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16-1.アルズの家に友人コズが尋ねてくる

 フラダ王国の北部に連なる山脈が真白い冠を戴く頃、マルクラートから一人の男が友人を訪ねて首都ヴァニカラードにやってきた。男は外套に身を包み、冷たい北風から逃げるように身を小さくして路地を進む。


 ヴァニカラードは三百年にわたり拡張工事が繰り返されたため、都市内の構造は複雑だ。北へ向かっていたはずの路地が、気付けば東や西へ進んでいる。


「アルズの家は何処だ。似たような通りばかりでわけが分からん……」


 マルクラートから旅してきた男コズ・リーランは、過去に一度だけ訪れた時の記憶を頼りに狭い路地を進み、迷った。ようやくアルズの家を発見した頃には、陽は沈みかけていた。


「おい、アルズ。アールーズ。俺だ。コズだ。親友が訪ねてきてやったんだぞ。開けろ。寒いんだ。お前でも構わないから俺を抱きしめて温めてくれ。おーい」


 宿代を浮かせるためにアッシュ家の世話になるつもりのコズは、なんとしてでもアルズを呼びだしたい。ドアを叩き声を張る。


 その音と声は隣に住むナッハ家にも届く。家長ルーシュの家族と、弟夫婦の計七人が食卓を囲んでいた。


「アッシュさんとこの客か……。アルズの訃報をまだ知らないのか」


 家長ルーシュ・ナッハは壮齢の革靴職人だ。恵まれた体躯と強面には不釣り合いなことに、古びた服の襟元には可愛らしいレースの刺繍が施してある。強面の下にある繊細な飾りは、由来を知らない者が見れば笑いを噴きだしてしまうだろう。もっとも、本人が由来を周囲に広めているし、岩のように頑強なルーシュに正面切って笑う者は居ない。


 息子のミッケルが、口に運んでいた木のスプーンを止めた。


「……あれ? 今、コズって言った?」


「どうしたミッケル。知っているのか?」


「うん。前、アルズさんの所に泊まっていて……。こんな騒ぐような人だったかなあ……」


「そうか。ミッケル。彼にアルズが亡くなったことを教えてきてあげなさい」


「うん」


 スープが冷めるのは残念だが、父には逆らえない。ミッケルは急いで家を出た。アッシュ家の前に、吐息を揉むようにして両手を擦り合わせる男が居た。


「コズさん」


「んお?」


「あれ。コズさん?」


 振り返った男の顔が、知っている顔と一致しなかったのでミッケルは困惑する。


「ん? なんだ。なんで俺の名前を知っている。って、俺が今自分で名乗ってたか」


「あの、本当にコズさんですか?」


「お、おう。なんでいきなり人を疑う」


 ミッケルは以前、コズを名乗ったアルズに会っている。しかし、目の前の男とは明らかに外見が違う。以前のコズは体躯に恵まれた赤髪の男だが、今のコズはヒョロっとしていて顔つきは胡散臭い。


「あ、あの、ちょっと待っていてください」


「お、おう」


 ミッケルは急いで自宅に引き返すと、父ルーシュにアルズの友人の名前を騙る不審者が現れたことを説明した。


「なんだ。アッシュさん家の遺産を狙う詐欺師か?」


 ルーシュは同居する弟と視線を交わし頷きあう。二人は仕事道具の木槌を手にすると、背中に隠して家を出た。


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