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13-3.アルズは窮地に、フレデリカの声を聞く

「くっ! ぐっ!」


 直上二十メートルから降り注ぐ魔力弾が、連続して腹部に命中。アルズは致命打を避けるために頭部を庇うから、腹部は無防備だ。アルズの甲冑は両手足のみ。とはいえ、腹部にも強固な魔力場が発生しているから、通常の魔力弾ならば難なく弾き返せる。


 だが、フレッドが持つような大口径狙撃銃を二十メートルという近距離から連射されれば、いずれ魔力場は貫通される。


「ぐっ……!」


『目を閉じるな! 痛みで体を丸めるな! 友の復仇ふっきゅうを果たすのではないのか!』


「分かっている! でもっ! ぐっ……!」


 さらに相次いで腹部に直撃を喰らい、圧迫された肺から酸素が逃げる。アルズは窒息しかけ、悲鳴をあげることすら叶わず、喉を震わす。


『痛みを意識から追いだせ! 貴様の魔力場は敵の攻撃を防いでいる! 肉体に損傷はない!』


「が……」


 八咫烏の指摘は正しかったが、痛みと苦しみで塗りつぶされたアルズの意識には届かない。


『立ち上がれアルズ! 屏息へいそくするな!』


「ぐ……!」


 アルズは身を起こすため首をあげる。歯を食いしばり、肘を使って上体を起こす。


 額に直撃。フレッドの放つ大口径魔力弾は真っ直ぐにアルズの額に命中し、その威力を余すことなく叩きこむ。咄嗟に八咫烏が魔力を頭部に集中させるが、衝撃を相殺しきれない。


「がっ……!」


 肌には傷一つつかない。だがアルズは後頭部を地面に打ち付け、意識が霧散しかける。脳が揺れ、本人の意志とは裏腹に意識は消えかかる。


 敗北が確定する寸前――その時。


 不意に聞き慣れた声が耳に届く。


 それは、現在地を考慮すれば当たり前の声。


「怪我人は居ない?!」


「王女! 我等のことなど構わずに! ここは危険ですから、安全な場所へ避難を!」


 若い女達の声だ。その内の一つは、もう二度と聞くことはないと思っていた。


 鈴の音のように高く澄んだ音がアルズの意識を呼び戻す。


(フリッカ……!)


「王女、早く避難を!」


「貴方達は先に行って。私はあれを持ち出さないと」


「駄目です。塔が崩れる恐れだってあるんですよ!」


「でも、大事な物なの……!」


 言い争う方へ視線をあげれば、確かに円塔の壁面に大きく穴が空き、石材がバラバラと崩れ落ち始めている。


(敵がすぐ上に居るんだぞ。フリッカを王女と呼ぶな……!)


 聴覚が強化されているのはアルズだけではない。


 敵精霊武具使いは塔全体が軋む音の中に女達の会話を聞き取った。


「王女……? ペールランドに向かったのではないのか? 我々は騙されていたのか!」


 シエドアルマ皇国の目的はペールランドとフラダ王国の同盟を阻止することだ。政略結婚が進められていたフレデリカは最優先の殺害対象になる。


「ルイド隊長は本物の王女をおびき出すために一芝居打ったのか? いや、そんな回りくどいことをする人じゃない。くそっ。分からないことだらけだ! だが、二つ下の階!」


 フレッドが胸壁から身を乗りだし、壁面を滑り降りようとする。


 生け垣に倒れたままのアルズは、翻った外套の下にあるダークグレーの軍服姿をはっきりと見た。右手に長大な精霊武具を所持している。


 ルイドに腹を刺されて白いドレスを血に染めたフレデリカの姿がアルズの脳裏をよぎる。愛する女性の瞳が光を失う光景、それは世界の終わりよりも受け入れがたい。


 だが、たとえ心が引き裂かれそうなほどの焦燥にかられても、体は地の底から伸びる木の根に縛られたかのように動かない。アルズは己の意志と反するあらゆるものに抗い、辛うじて反応する右腕を天へ伸ばす。


 小烏丸の刀身が中天の陽差しを反射し、アルズの瞳を刺した。敵の姿は遥か頭上。届きそうにもない。だが、諦めるわけにはいかない。諦めれば、数秒後には愛する人の命が奪われてしまう。


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