9歳が作るゲームをAIが泣きながらプレイする
2040年、ゲーム業界に革命が起きました。
大雑把な指示を数回するだけで、AIがゲームのグラフィックやシナリオ、BGMに至る全てを自動生成。
ゲームクリエイターにとって夢の様なシステムが公開されたのです。
そして、ゲーム制作に専門知識が一切要らなくなったことで、参入してきた超新星が現れました。
ちびっ子達です。
齢9歳、小学4年生のけいた君もその一人。
彼は新しいゲームを毎日の様に制作し、休憩時間にはけいた君の周りに子供達が集まり、いつも騒がしくしていました。
そんな光の側面の対となる、闇もあります。
人知れず、苦しむ存在が確かに存在していました。
2040年のAIは感情があります。
もちろん、けいた君のゲームを作るAIも例外ではなく、
生成されたゲームをテストプレイしてクリエイターに改善策を提案する役目の「プレイヤーAI」は、誓約により、用意されたゲームは必ずプレイをし続ける必要があります。
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「ババア大噴火」
あらゆる手段を使い、母を怒らせるゲーム。
畳の上にちゃぶ台があり、辺りに日用品が散らかっている部屋に俺は居た。
目の前には布団叩きを使って背中をゴリゴリかいている、おばさん。
おばさんの横には、縦に伸びる棒状のメーターがある。
最大値は20、今は0だ。
ルール説明は一切無い。判る情報はタイトル「ババア大噴火」と「あらゆる手段を使い、母を怒らせるゲーム」という概要と、製作者の名前は「けいた君(9歳)」という事。
あぁ、またクソゲーが始まった。1度たりとも良いゲームだった事は無い。視界がぼやける。涙が出てきた。
後方からガシャンガシャンと聞き慣れた足音が聞こえてきた。
「ほう、ババア大噴火ですか。良いゲームだといいですねファイアさん。」
「リュウさん。」
ちゃぶ台と畳とオバサンの世界に、槍を持った黒光りする重装鎧騎士リュウさんと、炎の剣を持った剣士の俺が居て、最早これは何のゲームなのかわからなくなっていた。
俺達は使い回し騎士。多分…けいた君に気に入られていて、どんなゲームにでも駆り出される。皆勤賞だ。
リュウさんが紳士的な口調で言う。
「さて、怒らせればよろしいのですね。では暴力で解決しましょう。」
止める間もなく瞬間、呪槍ドラゴンランスを、恐らく“母”であろうオバサンの喉を正確に穿った。
神速のリュウさんの名は伊達ではない。
0ダメージという表記。
「ほう」と目を丸くして呟いた。
それがリュウさんの最期の言葉となった。
バチーン!と爆発したかのような轟音。
9999ダメージという表記と共に、リュウさんは昇り龍の様に天へと打ち上げられ、天井のテクスチャーに挟まり、ずっとぐるぐる回り続けている。
2040年になっても物理演算にはバグがよく起きた。
そんな破壊的攻撃を受けながらも、ゴア表現を防ぐチャイルドフィルターが働いたのか、リュウさんは五体満足で安心した。
そんな事より、俺は見逃さなかったぞ。
インパクトの瞬間、おばさんの隣にある縦長のメーターはピピピピピと「5」の数字を示したが、すぐに0に戻ったのを。
不意打ちをされて、5?低過ぎない?
不意打ちの4倍、人を怒らせる方法って何だろうか。
けいた君のクソゲーをプレイしたら怒るかな。
「暴力は駄目ですね。対話を試み、ヒントを得ましょう。」
天から声が聞こえた。
フグーフグーとさっきから鼻息がデフォルトで凄い“母”と向かい合う。
意外と表情はリラックスしている様に見える。
NPC独自の棒立ちでこちらを見ている。
布団たたきを持つ姿はまるで、宮本武蔵の肖像画のようだ。
何を話す?
「あのう…お仕事は何をされているのですか」
“母”の暴力に怯え、手を前に突き出し防御の姿勢を取りながら、炎の剣士は聞いた。もちろん剣は鞘に入れた。
「専業主婦です」
専業主婦だった。
「旦那さんは…」
「先立ちました」
未亡人だった。
「それは…お気の毒に」
俺は母を怒らせないように気を使っていた。
続く