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15-4.アルズは立ち去る

『自分の手首は美味いか? 自分の血を吸い尽くしたら、精霊としての貴様は生き延びるかもしれないが、肉体は滅びるだろう。適度に自重しろ。……いや、肉体を捨てる方が良いかもしれんな。そうすれば、我の魔力を直接供与できる』


 アルズはフレデリカから意識を逸らすことに手一杯で、八咫烏の言葉を聞いていない。


 八咫烏はアルズの意識を保つために話しかけ続けているのだが、アルズにはその配慮を理解する余裕もない。


『……精霊武具が落ちているのは、この上だ。跳べるな?』


「あ、ああ……」


 円塔の一階部分を繋ぐ回廊だ。アルズは八咫烏の誘導に従い、フレッドが果てている回廊の屋根へ跳躍した。尽きかけた魔力による身体能力強化ではあったが、辛うじて屋根に乗ることができた。


 すぐ近くに、直視に耐えない状態の死骸があった。


 アルズは視線を背けながら、八咫烏の誘導で死骸に近づく。


『敵の精霊武具を手にしろ。後は我がコントロールする』


「あ、ああ……」


 手にした瞬間、フレッドの拳銃型精霊武具から魔力がアルズに移動する。直前の戦闘でフレッドは魔力を使い果たす覚悟で全力の攻撃を繰りだしていたため、残る魔力は微々たるものであった。


 しかし、アルズの飢えを忘れさせ、意識を正常にさせることはできた。


 アルズは屋根に腰を下ろし、深く大きな溜め息を吐く。何度も深呼吸をし、肺の中を新しい空気に入れ替える。


「……。精霊武具は……。美味しそうに感じないんだな」


『軽口を言える程度の正気を取り戻してくれて何よりだ。麦とパンのようなものだ』


「ああ、フリッカやエルフはパンか。いい匂いのパンが歩き回っていれば、収穫祭の大通りであんなにも腹が減るはずだ……」


『我の魔力は麦畑だ。人が口にできるものではない』


「そうか。精霊武具は粉挽きの臼かパン焼き釜か。正午だし、今頃パン焼き職人の竈の前は、近所の主婦で行列ができている」


 アルズは疲弊していたので座っているのも耐えがたく、手足を投げだして寝転んだ。屋根の上まで追撃の手があるとは思いたくもなかった。


「円塔は、崩れないか?」


『我が観測しておく』


「巻きこんでしまった侍女は……」


『人間もエルフも生存している。周辺の人間で最も死に近いのは貴様だ』


「そうか……」


 疲労困憊のアルズは、すぐには城を離れるだけの気力が湧かない。アルズの状態を察している八咫烏も、逃走を促しはしない。


 下の方から兵士が走り回る音が聞こえてくる。城内の屯所から戦いの音を聞いて駆けつけてきたのだろう。兵士達はすぐにフレデリカに気付き、安全な場所のベッドにでも運ぶはずだ。


「……待て。フリッカは胸元が顕わになっていた。兵士に見られる。それは、駄目だ。侍女が先に意識を取り戻してくれればいいが」


『ここから兵士を攻撃するか? ルイドが離れた位置に斬撃を飛ばしていたのは覚えているか?』


「冗談を言うな。フリッカの所に行きたいが、意識があったら気まずい。困ったな」


『我は夜の支配者だ。貴様が望むなら世界に夜を呼ぶぞ』


「そうか。……蝴凾ンあわない会話をしたな。俺達は先ず、お互いの冗談を理解できるようにならないといけないな……」


『そうだな。我も嚮後きょうこうの理解を望もう。貴様とは長い付き合いになりたいものだ』


「三千年、独りで寂しかったのか?」


『さあな』


 精霊が笑ったのか、僅かに空気が揺れる。


 それからアルズは数分間休息した後、城を離れた。


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