14-1.アルズはフレデリカと遭遇してしまう
「くっ……! どうなった?!」
アルズはフレッドと衝突した後、勢いが死なず、円塔の頂点からさらに五十メートル程上昇。勢いがなくなり空中で一瞬静止すると、腕を振り姿勢を変え、下方を視界に収める。
『魔力反応消失。敵は腰骨と背骨が折れた状態で意識を失った。即死だろう』
「え?」
アルズは目測を誤って敵に激突してしまったと認識しているため、八咫烏の言葉が理解できない。
『飛び過ぎだ。自分の着地を心配しろ』
「う、うわ……!」
『ある程度は我が補助できる。だが、あくまでもこの肉体の使用者は貴様だ、アルズ』
「お、おう……ッ!」
城の中庭に足から着地、その瞬間のみ体を固定するために出現した脚部甲冑の爪が地面を穿つ。膝を曲げて衝撃を吸収しつつ両膝を地につき、両手もつく。
「くっ……」
『慣れれば脚だけで着地できる』
「そんなことより、敵は!」
『屋根の上に落下した』
「立ち上がる前に仕留めるぞ!」
『繰り返す。即死だ。肉体の損壊は著しい。さらにこの距離で魔力を一切感じない。敵は既に事切れている』
「死んだ? 冗談だろ? 肩が少しぶつかっただけだぞ」
『我とこの肉体の組み合わせなら当然の結果だ。我は言っただろう。射程距離と命中精度以外のあらゆるスペックで敵を遥かに凌駕していると。苦戦したのは能力の相性が悪すぎたことと、貴様の経験不足故だ。それよりも貴様、先程まで全身の骨が砕けたと泣き言を漏らしていたが、両の脚で立っているぞ』
「……ああ。確かにお前が言うとおり、なんともない。こうもあっさりと決着するのか。誰も巻きこまなかったよな……?」
安堵するのも束の間、アルズは円塔の階段を誰かが駆け下りてくる音を聞く。いくら王女を護るために戦ったとはいえ、アルズの肉体は国王と王妃と王子を殺した者に違いはない。
「城の兵士が集まる前に去ろう」
アルズは小烏丸を鞘に納刀し、踵を返――。
「待ちなさい!」
立ち去ろうとするアルズを引き止めるのは、聞き慣れた声。
その声に満ちた怒りの感情がアルズの背中を刺す。アルズは反射的に振り返ってしまった。
「……!」
「その武器と黒い鎧! いくら髪の色を変えようとも見間違いはしない! ルイド・ゴーエン!」
円塔一階の出入り口から姿を現したのはフラダ王国の王女フレデリカ・ノワール。乗馬服のような軽装を着ている。
続いて二人の侍女が現れ、前に進もうとするフレデリカを全身で遮るように立つ。
「王女、お下がりください!」
「目の前に居るのは王族殺し! 私に構わないで、敵に刃を向けて!」
「分かりました。ですが、お下がりください!」
フレデリカも侍女達も動揺し、冷静さを欠いている。戦っても敵うはずがないのにフレデリカは身をルイドの眼前に晒した。
侍女は敵の狙いが王族殺しにあるという事情を知るにも拘わらず、フレデリカを王女と呼んでしまっている。
復讐心に囚われた王女は短剣を抜くと、宝石の散りばめられた鞘を投げ捨て、中腰に構える。
「敵は二人。見えない所にもう一人潜んでいます。気をつけて!」
「……了解」
「分かりました。ですが、王女、いざとなれば我等が足止めを致しますので、お逃げください!」
侍女はエルフのミルティと人族のサラだ。無口で表情の変化に乏しいミルティと、雄弁で表情の変化が大きいサラは、城内でフレデリカの身の回りの世話をしているので、アルズも面識がある。
(戦う? 何を言っているんだ。フリッカ!)
上方から苦悶の声にも似た鈍い音が降ってきた。
(俺が壁をぶち抜いたから塔が崩れる? そうか。古い石造りの塔だから、自重を支えきれないんだ。フリッカ! すぐにそこを離れろ!)
アルズは直ちにこの場を去りたい。しかし、円塔が倒壊したらフレデリカを護る必要があるため、離脱するわけにはいかなくなる。




