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10-1.アルズは初めて精霊武器を手にして駆けだす

 ヴァニカラードの外城壁を護る兵士達の声を頭上に聞き、短髪の下で黒い瞳が鈍く輝く。


(ルイド隊長が俺にすまないと言うなど、ありえない!)


 たとえ同じ部隊の仲間だろうと、ルイドは貴族と平民の身分差をないがしろにはしない。


 フレッドは今回の作戦で自分が後方支援に回ったのは、能力の性質を考慮した上での人員配置ではなく、単に自分が平民だから爪弾きにされたのではないかと疑っている。フレッドは土地と馬を貰ったため、家族の生活は格段に裕福になった。その後も恩賞にあずかり、今では冬の食事に困ることはないし、口減らしのために弟や妹を奉公に出すか悩む必要もなくなった。


 身分の差は大きいが、同じ部隊の精霊武具使いとして信頼関係と呼べるものはあったはずだ。恐怖による支配が強くて歪になっていたとはいえ、フレッドはルイドに畏敬の念を抱いている。


 だが。


(俺はルイド隊長の前に立つだけで、いつも恐怖で震えていた。今はその圧力を感じない! 目の前に居る男は何者だ! まさかフラダ王国にも精霊武具使いが居る?! 隊長は敵に操られたのか?!)


 過剰なまでの警戒心と慎重さこそが、フレッド・バーランの真骨頂であった。


 突如、閃光。


「うわっ」


 アルズは目がくらみ、反射的に腕で顔を覆う。


 近接戦闘を不得手とするフレッドは、精霊武具の拳銃には常に閃光弾を装填している。フレッドは地面へ発砲すると身を翻し、城壁に沿って全速で走りだす。


『アルズ、小烏丸を抜け!』


「ぐ……。今のは……」


『閃光弾だ。強い光で相手の視力を一時的に無効化する。だが今のお前ならすぐに回復するはずだ。小烏丸を抜け!』


「あ、ああ」


 アルズは左腰に差してある鞘から不慣れな手つきで刀を抜く。


「こんな曲がった剣、どう使うんだ。普通の剣すら使ったことがないんだぞ」


『ある程度は我が補助する。精霊武具は触れていれば身体能力が上がる』


 アルズが初動に戸惑っている内に、フレッドは勢いを付けて外壁を駆け上がってき、城壁を飛び越えて姿を消した。


『追いかけろアルズ。敵が手にする拳銃型の精霊武具は狙撃銃に変化する。移動しながらでも四百メートルの距離を当ててくる。いくら建物の密集した都市内とはいえ、身を隠されたら不利だ』


「狙撃銃? 四百メートル?」


『道すがら説明する。追え!』


「だ、だが……」


 フレデリカを護るために敵精霊武具使いを倒す覚悟はしたつもりだったが、土壇場で恐怖が鎌首をもたげた。城の広間に広がった赤い光景がアルズの足を大地に縛る。


『貴様の体は魔力場に覆われている。城の騎士よりも遥かに強固だ。魔力弾の直撃を喰らっても貫通することはない』


「わ、分かった……」


 アルズは左手で右手の甲を抓り、大して硬くないことに不審を覚えるが――。


『水を弾く油のようなものだ。貴様の全身を覆う不可視の膜が魔力を弾く』


「大丈夫なのか? 油絵は水に濡れたらにかわが剥げて絵の具が落ちるし、キャンバスだって緩むぞ!」


『分からない例えだ。走れ』


「くそっ!」


 舌先が震えそうだがアルズは八咫烏の言葉を信じ、先程と同じ要領で城壁を駆け上がる。だが、胸壁を越えようとした瞬間、体が重くなる。


「うっ」


 惰性で上へ向かうアルズの頭上を、高速で切り裂くものがあった。同時に、雷霆のような鋭い音が響き渡る。


 風が吹いたわけでもないのに、アルズは肌を撫でられたような感触を覚えた。


 フレッドの狙撃銃が放った大口径魔力弾だ。城壁内に飛び降りたと見せかけて、待ち構えていた。それを察知した八咫烏が身体能力の強化を解除し、移動速度を遅くすることにより回避させた。


 落下が始まりかけたアルズは慌てて胸壁を掴む。既に身体能力強化が再開されているので、易々と体を引き上げる。


「今のはなんだ」


『頭上を魔力弾が通過した。精確な射撃だ。我が支援するが、貴様も警戒を怠るな』


「あ、ああ、分かった」


『敵は既に飛び降りた。追え』


「ああ」


 二度目の跳躍にも勇気は要ったが、アルズは目をしっかりと開け城壁の内側に飛び降りる。

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