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長距離2rdギア

作者: ソラホシ(仮称)

 とある二人が出逢い、始まりの夢の話。


 ぐわん


 上から下へ、緩やかだが、大きな波。


 少年はゆっくりと目を開けた。どうやら揺られているうちに寝ていたようだった。何処で寝ていたんだろうとぼんやりしながら周囲を見る。

 顔はヘルメットをしており良く見えないが、ショートヘアで6本の腕がある女性が自分を背負いながら、今乗っている物を運転している。

 その女性は少年が起きたのに気づいた。


「起きちゃった?少し飛ばしすぎたかな」


「ううん、大丈夫。」少年は首を振った。


「まだまだ時間かかるから寝ててもいいよ?」まだ幼い少年のことを思ってか、女性の声は優しい気づかいが満ちていた。


「うん」少年は返事をし、気づかいに甘えて女性の背中にもたれ掛かった。


 返答を聞いた女性は、緩やかにスピードを落とした。


 ぐぅん


 少年は窓の外を流れる景色をぼんやりと眺める。


「疲れた?」女性は訊いた。


「うん」息をするように答えた。


 女性は一本の腕を少年へと伸ばし、頭を撫でる。


「お疲れ様」と一言添えながら。


 女性はしばらく少年を撫で続ける。静かさが二人を包む。


「ねぇ」


「ん?」


「もっと、わしわし撫でて」撫でる強さが足りなかったのか、少年はもう少し強めの撫でを求めた。


「いいよ~、こう?」

 そのリクエストに応え、女性は少年の頭をワシワシ撫でた。少年の髪はボサボサになった。


「どうですかな?」


 返事が無い。


 少しの沈黙の後、少年は答えた。

「うん、いい感じ」


「良かったぁ~。怒ったのかと思ったよぉ」

 

「そんなことないよ、久しぶりに撫でられたからさ」


「そうなの?パパとママ優しくないね」


「だって」ポツリと続ける。


「僕が出来損ないだったから」少し声を震わせながら呟いた。


「そんなことないよ。」女性はその言葉を否定した。


「どうして?」少年は不思議そうに訊いた。


「実を言うとね、お姉さんも君のパパとママにはお世話になったんだよね」女性は少年に言った。


「そうなの?」驚いたのか、少し身を乗り出す。


「ま、みャオはそのお世話が嫌になって逃げたんだけどね」


「へー、凄いや」少年は感心した。


 少年はふと考え込んだ。記憶の何処かに心当たりがあると思った。


「確か、結構前になんか騒ぎがあった気がするけど、もしかしてそれ?」


「多分それかな~。あいつらしつこすぎてさぁ~、撒くのが大変だったよぉ。」女性はため息をつきながら話した。


「まだ実験結果が出せてなかったんじゃない?」


「それもあるね。てか、あいつら結果出したら処分するか売るかするつもりでしょ」


「そうなんだ」


「君のことは施設に居た頃から目を着けてたのさ。あいつら、君のことをどうしようかとか話してたのを聞いてさ」


 少年は何も話さなくなった。


 暫くの間、二人の間に沈黙が続いた。


「ていうか、みャオの騒動の時に逃げれば良かったのに!」


「だって、動けなかった」言い訳のように答えた。


「だってってことは、ホントは逃げたかったんだね?」その言葉に問いただす。


「うん」少年は頷いた。


「でも、みャオが逃げたのは君を助ける為なんだ。色々と準備が必要でさ、その為に逃げ出したんだ」


「ふぅん」素っ気ない生返事をする。


「遅いよ、来るのが」少年は女性を抱き締めた。その手は震えていた。


女性は少年の頭を撫でながら「ゴメンね!外に出てから君に不自由な思いはしてほしくなくてさ!」慰めた。


「、、ありがとう。」少年は女性の背中に顔を突っ伏したまま答えた。


「これからは自由だよ!何でもやりたいことが出来るよ!」


「つまり、お姉さんと一緒ってこと?」


「うん!一緒だよ」


「独りじゃない?」


「勿論。独りにさせないし、君は笑ってた方が似合うよ」真剣に応えた。


「ありがとう。」少年は女性に感謝の言葉を返した。


 あ、泣いているような気がする。春が来たかのような温かさが、みャオの後ろで飽和してる。


「あ、でもお風呂は別々ね?お姉さんと一緒だと君の将来が心配になっちゃうから」励ますように冗談を交えた。


「なっ、別に一人で入れるよ!」鼻をすすりながら言い返した。


「あッしゃッしゃッしゃ!ウソウソ!冗談冗談!」大きな声で笑った。


「じゃ、速度あげるぞ~?ちゃんと掴まっててね?」

 女性はそう言い続けるとギアを上げた。


 ぐわん


「ちょっ!」

 突然少年はびっくりして女性の体を強く抱き締めた。


「大丈夫だよ~!ちゃんと押さえてるよぉ?この腕でね~」

 女性は押さえてるその腕で少年の脇をコショコショとくすぐった。


「あっ!やめっ!あはは!」少し声が裏返りながら、笑みがこぼれ始めた。


「いヒヒ!笑え笑え~!」いたずらな笑みを浮かべながらくすぐり続けた。


「も、もう笑っ!てるからぁ!あははは!」体をくねらせながら少年はくすぐり続ける腕を抑えようと抵抗する。


「あハハハ!こうか?ここがエエんだろぅ?うりうり~」更なる追い討ちをかける。


「もういい!もういいってぇ!」少年は抵抗を諦め、笑いながらも必死にもがいて逃げようとした。


 とある夜。とある二人の笑い声。とある大地に流れ星。


 真夜中の星が満ち満ちる夜空。そのうちの星の一つが、まるで二人の笑い声の残響を覚えようとしているかのように。


 煌めいた。

 二人の名前の話は、まだ先の夢の話。

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