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16-5.フレデリカは図面を描いた者を追う

 フレデリカは、アッシュ家を警護するように玄関ドアの脇に直立していたサンジョから精霊武具の図面を受けとると、工房から持ち出した羊皮紙と一緒にコズに渡す。


「この紙、比べてみて何か分かりませんか?」


「ん? これは……。羊皮紙だな。同じ工房で作られた紙に見える、と言えなくもない」


「本当ですか?」


「っと」


 フレデリカが一歩前に出る勢いが強いから、コズは思わず仰け反る。相手が元王女でアルズの想い人でなければ、コズは自分が妻帯者であることを忘れて抱きついてしまったかもしれない。だが、王女の忠実なる侍女がナイフのように鋭い目つきで睨んでくれるから、コズは妻に後ろめたさを感じる必要はなくなった。


「羊皮紙は名前とは裏腹に豚とか牛とか色んな動物の皮を使うんだけど、とりあえず、これはどっちも羊。それに、製紙工房ごとに技術力が違うからデキも変わってくる。二枚とも、軽石で皮から脂肪を丁寧に落としてある。品質は最上。そのことを考慮すると同じ工房で作られた物、つまり、同じ場所で買われた可能性が高い」


 見目の良い王女が興味を抱いてくれるのを心地よく感じながらコズは続ける。


「羊は便利な生き物だから何処でも飼育していますよね? だから、羊皮紙は高価だけど、金さえあるなら何処でも入手しやすい。基本的に紙を作った工房がその場で販売する。俺みたいな画材商は遠方の鉱物や植物を取り扱うけど、羊皮紙は扱わない」


 王女が身を乗りだし、侍女の目つきが険呑ならざる光を宿すから、コズは早口に結論を述べる。


「つまり、この羊皮紙はどっちもヴァニカラード内の工房で作られて販売されたもの。だから、この図面はアルズの工房にあった紙の可能性が高いです」


「そんな。でも……。ありえない……。そんなこと……」


 アラフでもアルズでもない。では、誰がアッシュ家の工房に侵入して、アラフと似た画風の図面を描いたのだろうか。


「えっと、教会堂にあったフレスコ画みたいな大作は、画家組合から同業者を連れてきて一緒に作業することもあるから、そこでアラフさんの技法を学んだ画家が居る可能性はあります」


「そう、ですよね……。そんな人、居たかな……」


 絵を描いている家族の姿を見るのが好きだったフレデリカは、自宅兼用の工房には入り浸っていたし――アルズと喧嘩した理由の大半が、遊んでほしくて下積み修行の邪魔をしたからだ――作業現場には何度も同行した。けれど、その思い出の中に、アラフとアルズ以外の画家は居ない。


(私がお城に行ってからアルズが弟子をとった? でも、だったら得意げになって、俺もついに弟子をもったぞって、私に自慢するよね?)


 やはり、アルズの部屋で会ったコズの名を騙った男が怪しい。


「コズさんがアルズと初めて会ったのは、二年前、マルクラートの酒場ですか?」


「おう。そうだよ。アルズから聞いたのか?」


「……アルズの家に居た人は、どうしてそのことを知っていたんだろう……」


「俺の名を騙った奴か。確かに怪しいな。なあ、隣の家の子供が会っているんだろ? 聞いてみようぜ」


「そうだわ。ミッケルに聞きましょう」


 話についていけない千人長サンジョと新兵コルや侍女のミルティを気にせず、フレデリカとコズは隣のナッハ家を訪ねた。


 そして、ミッケルから、偽りのコズの人相を聞きだす。


 教会堂に飾られた物語画で既に名声を得ているアラフ、遺作として描いたフラダ王国王女の肖像画で後世に名を残すであろうアルズ、二人の偉大な画家と同居していたとはいえ絵心のないフレデリカは、ミッケルの記憶を頼りに拙い技術で人相を描きだしていく。


「えっと……。年齢はそちらのコズさんと同じくらい、かな? 父さんと同じくらい背が高くて、見たこともない青い服を着ていました。髪が赤くて逆立っていて……。眉間には皺が寄っていて怖そうな顔つきなんだけど、表情が穏やかというか優しそうな感じの人でした」


 聞けば聞くほど、フレデリカはある男の姿が脳裏に浮かんでくるし、人相画がある男に似てくる。視線で侍女に問いかけると、ミルティも小さく頷く。城の内郭で遭遇した王族殺しの大罪人と驚くほど特徴が一致する。


 元王女と侍女が困惑を深めていると、それまで所在なさげに立っていた新兵トルが口を挟む。


「あれっ……。図面を持ってきた人に、似てる、かも?」


「本当に?」


「は、はい」


 フレデリカは混乱の渦中にあった。シエドアルマ皇国のルイド・ゴーエンを想わせる容貌の人物が収穫祭の数日間アッシュ邸に滞在し、マルクラートの画材商コズ・リーランの名を騙った。そして、市街の屯所に精霊武具の三面図を持ってきた……。


 分からないことだらけだったが、幸い、ペールランド王子との政略結婚は宙に浮いてしまったし、フレデリカには時間が余るほどある。もう、歴史や礼儀作法の勉強も楽器の練習もしなくてよい。


 田舎で隠遁生活を送るふりをして仇を探す旅に出ようと企てていたフレデリカは、コズの名を騙る人物の足跡を追うことにした。



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