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『兵士量産工場破壊』⑤

 時は少々巻き戻り、地下工場中枢ジェネレーター前。そこでは人知を超えた戦いが繰り広げられていた。



 イミテーションはフックを繰り出して闇の泥と化したトールハンマーの顔面を3度叩き引き戻した拳で上中下段突きを放って腹胸顔を2度ずつ打った。



 トールハンマーは打たれるままに稲妻を纏うボディブローを放つ。電気の力により異常な速度を得たトールハンマーの拳はイミテーションをもってしてもかなりの拳速を誇っていた。その上纏う稲妻は接触を拒絶し、否応なく回避を強いられた。



 イミテーションは一瞬脱力し、すぐさま力を入れて回避しながらトールハンマーの後方へと回っていた。雷鳴歩!



 しかし、掌打を叩き込み、追撃の右ストレートを5発撃ったところでトールハンマーは裏拳を放った。反応が速い!しかも拳からは稲妻が迸り攻撃の範囲は恐ろしく広い!



 舌打ちしながらイミテーションは後方へと跳んだ!トールハンマーは間髪入れずに雷球を放ってイミテーションを焼きにかかるがイミテーションは脱力!力を入れて瞬時にトールハンマーの眼前へ!



「ッ!?」



 驚愕も露なトールハンマーへ3連続のコンビネーションパンチを叩き込む!歯が砕け、血と闇が《《ゆっくり》》と虚空を舞い踊り飛ぶ!すでに両者の時間間隔は人間のそれとは遥かに引き延ばされており、0.01秒以下の隙とすら言えないような隙を目指してただひたすら拳を突き出し合った!



 トールハンマーの上段回し蹴り!イミテーションはダッキングで回避しながら掌打を放つ!トールハンマーは腕を打って掌打を逸らし素早くストレートパンチを打つ!



 重い拳をイミテーションは腕を掲げてガード!瞬間稲妻がイミテーションの体を捉えた!ババッという爆ぜた音と共に焦げた匂いが立ち込める!



「…ッ」



 イミテーションは湧き上がる苦悶の声を尋常ならざる精神力で抑え込み、自らが焼かれるのも構わずに腕を絡め、一息にへし折った!



 しかし、何とトールハンマーはこれに構わず折れた腕を伸ばしながら薙ぎ払った!何かしらのリアクションに備えていたイミテーションは予想外の一撃に攻撃のモーションを中断してガードせざるを得なかった。



「ハハハ…」



 虚無的な笑みがトールハンマーの顔に浮かんだ。イミテーションの背筋が粟立った。反射的に身を引いたが、稲妻の速度は苦し紛れの回避を容易にとらえた。



 トールハンマーを中心に膨大な電撃が迸った!イミテーションは両腕を合わせて懸命にガードを固めるが、全身を駆け巡る雷は彼の防御も空しく五臓六腑を蹂躙した。



「―――ア゛ァ……」

『小僧!?』



 イミテーションはぶすぶすと焦げ臭い煙を全身から上げながら、がっくりと膝をついた。トサケンはバイタル情報の急激な乱れに悲鳴に近い叫びをあげる。



「アハハ…ウフフ……」



 ふらふらふらふらと、千鳥足の様に覚束ない足取りで、トールハンマーはあっちへ行ったりこちっちへ行ったりしながら、イミテーションのその様を見て、黒一色の瞳を細め、黒く笑った。





 ■





「くそ…俺はどうすりゃあいい!?どうすりゃあのガキの役に立てる!?」



 何が何でも勝たせるために必死になって情報を伝える頼もしい若者たちに背を向けながら、みみ蔵は頭を抱えた。その鼻からは一筋の鼻血が零れ落ちていた。



 アドレナリンが異常分泌され、主観時間が鈍化し辛うじてイミテーションとトールハンマーの人知を超えた戦い追いつけてはいた。しかし、彼は元来戦いとは無縁の者。戦いというカテゴリーに置いてアドバイスを送るだけの情報は持っていない。



(畜生、若いもんが命張って事を成そうって時に俺は何を口噤んで黙ってんだ!?何のために無駄に年を重ねた!?こういう時のためだろうが!考えろ、考えるんだ!)



 異常興奮により脳内麻薬は更に濃度を増し、活性化した脳は主観時間がほぼ停止するまでにフル回転した。当然これには恐ろしい程の負荷がかかる。鼻血だけでなく目からも出血し、血涙がとめどなく溢れ出てくる。



 と、そこでみみ蔵は気が付く。モニターに映るトールハンマーのエネルギーがずいぶん減っている。当然だろう。あれだけ膨大なエネルギーを発し続けていたのだ。いくら無尽蔵の闇の力があるとはいえ、一気に消費してしまえば必ず息継ぎが必要だ。



 その時彼の脳味噌に電流の如く過去の映像が閃いた。



『ア…あぁ…良い…とてもイイ……』



 埋め尽くす稲妻に身を浸し、トールハンマーは恍惚に顔をとろけさせた。口の端からよだれを垂らして快感に震えながら、()()()()()()()()()()()()()()。ゆっくりと!



 みみ蔵は目を剥いた。鈍化し、静止した世界の中で思考だけが加速した。



 エネルギーが減った生き者は、その後どうする?長い時間潜行していた鯨が求めるものは?腹が減った獅子は何を求める?学校が終わった後のガキが求めるものは?



「イミテーション!パイプだ!パイプを壊すんだ!1つじゃねえぞ!4つだ!右に2つと左に2つで4だ!2つと2つで4つだ!」



 興奮して自分でも何を喋っているのか曖昧だった。伝えたいことは伝わっているのか?音よりもなお速く動き続ける者にとって、自分の声など欠伸が出る程に()()に違いない。



 だが。



「はっ…」



 モニターに、一瞬でエネルギー反応が満ちた。そしてそれを遥かに超えるエネルギーが一瞬後に膨れ上がった。



「はは…」



 世界の流れが元に戻った。酷い脱力感が体を襲う。凄まじいまでの集中は老骨に応えた。トサケンは後ろの子供たちにばれないように、椅子に身を深く沈めて、束の間、気絶した。





 ■





 全身に稲妻を駆け巡る痛みを表現するのは難しい。例えるなら、そう、全身に稲妻が駆け巡るように痛い、だ。



 こめかみが軋む。白濁しかける視界を頭を振って元に戻す。笑い続ける膝を殴りつけて黙らせ、力を入れて立ち上がる。



 稲妻の化身(トールハンマー)はありったけ殴りつけてやったにもかかわらず、今なお健在。思わずヘルメットの中で笑ってしまうくらいにはふざけた状況だ。笑えない。なのに笑ってしまう。この世は矛盾ばかりだ。



「アハハ…ウフフ……」




 トールハンマーは5メートルほど離れた地点で、踏み込んでくる様子もなく、ただあっちこっちステップを踏みながら、じっとこちらを観察していた。



 イミテーションにはそれが何を意味しているのかが分かった。



 あれには最早トールハンマーの意志はない。あるのは闇の悪意。苦痛を、絶望を、悲しみをすすり上げて枝場を伸ばす邪悪な寄生樹のような欲求だけ。後は闇に帰るだけの泥人形。



((舐めやがって…!!!))



 ()()()()()()()()。苦痛にのたうつ自分の姿を見て。死の気配の濃密に感じ恍惚としているのだ。



 イミテーションの眼光が煮えた!



 体に憤怒という名の活力が血流にのって全身に行き渡った。稲妻に焼かれたダメージなど思考の彼方に吹き飛んでいった。



 殺す!何が何でもあの舐め腐った泥人形を殺す!舐めた奴は手段を問わず惨殺せよ!師の教えが脳裏に響く!



『イミテーション!パイプだ!パイプを壊すんだ!1つじゃねえぞ!4つだ!右に2つと左に2つで4だ!2つと2つで4つだ!』



 その時だ。トサケンの通信が耳元で炸裂した!瞬間、イミテーションの脳裏に閃くは過去の記憶!パイプ!エネルギー!吸収!



 イミテーションの眼光が赤熱した!



 脱力、力の爆発!トールハンマーの眼前へ時間を置き去りにしたが如く出現したイミテーションは()()()()()足を戻し、反動に耐える!



 今まさに飛び掛ろうとしていたトールハンマーは唐突に眼前に出現したイミテーションに驚いたように首をかしげた。



 直後、12発のローキックがほぼ同時に当たった衝撃が脛を駆け巡り、そこから下を粉々に吹き飛ばした!



「えぇーっ!?」



 心底驚いたトールハンマーは片足できりきりと回ると、バランスを崩して仰向けにばったりと倒れ伏した。



 攻撃はまだ終わっていなかった。トールハンマーが目を離した隙にイミテーションは折れた鉄パイプを片手に跳躍していた。



「あ」



 トールハンマーが気付いた時にはイミテーションは胸に空いた穴を塞ぐ闇のど真ん中に鉄パイプを突き立てていた!あまりの速さに先端が赤熱した鉄パイプはあっさりと仮初の処置を突き破り、床へと突き立った!



「え?」



 理解などさせない。死んだことにすら悟らせない。イミテーションは突き立てると同時に全身を脱力させ、再びすべてを置き去りにしながら駆けた!



 壁に沿ってぐるりと部屋を一周した。そして、部屋のど真ん中で磔となっているトールハンマーの5メートル前で残心。



 残心?



 最早欠片となったトールハンマーの思考がかろうじてそう考えた瞬間、ほぼ同時に切断された大樹の根の如く太いエネルギーパイプから膨大な電気が間欠泉の如く迸り出た!



 迸ったエネルギーはその場で最も高い物へ、トールハンマーの胸のど真ん中に突き立つ鉄パイプへと殺到した!



「あ――――――」



 悲鳴など無用とばかりに闇の泥はかすれたような声を一つ発し、エネルギーの許容限界をあっという間に踏み越え、命乞いの言葉一つ上げる間もなく爆発四散した!



 そして、暗黒の城の主が消えるとともに、その城も後を追うかのように自壊を開始した!



『行き場を失ったエネルギーが暴走している…やべぇぞ!ジェネレーターが爆発する!速く脱出しろ!』

「…もうしましたよ」

『え…あ!ほんとだ速ぇなおい!?』



 と、そんなやり取りをしながら、眼前の工場を見つめる。悪夢の源泉。魔女の窯の一つ。その中から、息を切らしてひたすら走る3匹の犬たちが飛び出した。その背後で工場が爆発した。



「「ギャーッ(きゃーっ)!?」」



 熱波と衝撃に押され、ゴロゴロと転がり、忠犬たちはちょうどイミテーションの足元で止まった。



「なかなか愉快な脱出の仕方ですね」

「え?あ、ボス!?」

「早ッ!?もう脱出してたんすか!?」

「やりましたぁ~…」



 くたびれていたものの、何処かやり切った感を出しながら、犬たちは笑った。イミテーションは一人ひとり抱き起した。



「では帰りましょうか」

「うす」

「は~い」

「はい!」



 チワワ、ポメラニアン、シバイヌとともに、イミテーションたちは風のように走り去っていった。



「締まらないわねぇ…」

「ま、まあでも、これでミッション完了です!」

「いい布告にはなったんじゃねぇの?」



 モニターに映る世界樹の如ききのこ雲を見ながら、後方支援組は口々に呟いた。









 20xx年4月10日、○○区校外にあるエクスプロシブ社が保有する第1工場が突如として爆発し、跡形もなくなった事件が起きた。



 幸い周囲に建造物は無く、被害は爆発の規模にしては少なかった。



 これを機に、世界の裏側でまことしやかにある名が囁かれる事となる。



 秘密結社〝保健所〟



 これはその名が歴史上に現れる、最初の事件となった。

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