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16-3.駐屯所に精霊武具の三面図が届く

 フラダ王国の都ヴァニカラードの外城壁と市壁の間に市街地があり、そこに兵の屯所がある。平時は千人程度の兵士が所属し、市街や市壁の警備に当たっている。


 フレデリカがコズと出会う、半刻ほど前のことだ。城内の屯所で多くの欠員が出たため、優秀な人材を寄越せと上から通達があり、隊長は執務室で頭を悩ませていた。城内を任せられるような礼儀作法を身につけた人材に心当たりがない。隊長が名簿を投げだそうかと思い始めた頃、来訪者があった。


 ノックとほぼ同時にドアが開く。


「隊長」


「おい、新兵。入れと促す前に開ける奴があるか」


 千人長サンジョは声を低くし、新兵トルを睨みつける。


 上官に睨まれたトルは顔を青ざめさせて背筋を伸ばす。まだ少年の面差しが残る若い兵士だ。歳は二十にも満たないだろう。


「す、すみませんでした」


 トルは慌てて室外に戻ると勢いよくドアを閉めて、その音でさらに上官を不機嫌にさせる。作業を続ける気分ではなくなったサンジョは名簿を机の上に投げた。


「おい、新兵! 一度開けたんだから出直す奴があるか!」


「す、すみません……」


 怒られて萎縮したのか、ドアの向こうから小さな返事があった。


「いいから、用件はなんだ」


「多分、手紙だと思うのですが」


「手紙? 見せてみろ」


「は、はい」


 先程よりも小さなノック。ドアはしんとして開かない。


「……入れ」


 胃痛を抱える上官は椅子の肘掛けを力一杯握り、怒鳴り散らしたいのを堪えた。


(何故、またノックが必要だと思った! 俺が手紙を見せろと言ったのだから、入れという意味が含まれているに決まっているだろ! まったく今時の若い者は!)


「あ、あの」


 新兵は怖ず怖ずと机の前にやってくると、丸められた紙の束を端にこっそりと置いた。


 受けとろうと手を出していたサンジョは、またしても怒鳴りたくなる。トルは怯えるあまり視線を落としており、上官の方を見ていなかったので手を差し出されたことに気付かなかったのだ。


 サンジョは椅子から腰を浮かせて紙の束を取る。


(シエドアルマ皇国が攻めてくるというのに、おしめが取れたばかりの子供と変わらないような兵士がなんの役に立つのだ……)


 よほど几帳面な人間が結んだらしき紐は、簡単には解けそうにない。目を細めて指先に集中し紐を解きながら、サンジョはトルに訪ねる。


「新兵、名前はトルとか言ったな。お前、どうして兵士になった」


「……え?」


 返事が遠いと思ってサンジョが手元から視線をあげると、トルは既にドアまで下がっていた。怖い隊長の部屋には長居したくないらしい。トルはドア枠から半分だけ顔を出す。


「じ、自分は孤児院の育ちなのですが。孤児院にはお金がありません。だから、自分が兵士になれば、一人分の食費がなくなると思いました」


「そうか。任務と訓練に励めよ」


「はっ!」


 ようやく紐が解けた。束ねてあった羊皮紙を広げると、サンジョは立ち去ったであろうトルを呼び返す。


「おい、トル! 戻ってこい。これは誰が持ってきた」


 上官の声にただならぬものを感じたのか、トルが駆け戻ってきた。


「この手紙は誰からだ?」


「そ、それが、僕は今、門番で……。外に立っていたら」


「手紙を持ってきたのだからお前が立ち番をしていたことは分かる。差出人は誰かと聞いたんだから、それを答えろ」


「し、知りません。知らない男です。偉い人に見せろと……」


「城内の屯所からではないのか?」


 サンジョが広げた紙に描かれていたのは精霊武具の三面図であった。剣、槍、銃、盾……様々な精霊武具の外観が、注釈と共に詳細に書き記されている。特に、銃器や暗視装置や小型無人航空機など、この時代の文明がまだ発明していない物について、紙面を多く取っていた。


 フラダ王国内でも読み書きができる者は限られている。職務上書類仕事のあるサンジョではあったが、見知らぬ単語が多く読めない部分が多い。


「これは、シエドアルマが使う武器の図面に違いない。これを持ってきた奴をここに通せ」


 精霊武具使いと遭遇した者の多くは死亡したため、精霊武具を未だに知らない王国兵士は多い。しかし、サンジョは立場上、皇国の兵士が使用していた武器の概要を聞いている。


「す、すぐに帰ってしまいました」


「なんだと! おい、どんな奴だ。特徴は」


「え、あ……」


 サンジョが声を張るから、トルは焦るあまり返事に窮する。


「これを持ってきた男の特徴だ!」


「マ、外套を被っていて、背が大きくて……」


「冬だ。旅人なら誰だって外套を被っているだろう! 他には!」


「め、目が二つあって、鼻が一つで」


「当たり前のことを言うな! 今すぐ探してこい!」


「は、はい!」


 サンジョがテーブルを叩くとトルは跳びはねて部屋を出ていった。


「くそっ。外套を被った男だと? 手当たり次第に探させるか……。市壁門を閉じさせて、旅人を外に出さないように手配した方がいいな」


 サンジョは片っ端から旅装の男を取り調べるため、配下の百人長に命令しようと部屋を出た。


 百人長から命令を受けた兵士は市壁へ走り、即座に市門は閉ざされ、不審な旅人の捜索が始まる。


 図面の差出人は既にヴァニカラードを離れていたから、結局、兵士は差出人を見つけられない。だが、捜索の手は外城壁内へと伸び、やがて、教会堂前の広間に居た隣市からの来訪者を見つける。


 外套を被っていて、目が二つあり、鼻が一つ。こんな条件を満たす人物はいくらでもいるが、他に手がかりはないので、兵士達はコズを屯所へと連行することにした。


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