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10-2.アルズは精霊武器同士の戦いに混乱する

 落下中に八咫烏が『壁を蹴れ』と忠告したため、それに従うと、数瞬後にアルズの体が通過したであろう位置を、怖気の発つような気配が通り過ぎていった。


「また撃たれたのか。今のが魔力……」


『その感覚を早めに覚えろ』


「何処から攻撃された。敵の姿が見えなかった」


『百メートル先から狙撃された。貴様が言う百五十歩の距離だ』


「そんな遠くから? さっき有効射程四百メートルと言ったな。さらに遠くから撃てるのか?」


『そうだ。だが家屋が我等を掩蔽する盾となる。恐れずに走れ』


「分かった。一度は死んだ身だ。覚悟を決める」


 小烏丸の柄を親指の腹で撫で、感触を確認しながらアルズは駆けだす。――敵と同じく精霊武具を手にしている。自分は精霊の声を聞くことができる。指示に従えば、一方的に殺されはしないはずだ――。自分に言い聞かせ、アルズは速度をあげる。牛革のブーツはよく足に馴染んでおり、履く者の力を十分に地面に伝えた。


「……なあ、城壁は湾曲しているから、百五十歩も先からなら俺の姿は見えないはずだ。どうして撃たれた」


『敵は貴様の姿ではなく魔力を見て撃っている。位置は知られていると思え。加えて厄介なことに、敵の能力は弾道制御だ。矢は重力に引かれて地面に向かって弧を描くが、敵の攻撃は地面と水平に弧を描く。左だ』


 アルズは八咫烏の指示に従って路地裏に入る。両手を広げれば左右の家屋に手が届く幅だ。前方は二十歩も進めば丁字路になっているため、視界は狭い。全力で走れば家屋に激突するのは必至なので、アルズは加減するしかない。


『右だ。顔を出した瞬間の狙撃を警戒しろ』


「俺からは反撃できないのか?」


 両腕で顔を覆いながらアルズは丁字路を右に曲がる。攻撃はない。


『射程距離で敵が上回る。こちらが先制することは不可能だ』


「剣と槍の戦いか?」


『ナイフと弓の戦いと思え』


「曲がる矢を相手にして、俺はナイフか? 勝ち目がないように聞こえるんだが」


『射程距離以外は我等が遥かに凌駕している。左だ』


 路地は複雑に入り組むため、数歩ですぐに方向転換を強いられる。アルズは敵の姿を目にすることはないが、八咫烏が敵の魔力を捉えていた。


「敵が家を貫いて攻撃してくる可能性は?」


『低い。周辺家屋は壁に土や石を使用している。魔力弾による貫通は可能だが、威力は減衰し軌道を大きく変える』


「この体は部隊長で、最強じゃなかったのか? 相手の方がルイドよりも強力な精霊武具使いなのか?」


『冷静になれ。精霊武具には様々な種類がある。奴は遠距離特化型だ。射程が長い反面、連射できないし、射撃時に大きな隙ができる』


「八咫は?」


『近距離特化型だ。小烏丸の間合いは狭いが――。来るぞ! 止まれ!』


「うおっ」


 十字路に身を出す寸前に急停止すると、大口径魔力弾が眼前を掠め、冬の夜空のように青白い光の線が引かれた。


「当たればどうなる……!」


『無防備であれば頭部が消滅する。立ち止まるな』


「あ、ああ」


 想像以上の破壊力を聞かされて尻込みしたアルズの足は鈍った。それを察したのか八咫烏が気休めを言う。


『必要以上に恐れるな。並の精霊武具使いであれば今の一撃に反応できずに、頭部が粉砕されている。避けることができたその体の反射神経に感謝しろ。この体なら、急所に直撃しても金槌で打たれる程度の衝撃だ。耐えろ』


「それでも十分、死にそうだが……。敵の姿がまったく見えない」


『先程説明した奴固有の能力だ。奴は弾道を曲げる。狙撃銃型の精霊武具に弾道制御能力は、相手取るには考え得る最悪の組み合わせだ』


「そんな奴を相手にどうしろと!」


『恐れるな。上手く魔力をコントロールして射撃地点を欺瞞しているが、これほど入り組んだ都市内で攻撃可能ということは、近い位置で窺遯ャ《きゆ》するということだ』


「欺瞞? 窺遯ャ? 意味が分から――」


『来るぞ』


 四発目の魔力弾が空気を裂きながら接近。咄嗟に身を低くしたアルズの髪を数本巻きこんだ。背後で家屋に炸裂し、煉瓦の砕ける音が聞こえる。


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