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11-4.アルズはフレデリカを詰問する

 フレデリカの表情に警戒心が色濃くなってくるのを見て、アルズは朝と同じ嘘を繰り返す。


「お、俺は、コズ・リーランだ。アルズの友人で、暫くの間、ここに泊まっている」


 ドアノブを掴むフレデリカの手に力が入る。警戒は解けていない。


 アルズは声による正体の発覚を恐れたが、杞憂に終わった。同じ声でも居丈高に声を張ったルイドと違い、アルズは多少の緊張があったとはいえ穏やかに話したので、フレデリカに与えた印象は大きく異なる。


 フレデリカは無人だと思っていた育ちの家で、夜間に見知らぬ男と二人きりになり戸惑う。先程はありえないと分かっていても、ドアの向こうにアルズが居るかもしれない、そう期待せずにはいられなかったから、立ち尽くした。


 けれど、犠牲者の遺体は城内に安置されている。フレデリカや生き残りの侍女達は、死者が冥府で困らぬように、千切れた四肢を棺の内であるべき位置へと据えた。欠損の著しい者は衣服の中に綿を詰めて形を整えた。


 アルズの顔に付いた血を拭き取り、死に化粧を施したのはフレデリカだ。普段の化粧を侍女に任せきりにしていたフレデリカは、化粧道具の使い方を知らない。それでも、侍女から教えてもらいながら、アルズの顔を拵えた。ただでさえ経験のない化粧を、涙で濡れた視界でするものだから何度も失敗した。触れる度に冷たくなっていった大切な人の体温は、まだ指先に残っているかのようだ。


 事後処理で忙殺されていたフレデリカはようやく僅かな時間ができたので城を抜けだし、今晩だけは愛する人の名残がある部屋で過ごそうとアッシュ家を訪れたのだ。


 そして、誰も居ない現実を受け止める覚悟をしてからドアを開けたら、何者かの気配を感じた。


 もしかしたら、城で起きたことは全て夢で、アルズが寝ているかもしれないと淡い期待を抱くが、声を聞いて幻想は粉々に打ち砕かれた。喋り方はフレデリカがよく知る男と驚くほど似ているが、声の質がまるで別物だ。


 そして、フレデリカと同じようにアルズも困惑する。


 仇の体で、愛する人にどう接すればいいのか見当もつかない。


(フリッカは城を攻撃した者の顔だとは気付いていない。だが、不審がられている。どうする……)


『疑え』


(え?)


『何故、こんな夜中に我が友人の家に侵入した、と問い詰めろ』


(そうか! 今の状況だと、フリッカの方が不審者だ。俺が身の潔白を証明しようとするのは不自然か!)


 アルズは咳払いをすると、僅かに語気を荒らげる。


「俺は名乗ったぞ。お前は何故、我が友人の家に無断で侵入した。アルズが妻を娶ったとは聞いていない。返答次第では人を呼ぶぞ!」


 アルズは一歩下がった。警戒する素振りを見せつつ、フレデリカから顔を隠すためだ。


 フレデリカは、はっと瞼をあげ、早口で弁解を始める。


「ま、待ってください。怪しい者ではありません。……私は以前ここに住んでいた者です」


(おい、八咫。どう答えればいい。フリッカがここで暮らしていたのは事実だ)


『貴様等の事情までは知らん。自分で考えろ』


「ちっ……」


 アルズは八咫烏の態度に軽く苛立ったのだが、フレデリカは自分の発言が不信感を与えてしまったのではと勘違いする。


 問い詰められて焦るが故に、フレデリカは相手がルイドと同じ声だとは気付かない。


「本当です。私の名前はフレデリカです。今は家を出ていますが、アルズからはいつでも戻ってこいと言われていて……」


 フレデリカは嘘がつけない性格なので語尾は曖昧になる。実際のアルズは「城に居れば良い暮らしができる。問題を起こして貧乏な家に戻ってくるんじゃないぞ」と冗談交じりにフレデリカを送りだした。


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