156-160
156虫は所詮虫
虫には虫の命がある
人には人の命がある
虫の命は人の命には代えられない
人の命も虫の命には代えられない
人は虫のために犠牲になれるだろうか
それができないから
エゴという
ただの悪意で社会通念と異なる価値観を
エゴとはいわない
ただの低レベルな言いわけである
知らない人が多いのもそういう詩人が多いからである
詩人は何の代わりになるのか
何の代わりにもなれない虚無である
魚の骨を咥える
157お魚咥えた
お魚咥えた野良猫
野良猫を咥えたサザエさん
サザエを咥える美食家
美食家を咥える愛人
愛人を咥える赤ちゃん
赤ちゃんは誰の子
知らない子
158映画館
四人しか観客のいない映画館
映画は始まっている
観客の代わりに暗闇が座る
面白かったら暗闇が笑う
悲しかったら暗闇が泣く
驚いたら暗闇が叫ぶ
四人はぼーっと眺めている
映画が終わる
明かりが付きて
暗闇は消える
静かな四人の観客に
映画館は静かに
立ち去れと言う
159コーヒーカップ
アイスコーヒーの
冷たさが
染み入る
蝉の声はまだ季節でない
新聞が積み重なるように
時は過去を積み重ねていく
季節が変わっても変わらなくても
言葉のページが捲られても
捲られなくても
横にある
コーヒーは
美味しい
コーヒーカップは
3500円する
160意味のない
意味のない
言葉の羅列に
音楽があるように
意味のある
言葉の羅列に
鍵盤がある
ピアノは世界の地図で
地図にないところに
モップと水の入ったバケツがあり
掃除当番
という感情がある