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15-1.アルズは力の制御を誤り、フレデリカを傷つける

 フレデリカは八咫烏を視認しており、その矮躯を避けるため、深く身を沈める。急加速からの急速潜行、直後に全身のバネを使って細剣を突く。


 フレデリカを見失ったアルズは回避できない。左脇腹を狙った細剣は魔力場に命中し、半ばから折れる。だが、フレデリカは立ち止まらずにさらに踏みこみ、短くなった細剣を押しこむ。


 細剣と魔力場の間から無数の氷柱が折れたかのような音が鳴り、光が千々に散る。


「ぐっ!」


『手持ちの武器を魔力で覆っている。アルズ。貫かれるぞ!』


「くそっ!」


 切羽詰まったアルズはこの攻撃への対応を失敗してしまう。けしてフレデリカを傷つけるつもりはなかった。細剣を弾くために相手と同程度の力をぶつけようとしただけだ。


 アルズが左手の甲で細剣を打ち払うと、軽い手応えとは裏腹に派手な音をあげ、フレデリカは背後へ吹き飛び地面に叩きつけられて弾み、勢いよく転がる。


「え?」


 アルズは何が起きたのか理解できない。川面に投げた小石のように、最愛の人が地面を跳ねている。右腕と左脚があらぬ方向に曲がっている。無造作に放り出された手足の先に、赤い飛沫の放物線が広がった。


 細剣で攻撃をしかけた王女は自身の魔力を全て攻撃に費やしていた。体を魔力場で覆ってはいなかったから、防御力は常人のそれと同じ。アルズは細剣だけを払ったつもりだが、強大な魔力場が見えない壁となって、王女の全身を強く打っていた。


 フレデリカの衣服は裂け、右腕が拉げ血肉が飛び散り、折れた骨が何箇所も体外に露出した。ようやく地に止まり四肢を投げだした体は、砕けた剣の破片が喉や胸部に突き立っている。特に大きな破片が心臓付近に刺さっており、見る間に胸元が赤く染まっていく。


「嘘だ……。嘘だ!」


 アルズは動揺し、両手足の甲冑が揺らぎ、消失した。


 視界がぐにゃりと歪み、真っ直ぐ立っていられない。足下が泥沼になったかのように脚は重くなり体はふらつくが、フレデリカの元へ向かう。


「こんな、こんなこと、するつもりじゃ……」


 地に膝をつき、間近で覗きこんで怪我の深さを知る。傷口が分からない程の血にまみれた胸元。折れ曲がった右腕。頬は内部で出血しているのか、赤黒く腫れている。


『落ちつけアルズ!』


「うわああああああっ!」


 アルズの絶叫と共に莫大な魔力が全周囲に放たれた。大気が鳴動し、一面の芝生が波打つ。生け垣が揺れ、葉が舞い、城壁に亀裂が走った。


 フレデリカの元に駆けつけようとして魔力の放射を近距離で浴びたサラとミルティは、吹き飛ばされ、壁に叩きつけられて意識を失う。


「フリッカ! フリッカ! しっかりしてくれ、フリッカ! おい! 八咫! 治してくれ! これは違うんだ! 怪我をさせるつもりなんてなかった! あ、ああっ、俺はなんてことを! 八咫! 治してくれ!」


 澎湃たる魔力を蓄えたフレデリカは、全身から芳醇な香りを漂わせている。食らいつけと、本能がアルズの耳元で囁く。


 胸からは新鮮な血が止めどなくあふれ続けていて食欲をそそり、露出した乳房は白く柔らかそうで、牙をたてれば官能的な美味が堪能できるはずだ。


 血で喉を潤し、柔肉を舌先で弄びたい、想像するだけで唾液が口の端からこぼれてくる。


 酷く、腹が、減った。


 目の前に、極上の、肉がある。


「はあ、はあ……」


 涎を垂らしながらアルズは、血染めの乳房に口を近づける。


「やめろ! やめろ! あっ、ああっ……。違う!」


 歯を突き立てるすんでのところで、アルズに残った僅かな理性が働き、右の拳で自らの側頭部を殴りつけた。


「……ぐっ! 俺はどうなっている! フリッカを助けたい! でも、美味そうだ! 食べたい。この肉を食べたい! 血をすすりたくてしょうがないんだ!」


 それは慟哭。正気を維持するために何度も側頭部を殴りつけ、裂けたこめかみから血が垂れる。




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