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1-2 ダンジョン内Wi-Fi復活作戦②

プロローグと前話が同時投稿されています。よろしければそちらよりお願いします。

 F-06ダンジョン404地点。


 オークキメラドローンは、自分のことを狙っている四人組がいることに、すでに気が付いていた。だからと言って、すべきことがあるわけではない。生身の人間はモンスター攻略用ドローンの敵ではない。もう間もなく、地上からドローンが派遣されてくるだろう。一体どんなドローンが来るだろうか。


 ふいにコウモリの頭部が、新しい気配を感知した。


『oh……とうとう来ましたか。冒険者のドローン。地上から派遣されたにしては、またずいぶんと早い』


 オークキメラは気配のするほうに、ゆっくりと体を向けた。


 視線の先、一体のドローンが姿を現す。その姿を見たオークキメラは、肩をすくめた。


『やれやれ、なめられたものですね。まさかコブリンドローン一体で来るとは』



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



『……そう? 普通はこんなもんだと思うよ?』


 404地点。オークキメラドローンと会敵したコブリンドローンのアコは、呆れた様子の敵にそう答えた。


『逆に聞くけどさ。その戦闘用ドローン、どうやって手に入れたの? オークとコウモリのキメラだよね?』


『NYで捕獲したS級オークと、アマゾンの洞窟で捕獲したIRバットのキメラです』

 機械がかった声で、オークキメラが返答する。


『素材の仕入れに50万、改造に30万ドルかかった。ですが、なかなかいい買い物をしたと思いますよ』


『ドルね。やっぱり君外国人? その日本語は同時通訳の機械音声か……なんだってそんなお金持ちの君がトーキョーくんだりのダンジョンのWi-Fiをつぶして回ってんの?』


『……クソ狭い道しかないくせにフェラーリを買うような日本人には、わからないでしょうねぇ。

 300キロ出せる車を購入するなら、300キロ出せる道路も買うものだ。車がかわいそうだよ』


『あーなるなる。大体わかったよ』

 あきれ果てたアコの声。


『つまり君は腕試ししたいわけだ。私ら冒険者と。

 でもなんでWi-Fiつぶしたの? ドローンを操る冒険者と真剣勝負したいなら、せめて通信環境は互角にしないとズルじゃない?』


『チュートリアルというやつですよ。私もそこまでドローンの操縦に慣れてるわけじゃありませんから。君たちはプロです。いくつかWi-Fiつぶして、通信速度を落として、ドローンの動きを多少ぎこちなくしてくれないと。許してください。


 まぁ、君も、べつにそのコブリンドローンが壊れたところで死にはしないでしょう? トーキョーの地上のどこかで操縦している。なんでしたら、この勝負が終わった後、新しいコブリンドローン買ってあげますよ。付き合ってくれたお礼くらいはします』


『……』


『ああ、そうそう、あと、私を偵察した四人ほどの冒険者がいたはずだ。彼らの命の保証はしかねます。私のドローン、強力すぎるので。巻き込んでしまうでしょう。今のうちに逃げるよう、説得してくれないでしょうか』


『……断る。それに、頼まれたって、あいつらは逃げないよ。パーティーは私が守る』

 アコはきっぱりと言い切った。


『そしてお前はこの場でぶっ倒すよ。クソ富豪の重課金勢さん』


 それが、戦いの合図となった。


『hahaha! nice guts! では。遠慮なくつぶさせていただきます。Yo-ho!!』


 オークキメラドローンは、快哉の声とともに、アコのドローンに飛び掛かった――。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



『……すばらしいですね。チュートリアルと言ったのは謝りましょう……』


 オークキメラドローンから、興奮した合成音声が響く。攻撃の手は緩めない。柱のように太い腕を振り回し、その拳は時折ダンジョンの壁すらも破壊する。だが、その拳はかすりもしない。

 

 アコの操るコブリンドローンは、素人目に見ても尋常じゃない動きを見せていた。オークキメラの周囲を軽やかに飛び回り、紙一重でかわしては、爪でオークキメラの肌をひっかく。


『周囲のルーターはすべて破壊したはず! 通信環境は劣悪というに、なんという反応速度でしょうか!』


『っせーな、ザコ! しゃべってる暇あったら、ちゃんと当てろザァコ!!』


 壁を蹴り、空中を飛び回る起動をしながら、アコのコブリンは攻撃を繰り出す。オークキメラの肌には、すでに赤い傷がいくつか刻まれていた。だが、オークキメラの操縦主は、どこか余裕だ。


『ザコで結構。ですが、操縦するドローンの性能差が歴然です。そちらのコブリンの爪では、ひっかき傷程度が精いっぱい。対してこっちは一発当てれば勝利です。スタミナ等も考慮すれば、ジリ貧はそちら。そして壁際に追い詰めれば……』


 オークキメラが突然、コブリンに突っ込んできた。多少のダメージは覚悟してゴリ押すつもりか。アコはバックステップでコブリンを回避させるが、すぐに壁にぶち当たる。逃げ場がない。


『Goch'a!! 私の勝ちだあぁぁぁ!!!』


 オークキメラは雄たけびを上げながら、両拳をコブリンに叩きつける。


 バギャァッ!!


 オークの拳が、ダンジョンの地面にめり込む。鼓膜が破れるかというほどの破砕音。その地割れは周囲の壁だけでなく、天井すらも覆いつくすほど。


 だが……。


『wha……肉をつぶした感触がない。躱された』


 唖然とするオークキメラ。


『馬鹿な、逃げ道はないはず……』


 だが、あるとすれば、それは、


『天井……!』


 オークキメラが見上げる先。コブリンは天井に()()()()()


 足の鋭い爪を天井のヒビに食い込ませ、あぜんとするオークキメラを見下ろしている。


 そして――。


『Noooooooooooob!!!!!!!』

 

 腰をヘコヘコと動かすように、オークを見下ろしながら屈伸煽り。


 ブチッ。オークキメラの操縦主の頭の中で、何かが切れたようだ。


『……f***! ちょこまかとうごかないshitthef***thisどろーんいいかげん母親fucker!!』


 絶叫とともに、オークキメラはめちゃくちゃに暴れ始めた。


『おいおいゆっくり喋れよザコぉ。翻訳機が認識できてねぇじゃんか』


 先ほどまでの戦いから一転、アコは攻撃を加えず、代わりにひたすら煽りを始めた。


『ねぇねぇ、800万ドルもかけたドローンが量産型のドローン倒せないの、なあぜなあぜ? あれあれぇ、どーちて(こぶち)が当たらにゃいのなにゃぁ。当たらないねぇ、当たらないねぇ、悔しいねえwww』



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 


 それから五分がたった。ダンジョン内に響いていた地響きのような戦闘音はぱたりと止んでいる。代わりにこだますのは、オークキメラドローンのスピーカーから流れる罵詈雑言だけだ。


『fuck! なんで動かないんだよ。故障か、このポンコツが!』


『故障じゃないよ……こいつを使ったんだ』


 アコの操るコブリンドローンが、自らの口の中に手を突っ込んだ。そして、胃の中に収納していた小瓶を取り出す。


『これは、アセチルうんたら分極薬。コブリンの爪に仕込んでたんだ。血管に入ると、全身の筋肉が硬直して、動けなくなる。機械化されていても、ベースは生物だからね。爪でつけたひっかき傷から、有効量の三倍の量を注入できたはずだよ』


『……』


 オークキメラドローンはしばし沈黙した。


『……お前、一体ナニモンだよ。ただのドローン操縦主じゃないな。いや、違う。そのコブリンが実は特製品なんだろ。そうだ。そうに違いない。そうじゃなきゃあの反応速度はあり得ない。

 正直に言え。そのドローン、いくら金を積んだ?』


『アハハ! このドローンは既製品だし。一番安い奴だしぃ。ざこざーこ。悔しいねぇwww。ネット環境つぶせば勝てると思っちゃったんだねぇwww。


 あいにくだったね。私はただのドローン操縦主じゃないのよ。


 私は、冒険者。ダンジョンに潜るのが仕事。ダンジョンに潜って、ドローンを操ってモンスターをしとめるのが私の仕事……ね、わかる?』


 オークキメラは心底驚いたらしい。


『……まさか、お前、ダンジョンにいるのか! 地上からじゃない。ダンジョンの中からそのドローンを操っているのか!!』


『せいかーい。かっこいいでしょ。冒険者兼ドローン操縦主。Wi-Fiつぶしご苦労様。直接電波を飛ばす私には関係ないし。何より通信速度がダンチだよね。単純に近いから』


『……狂ってる!!』


『どーも。君と私とでは、覚悟の決まり方が違うんだよ』


 吐き捨てるように言うと、アコは小瓶を、コブリンの胃の中にしまった。そして、別の瓶を取り出す。


『さて、トドメだ。今度は神経毒を使ってみよう』


 瓶のふたを開け、爪にまぶし、オークの肌に突き刺す。オークの皮膚は固く、深々とは刺さらないが、それでも傷口から血が流れる。


『ポネラトキシン……一滴で500円くらいかかるのがネックだけど、効果は絶大。ひどい激痛を引き起こす。


 一応、確認するけど、ドローンの皮膚感覚が操縦主の脳神経と共有されてるのは、さすがの君も知っているよね? 特に二足歩行型のドローンは、そっちのほうが簡単に操作できるから』


 オークキメラから、戸惑う声が聞こえた。


『知っている、が、それがなんだ。ドローンに痛みが加えられたところで、俺は何ともない。触覚ならともかく、痛覚は共有されてないはずだ』


『ブブー。ごく少量に抑えられてはいるけど、ないわけじゃないよ。デフォルト設定だと約1/1000に痛覚は抑えられているんだ。痛覚が多少あったほうが、動きもよくなるしね。多分、君のもそう……そろそろ来たんじゃないかな?』


『OHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!!!!!!!!!!!』


 オークキメラから叫び声が上がった。コウモリに挿げ替えられた顔が、瞼をぴくぴく動かしている。体を動かして痛みを逃れたいのだろうが、筋肉が硬直しているので動けない。


『つまり、君の耐えられる傷みの1000倍の神経毒を流せばいいってわけ。ま、君がどこまで根性があるかわからないから、世界で一番強力なのを通常量の三倍にして入れてみた』


『AAhhhh shit the bit……ブッ……』


 突然、オークキメラのスピーカーから流れていた叫び声が、ブツリと消えた。同時に、オークドローンは石像のように固まり、ピクリとも動かなくなる。


 コブリンドローンのスピーカーからは、安どのため息が漏れた。


『通信切断……狙い通りだね、クソチキン野郎め。


 勝ったよ、みんな。ジャイアントキリングって楽しいねぇ。初心者狩りだけど』

読んでくださり、ありがとうございました。

次回更新は一週間後です。

9/18 18:00 

どうかよろしくお願いします。

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