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11-1.アルズは、フレデリカを護るために自宅に留まらざるをえなくなる

 フレッドの動向が分からないため、アルズは二度と帰ることはないと思っていた自宅に、その日の内に戻ってしまう。


 精霊武具に宿る精霊はその所有者に城塞都市を出るように勧めた。だが、アルズには都市を離れられない理由ができてしまった。フレデリカだ。彼女の生存が敵に気取られれば、襲撃される可能性がある。アルズはフレッドという後顧の憂いを断たない限り、旅立てない。


 アルズの優先順位は明確で、先ずフレデリカの安全。次にシヴァの仇討ち。そして最後に八咫烏との契約である。仇討ちと精霊武具の破壊において両者の目的は一致するが、フレデリカの身を護ることに関しては、利害は一致しない。


 アルズは焦るあまり、夕食に買ってきた串焼きもクレープも、乾燥した砂を舐めているように感じてしまった。


(なんとかして城に忍び込んで、フリッカの近くで護衛をできないだろうか)


『諦めろ。貴様の姿はフリッカに見られている』


(それはそうなんだが、あまり離れた位置に居れば敵がフリッカを襲った時に護れない……)


 胃に収めるだけの食事を終えたアルズはベッドに寝転がる。アッシュ家は洋灯を常用するほどの財政的余裕はないので、陽が沈めば寝る生活をしていた。


 首を横へ向けると、暗視能力が付与されたアルズの目は、テーブル上に三本脚の烏を見つける。相手の姿が見える方が会話しやすいだろうという、八咫烏なりの気遣いだ。


『焦りは精神を疲弊させるだけだ。敵のことは我に任せて、今は眠れ』


(だが……)


『お前が執着する人間は我がルイドの魔力を分け与えた直後だ。数日で途切れるだろうが、今はまだ我と見えない糸で繋がっているような状態だ』


(城の外郭は広い。何処かに隠れ潜めないか?)


『城の兵士に見つかれば、追われるのは貴様だ』


(それは、そうだが……)


『敵は国王、王妃、王子を殺害し、目的はほぼ達成したと言える。王女にかかずらうこともないだろう。おそらく敵は、我等の追跡を恐れて隠れ潜んでいる。フリッカが狙われる可能性はない』


(ああ)


『敵を排除しなければ先に進めないというのなら、明日にでも城壁内を歩き回るんだな。二十メートル以内に近づけば我が敵を見つけ出せる』


(それが最善か……)


『そういうことだ。敵のことは忘れて心静かに眠れ』


(仇の一味が近くに居るのに……もどかしいな……)


『今は体を休めろ。魔力の回復には時間がかかる。貴様は昨日、それだけ莫大な魔力を消費した。……前言撤回だ。警戒しろ。何者かが接近中だ』


(こんな夜中に? 敵か?)


 アルズは音を立てないように立ち上がる。古い家だから床板は軋むが、住み慣れた家なので何処を踏めば鳴るかは把握している。鞘を手にすると、音を立てないように小烏丸を抜く。


(小烏丸で突いたら、ドアや壁は貫通するか?)


『愚問だ。使い手が貴様でも騎士の甲冑すら貫通する。精霊武具の盾が相手だろうと貫く』


(騎士の剣より細いし薄いし、刀身が反っている。折れないか?)


『折れない。アルズよ。鋼の剣などと小烏丸を比較しないでくれ。貴様が手にする刀は、八紘に伯仲する物なき利刃だ』


(言葉が難しくて理解できない。つまり、どういうことだ。……!)


 アルズの聴覚は、錆びついた蝶番が軋むのを聞き逃さない。


 間違いなく、何者かが玄関ドアを開けた。ノックをしないし、在宅確認の声がけすらないので、アルズは敵だと確信した。柄を握る手に力を込める。


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