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【悲報】まとめブログ管理人、美少女VTuberに襲撃される

「あなたがブログで書いた内容を民事、刑事両方で訴えます」


 目の前で仁王立ちする女は毅然と、そして鋭い視線で俺を見下ろしながら言い放った。床に倒れこみ、鼻血を垂れ流しながらうなだれる23歳男子に対し、彼女が情けをかけるそぶりは一切見られない。


 六畳一間、アパートの一室に女性と二人きり。大学時代、夢見たシチュエーションであるものの、こんな殺伐とした状況になるとはまさに夢にも思わなかった。


 絶体絶命。

 逮捕、訴訟、賠償。


 恐ろしいワードが次から次へと湧いてくる頭をどうにか落ち着かせ、俺はこの状況の始まりを思い出そうとしていた。






 ことの始まりは確か、つまらないTV番組を横で流しながらネットサーフィンで時間を潰していた午後10時過ぎだったと思う。宅配業者以外ではめったに鳴ることのない我が部屋のインターホンが鳴り響いた。


「こんな時間に……?」


 特に宅配便が届く予定はない。とすれば宗教勧誘か、もしくは怪しい押し売りか。一瞬無視しようかとも考えたが、珍しい時間の珍しい来客に好奇心が少しだけうずいた。


 顔だけ見て、危なそうな気配がしたら無視すればいい。そんな軽い気持ちでドアスコープを覗いてみると、ドアの前に立っていたのは一人の少女だった。


 今になって思えば、夜遅くに俺の部屋に見たこともない少女が訪ねてくる時点で普通ではない。ドアを開ける前に一言『どなたですか?』『何の御用ですか』と尋ねるべきだった。


 まあ、結局のところ尋ねたところで結果は変わらなかっただろうが……。少なくとも、スケベ心丸出しの笑みを浮かべた男が、玄関を開けた瞬間に見知らぬ女性から顔面を殴られるという事態には陥らずに済んだと思う。



 玄関のドアを半分まで開け、少女の全容が見えかかったタイミングだった。


 肩まで伸びた艶やかな黒髪に、それとは対照的に色白の美しい肌。長いまつ毛の下にある、彼女のくっきりとした綺麗な瞳は真っすぐに俺を見据えていた。


『なんて可愛いんだ……』


 あまりの美しさに見惚れていた刹那、いきなり目の前の少女は俺の顔面に右ストレートを叩き込んできた。


 ドゴッ。


 鈍く、そして重い音が脳内を駆け巡った。力のこもった一発は見事に俺の顔面を打ち抜き、ノックアウトKO。

 壁に激突し、背中から倒れこんだ。


 かろうじて意識は保ったが、予想外すぎる出来事にまるで理解が追い付かない。

 ご、強盗なのか……!?


「か、金目のものはありませんっっ……!!命だけはぁ……!!」

 やっとの思いでひねり出した言葉がこれだった。


 ボタッ……、ボタッ……。


 鼻血と涙を垂れ流す俺を見下ろしながら、少女は表情を変えず落ち着いた様子でドアを閉じ鍵を閉めた。


「はじめまして、山村さん。いや、"Vtuberまとめるぞ速報"ブログの管理人さんと言った方が適切かしら」


「私はあなたにブログでこき下ろされた美少女Vtuber"紋狗アルカ"です」


 な、何で俺がブログ管理人ってバレてるんだ……!?。

 確かに俺は現在、新卒で入社した会社を半年で退職し、ブログの広告収入のみで生活している。そのブログも世間一般が想像ブログではなく、インターネット掲示板の書き込みを転載し記事を作成する所謂"まとめブログ"だ。


 だからこそ理解できない。ブログ記事に俺の身元が割れる情報は一切なかったはずだ。Vtuberやリスナーを面白おかしく揶揄する記事しか作ってなかった。

 じゃあ開示請求でも受けたか?いや、そんなはずはない。THE几帳面男と言われるぐらいには朝昼晩ポストの確認を怠らずにやってきた。開示請求に関する書類など一度も届いてないのだ。


 いや、そもそもVtuberって。美少女Vtuberの紋狗アルカって……。昨日、記事で取り上げたばかりの奴じゃねえか!


 ますます混乱し、もはやパニック状態に陥るこちらとは対照的に、"紋狗アルカ"なる女の表情は変わらない。鋭い視線をこちらに向けながら、倒れ込む俺のもとに歩み寄り、腰をかがめて顔を間近まで寄せてくる。

 獲物を物色するかの如く、じっくりと俺の顔を眺め、彼女は言った。


「人を殴るのって、こんなにスッキリするんですね……」


「さて、どこから話を始めましょうか。山村さん」


 彼女は背中に背負っていた鞄の中から一枚のA4の紙を抜き取り、俺の目の前に掲げた。紙には、俺が運営するブログの記事が印刷されていた。





【悲報】Vtuberさん、とんでもない名前で活動していまう


 1.名無しの投稿者 2023/08/01(金) 13:11


 紋狗アルカ


 2.名無しの投稿者 2023/08/01(金) 13:12


 は?


 5.名無しの投稿者 2023/08/01(金) 13:12


 面白いとおもってんのかね


 8.名無しの投稿者 2023/08/01(金) 13:13


 AV女優もそうだけど当て字やめろ


 9.名無しの投稿者 2023/08/01(金) 13:13


 草


 10.名無しの投稿者 2023/08/01(金) 13:14


 もんいぬあるか?


 13.名無しの投稿者 2023/08/01(金) 13:14


 >>10

 馬鹿発見


 16.名無しの投稿者 2023/08/01(金) 13:14


 名前からして滑ってる奴見たいと思うか?


 17.名無しの投稿者 2023/08/01(金) 13:14


 vtuberってこんなんばっかだな


 29.名無しの投稿者 2023/08/01(金) 13:16


 >田舎の高校に通う18歳の女子高生。

 >一見すると、どこにでもいる普通の女の子だが、その実彼女の正体は世界一のツンデレ。

 >私はあなたに興味はありませんが、たまには歌ったりゲームしたりしています。私のことを好きになっても無駄ですからね。でも、もしかしたらあなたにだけ優しくしてあげるかもしれません。


 自己紹介文草


 29.名無しの投稿者 2023/08/01(金) 13:17


 >>29

 草


 30.名無しの投稿者 2023/08/01(金) 13:17


 >>29

 草


 31.名無しの投稿者 2023/08/01(金) 13:17


 >>29

 ちょっと笑ったわ


 32.名無しの投稿者 2023/08/01(金) 13:17


 >>29

 こいつアホやろ



 管理人の一言「Vtuberあるある。奇天烈な名前で注目引こうとする」




 流れ作業のような形で、まとめブログの記事は量産されていく。だから、一つ一つの記事に対してそれほど思いを込めることもなければ、注意を払うこともない。そもそも、掲示板からのコピペ(コピーペースト)転載記事なのだ。この記事を上品な内容だと反論するつもりはない。


 とはいえ、俺も誹謗中傷のラインを超えないようには気を付けてきた。この内容で『こき下ろされた』と言うのはいささかオーバーな表現のような気もする。

 だから、俺は彼女に尋ねた。


「な、何か問題ありましたでしょうか……?」


「……」


 数秒間の静寂の後、彼女の額に青筋が浮かぶのがはっきりと見て取れた。


「大、アリ、だろうがァ!」


 バコンッ!


 怒声を上げた彼女は、近くにあったティッシュケースを思いっきり蹴り上げた。


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