13-1.アルズは音速を超えて、ヴァニカラードの空に魔力光の尾をひく
反撃を試みるアルズから四百メートル北西に離れた位置で狙撃手は精霊武具を構えている。
シエドアルマ皇国の精霊武具使いフレッド・バーランは、確かに八咫烏の推測どおり、肉眼で市内に網を張りルイドの姿を見つけ出した。冬が近いため外套姿の旅人は珍しくない。だが、人捜しをしているように市内を不規則に移動し続ける者となれば限られているため、すぐに発見できた。
数千人が暮らす城壁内でただ一人を見つけられたのは、偶然ではない。
フレッドは前夜の内に、城壁をよじ登り見張りの兵士に姿を晒してから撤退することを何度か繰り返して、市内の警備を強化させた。自分でルイドを発見できなかったとしても、王国の兵士に見つけさせて騒ぎを起こさせれば良いのだ。
さらに、フレッドはルイドが敵に寝返った可能性や、フラダ王国にも精霊武具使いに類する能力者が存在してルイドが操られている可能性を考慮した。その場合、ルイドは敵の本拠地である城に姿を現すのではないかと予測し、待ち構えた。
「昨日見せたから、俺の魔力弾が弧を描くことは知っているだろう。だが、鋭角に折れ曲がることまでは知らないはずだ。仮にルイド隊長が正気だったとしても問題ない。俺は一度も、隊長の前で折れる弾道を見せていない。今の狙撃で敵は俺の位置を聖堂だと誤認したはず。聖堂へ向かえ。その背中を撃つ!」
フレッドは今まさに城の南東側円塔の屋上で胸壁に狙撃銃型精霊武具を据え、照準を聖堂の鐘楼に定めている。当然、方向が違うためルイドの姿は見えない。
視界の左端で、地に太陽が落ちたかの如き白光が膨れあがった。それは、ルイドが精霊武具を装着してあふれだした魔力だ。
瞬きの内にルイドは鐘楼に現れるはずだった。姿を見てからの発砲は間に合わない。フレッドは即座に、大口径魔力弾を発射。魔力弾の遠隔制御に意識を集中する――。
そして南東の外城壁、その頂上付近で黒衣の精霊武具使いの脚から爪が出現し、僅かな時、体を急停止。
黒衣は膝を曲げ、力を蓄える。
「フリッカに指一本でも触れさせるものか!」
アルズは壁を全力で踏みきり、城へ向けて跳んだ。その衝撃で城壁は大きく抉れ、轟音と共に破片を撒き散らす。壁は波打ち、見張りの兵士はよろめき胸壁の縁に手をついて悲鳴をあげる。石の砕ける派手な音は、既に飛び去ったアルズの耳には届かない。アルズは音速を超えて、ヴァニカラードの空に魔力光の尾をひく。
空気を裂き、まさに弾丸の勢いで円塔に到達し、全身で激突。アルズは壁に両手足をついて停止するつもりだったが、衝撃が死なずに体で石造りの壁を撃砕。塔は強度維持のために二重構造になっており、外側に自重を支える壁が存在している。アルズの勢いは壁を二枚とも抜き、螺旋階段を突き抜けると内壁を貫通し、塔内を転がり床に小烏丸を刺し引き裂き、家具や調度品を体で弾き、それでも止まらず、さらに反対側の内壁と外壁二枚を貫いたところで、勢いは衰える。
落下しかけたアルズは右腕を円塔に伸ばし、壁に小烏丸を突き刺しようやく止まる。
「なんだ今の勢いは! 人は見えなかった! 誰も巻きこんでいないよな?!」
『敵はこの上だ! ここで仕留めろ!』
「ああ。フリッカを護る!」
アルズは外壁を蹴って体を上方へ振り上げ、刀を抜く。
待ち構えるフレッドは、足下へ銃口を向けながら目を見開く。フレッドは直前に己が放った魔力弾が鐘楼に穴を開けるよりも早く、ルイドが円塔に到達したことに驚愕した。眼下の敵は魔力弾よりも速い。




