高の暇つぶし』であり『ワクワク』だとおっしゃいました。その『ワクワク』を生み出す源泉、そして先生が読者に届けたいと願う『魂』について、お聞かせいただけますでしょうか。」


鳥山明:「え、えーと…僕ですか…。」(少し背中を丸め、指をいじりながら)「いやあ、もう、手塚先生やスタンさん、水木先生のお話を聞いてると、僕なんかが語れるような『魂』なんて、本当にあるのかなあって、ちょっと恥ずかしくなっちゃいますね(笑)。」


鳥山明:「僕の場合、本当に、なんていうか…難しいことはあんまり考えられないタチでして…。ただ、自分が子どもの頃にマンガを読んで、なんかこう、理屈抜きで『うわー、面白い!』とか『カッケー!』って思った、あの感じを、今度は自分が描く側として、誰かに味わってもらえたらなっていうのが、一番大きいですかねえ。」(少し照れくさそうに、しかし真剣な目で語る)


鳥山明:「だから、キャラクターを考える時も、『こいつ、こんなことしたら面白いかな』とか、『こんな技があったらスカッとするだろうな』とか、そういう、自分が読んでてワクワクするようなことを、ひたすら考えてるだけなんです。あんまり深いメッセージとか、社会的な何かを訴えたいとか、そういうのは…僕にはちょっと荷が重いかなあ、なんて(笑)。でも、僕のマンガを読んだ人が、ほんの少しの時間でも、日常の嫌なことを忘れて、単純に『ああ、面白かった!』って笑ってくれたり、ドキドキしてくれたりしたら、それで僕としては、もう、大成功なんですよ。それが、僕にとっての…えーと、一番大事なこと、ですかねえ。はい。」(最後に、ふにゃりとした笑顔を見せる)


あすか:「読者に『面白い!』とストレートに感じてもらうこと…その純粋な想いが、鳥山先生の作品の圧倒的な魅力の源泉なのですね。」(優しく微笑む)「理想と現実の狭間、希望と共感、生きてきた証、そして純粋なワクワク…四者四様の『創作の魂』の形が、今、ここに示されました。まさに、それぞれの先生方が歩んでこられたマンガ道そのものを映し出しているかのようです。」


(あすかは一度、深く頷き、スタジオの空気が新たな緊張感と期待感に包まれるのを感じながら、言葉を続ける。)


あすか:「さて、皆様の創作の原点にある熱い想い、そしてそれぞれの哲学に触れさせていただいたところで、このラウンド、さらに深掘りしてまいりたいと思います。皆様が語られた『魂』は、果たして読者に、そして時代に、どのように届いているとお考えでしょうか。あるいは、届ける上で、どのような困難や喜びがあったのでしょうか。手塚先生、いかがでしょう。」


手塚治虫:「そうですね…私が作品に込めた『生命の尊厳』や『反戦』といったテーマは、幸いなことに、特に若い読者層を中心に、多くの方々に受け入れていただけたと感じています。ファンレターなどで、『“火の鳥”を読んで生きる勇気が湧きました』とか、『“ジャングル大帝”から自然の大切さを学びました』といった言葉をいただくと、ああ、描いてきてよかった、と心から思いましたね。」(穏やかな表情で語るが、すぐに少し複雑な色合いが浮かぶ)


手塚治虫:「しかし、その一方で、先ほども申しましたように、あまりに直接的な表現や、社会の暗部を深く抉るようなテーマは、商業作品として発表する上で、どうしても…そう、スタンさんの言葉を借りるなら、ある種の『スパイス』としてではなく、時には本質を隠してしまうような『オブラート』に包まざるを得なかったという自覚もあります。本当はもっと剥き出しの、どろどろとした人間の業のようなものを描きたいという欲求は、常に私の中にありました。その点、水木さんのように、ご自身の壮絶な体験をあそこまでストレートに、しかしどこか飄々と作品に昇華されているのを見ると…ええ、正直に申し上げて、うらやましく思うことも多々ありましたよ。私には、その勇気がなかなか…。」(言葉を切り、静かに息をつく)


スタン・リー:「ミスター・テヅカ、あなたのその真摯な姿勢には、いつも心を打たれるよ!」(力強く頷く)「だがね、その『オブラート』だって、最高のテクニックじゃないか!どんなに苦い薬だって、甘いコーティングがあれば子どもだって飲めるだろう?君の作品は、その美しい絵と感動的なストーリーというオブラートがあったからこそ、より多くの人々の心に、大切なメッセージを届けることができたんじゃないのかな?」


スタン・リー:「僕だってそうだ!スパイダーマンがただ悩んで苦しんでるだけの陰気なヤツだったら、誰も見向きもしなかっただろうさ!彼が摩天楼をウェブでスイングする、あのエキサイティングなアクション!あのカッコよさ!それがあって初めて、彼の抱える孤独や葛藤が、読者の胸にリアルに響くんだ!僕のところにはね、イジメに遭っていた子がスパイダーマンの『大いなる力には、大いなる責任が伴う』という言葉に奮起して自分を変えようと努力し始めたとか、重い病と闘っている子がキャプテン・アメリカの不屈の精神に励まされて治療を頑張っているとか、そういう手紙が、本当に山のように届くんだ!これこそ、僕らがマンガを描く最高の報酬であり、僕らの『魂』が確かに届いている証じゃないかな!」(誇らしげに胸を張る)


あすか:「読者からの声が、まさに創作の力となり、魂が届いた証となるのですね…。水木先生は、ご自身の『生きてきた証』が、読者にどのように届いているとお感じですか?当初はなかなか理解されにくい部分もあったのではないかと拝察いたしますが。」


水木しげる:「ふふん、まあ、そうじゃなあ…。」(少し口元を歪めて笑うような表情)「水木サンが描き始めた頃のマンガっちゅうたら、そりゃあもう、勧善懲悪で、主人公は美男美女で、悪いやつは分かりやすく懲らしめられる、そんなんばっかりだったからねえ。わしみたいに、得体の知れん妖怪だの、戦争で死んだ兵隊だの、貧乏人のうらぶれた話だのを描いとると、そりゃあまあ、気味悪がられたり、『こんな陰気なもん、子供には見せられん!』なんて親御さんに怒られたりもしましたよ。貸本屋の隅っこで、こっそり読まれるようなもんでしたわい。」


水木しげる:「それがねえ、不思議なもんで、何十年も同じようなことばっかり描いとると、いつの間にか世の中の方が変わってくるのか、それとも物好きになったのか(笑)、『鬼太郎、面白い!』だの、『水木サンの言う幸福論は深い!』だなんて、小難しいこと言う学者さんまで出てきたりしてねえ。こっちは別に、難しいこと伝えたつもりも、ましてや教育しようなんて大層なこと、これっぽっちも考えとらんのじゃけど。みんな、勝手に何か感じて、勝手に解釈してくれる。それでええんですよ。魂が届いたかどうかは知らんけど、まあ、水木サンが屁をこいたら、誰かが『お、今の屁はなかなか味がある』なんて言ってくれるようなもんかねえ、へへへ。」(独特のユーモアで締めくくる)


鳥山明:「(くすくす笑いながら)水木先生のお話、なんだか…すごく面白いです(笑)。僕も、自分のマンガが海外で、あんなにたくさんの人に読んでもらえるなんて、本当に夢にも思ってなかったですからねえ。言葉も文化も違うのに、なんで悟空の戦いにあんなに熱狂してくれるんだろうって、今でも不思議なくらいで。」


鳥山明:「僕、別に世界平和とか、そういう大きなメッセージを込めたつもりは全然なくて…ただ、読んでる人がページをめくるたびに『次はどうなるんだろう!』ってワクワクしてくれたら、それでいいなあって思って描いてただけなんです。でも、もしかしたら、そういう理屈抜きの『楽しさ』とか『強さへの憧れ』みたいなものが、国とか関係なく、みんなの心にストンと届いたのかなあ、なんて…。だとしたら、それはすごく嬉しいことですね。手塚先生やスタンさんみたいに、マンガで何か大きなことを伝えようとか、社会を変えようとか、そういうのは僕にはとてもとても…真似できないですけど、本当にすごいことだと思いますし、尊敬します。」(素直な気持ちを吐露する)


手塚治虫:「いやいや、鳥山さん、あなたの作品が持つ、あの国境を越える力、あの純粋なエネルギーは、誰にも真似のできない素晴らしいものですよ。時に、難解なメッセージよりも、ストレートな『楽しさ』の方が、より多くの人々の心を動かすことだってあるのですから。私自身、あなたの作品を読むたびに、マンガの持つ根源的な力を再認識させられます。」(鳥山に温かい眼差しを向ける)


スタン・リー:「その通りだぜ、ミスター・トリヤマ!難しく考えちゃダメさ!まずは楽しむこと、楽しませること!それがエンターテイメントの原点だ!君のマンガは、まさにそれを体現している!素晴らしいじゃないか!」


水木しげる:「うんうん、鳥山さんの言う通り、面白いのが一番だねえ。小難しい理屈こねくり回すより、読んでスカッとするのが、マンガのいいところかもしれん。水木サンも、難しいことはよう分からんから、そう思うよ。」


あすか:「皆様、それぞれのアプローチで読者と向き合い、時代と対話し、そして確かにその『魂』を届けてこられたのですね…。手塚先生の仰る『オブラート』も、スタンさんの仰る『最高のスパイス』も、水木先生の『自然な発露』も、そして鳥山先生の『純粋なワクワク』も、全てがこのマンガという表現の豊かさ、奥深さを示しているように感じます。」(深く頷く)


あすか:「創作の原点にある熱い想い、そしてそれが読者や時代とどのように共鳴してきたのか…。皆様のお話から、マンガというものが単なる娯楽を超え、いかに私たちの心や社会に深く関わってきたのかを、改めて痛感いたしました。この第1ラウンド『我、筆を執る理由~創作の魂、ここにあり~』、まさに魂のぶつかり合いとも言える、濃密な時間でございました。」


(あすかは一度、スタジオ全体を見渡し、静かに息を吸い込む。)


あすか:「さて、皆様の創作の原点と哲学に触れたところで、次のラウンドでは、その魂がどのように具体的な『キャラクター』と『物語』を生み出していくのか、その秘密に迫ってまいりたいと思います。ご期待ください。」


(スタジオの照明がゆっくりと変わり、第1ラウンドの終わりと、次なるラウンドへの期待感を静かに告げる音楽が流れ始める。)

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