9-3.過去編。ルイドとフレッドの出会い
十年前、シエドアルマがまだ王政を敷いており、遺跡から精霊武具を発掘する前のことだ。
ルイドとフレッドは王立の騎士学校に学籍を置いていた。子爵のルイドと農民のフレッドでは通う教室が異なるし、ルイドが一つ年長のため接点はないはずだった。
貴族子弟のルイドは寮の一人部屋。フレッドは三十名の大部屋。宿舎の位置も離れているため、授業外で二人が会うこともない。
一般的に、貴族の子息には幼少期から家庭教師がつくため、ルイドは社交儀礼や外国語等、文官に求められる知識に始まり、馬術や剣術等、武官に必要な技能まで様々な英才教育を入学前から受けている。
貴族と平民とでは、騎士学校に入学した時点で既に素養に大きな隔たりがある。幼少期から剣術の才を遺憾なく発揮していたルイドと、貧乏平屋に生まれ育ち文字の読み書きも教わらず、ろくな栄養も取れずに痩せ細っていたフレッドが交わることなどないはずだった。
軍拡を続けるシエドアルマ王国が最も欲しているのは、他国を侵略するための武力だ。王国は平民にも教育を施して兵士を育てようとした。あくまでも手駒を増やすために平民にも教育の門戸を開いたのだ。けして、平民の地位が向上したわけではない。
貴族や軍人達は誰も、平民達の野心を知らなかった。高成績を収めれば軍高官に登用される道が開けるため、多くの平民は貴族の子息以上に学習意欲が高く、野心に燃えていた。とりわけフレッドは一年次から教官も目を見張るほどの勢いで知識や技術を吸収していき、二年次には貴族生徒達の間にも、平民に優秀な者が居るという噂が聞こえ始める。
「一つ下の平民教室に抽んでた才能を持つ者が在籍していると聞いて来てみれば、ただの家畜小屋か。どいつもこいつも殺されるのを待つだけの豚みたいな目をしているな」
平民達の教室に単身で現れたルイドの一言だ。この時点でルイドは既に子爵位を世襲しているため、貴族子息ではなく、れっきとした貴族だ。
平民達は貴族に逆らえるはずもなく、教室内の全員が歯がみし、侮蔑に耐えた。
「ちっ。家畜扱いされても文句の一つも言えねえのか。俺はお前等が嫌いな貴族様だぞ。校則によれば生徒は平等だ。対等の喧嘩をしてやるから、腕に自信のある奴は前に出ろ」
ルイドは両親を野盗に殺された後の、すさんでいた時期だ。彼にとって平民は野盗よりかは幾分マシな程度で、どちらも理性を授かり忘れた神の失敗作に等しい。いずれ排除しなければならないのだから、少し成績が良くて調子に乗っているフレッドとやらを殴ってやろうと、平民の教室に足を運んだのだ。
しかし、ルイドの目には、平民達は覇気のない顔をしていてどれも同じ顔に見えた。喧嘩を売る価値もない相手と判断し、すぐに興味をなくしてその場を立ち去る。
一方のフレッドはルイドに対する認識を改める必要はなかった。元々一学年上の貴族教室に成績優秀だが素行の悪い生徒が居るという噂は聞いていたためだ。
「貴族は傲慢な生き物だが、その中でもあいつは特に関わりあいたくないタイプだな……」
そう独りごちてから一年後、二人は再会する。
ゲルダリア侯爵が古代遺跡から精霊武具を発見したこを発端に、前例のない大規模な軍事改革が始まった。
精霊武具を扱える者は極めて限られていた。
剣、槍、弓、銃、盾……。精霊武具には様々な形態があるが、大半の者は武具の異能を引き出すことはできない。ルイドが離れた位置に斬撃を放ったように、才ある者が手にした場合のみ精霊武具は異能を発揮する。
シエドアルマは、この、精霊武具の真価を引きだせる者を探し求めた。
先ずは王族。続いて貴族から適合者が探される。
しかし、精霊武具に適合する者はごく僅かだ。その一握りのルイドは騎士学校を中退し、精霊武具使いのみで構成された精鋭部隊、凱皇騎士隊の創立メンバーとなる。
国内には王侯貴族のみで精霊武具の力を独占しようとする声も大きかったが、軍拡をなすには平民からも精霊武具の適合者を探さざるをえなかった。
剣や槍のように当代の戦場で活躍する武具は、王族や貴族で構成された部隊が独占した。
貴族として位の低いルイドが王から与えられた精霊武具は、いずれも見慣れぬ形状の物ばかりであった。




