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9-2.アルズは追跡者と接触。戦闘せずに武器を奪えないか試みる

「行くぞ!」


 アルズは壁の直前で跳躍し、壁面を一度蹴って上へと駆け上がる。身体能力に戸惑う間もなく、体は翼でも生えたかのように軽く、壁を上る。


「う、お……!」


 城壁の最上部には胸壁と呼ばれる小さい壁があり、矢を防ぐため凹凸構造になっている。アルズは胸壁に右手をかけ、全身を城壁の上に引き上げた。


「この外城壁は、ヴァニカラード城を包む内城壁の次に高いんだぞ。それを、こんなに易々と……」


『大した脅威ではないが警告しよう。右に人間一名』


「え?」


 二十歩先で兵士が弓を手放し、腰の鞘に手を伸ばしていた。


「何者だ! 何処から現れた!」


(くそっ、城壁の上を巡回する時間か……!)


アルズはフードをかぶり直すと、兵士に背を向け逃げようとするが、反対方向も百歩先の距離から兵士が駆け寄ってくるのが見えた。


(違う。巡回に鉢合わせたわけじゃない。昨日のことがあったから、監視を強めているんだ! 八咫、どうやって降りるんだ)


『逆に聞くが飛び降りる以外の、どのような方法を想定していた』


(飛び降りる? この高さを?)


 城壁の外にも街並みが広がっている。ヴァニカラードは三百年をかけて拡張した都市なので、外側ほど、新しい工法で作られた家屋が増える。内側は木製の屋根が多いが、外側は煉瓦造りや瓦葺きの屋根が多い。建築技術の進歩により重い屋根を支えられるようになったためだ。


 兵士に追われた状況でなければ、見下ろす景色の彩りが茶褐色から橙へと変わることに、画家は興味を抱き観察しただろう。


(この高さを飛び降りれば無事では済まない。死ぬぞ!)


『問題ない。貴様の身体能力は強化されている』


(だが……。本当に大丈夫なのか?!)


『怖いなら目を閉じろ。一瞬で地に足がつく』


(くっ……!)


 兵士は警戒しているらしく、剣の切っ先をアルズに向けたまま距離を保っている。奥にある城壁塔から増援の兵士が出てくるのが見えた。


(こんな所で殺されるわけにはいかない!)


 意を決し、アルズはフードが風圧で捲れないように押さえて、城壁の外へと躍り出る。恐怖で瞼を閉じそうになるが、家屋の間にある狭い路地に着地しなければならないのだから目を閉じるわけにはいかない。


(う、おっ……!)


 着地の瞬間、膝が曲がって衝撃を吸収し、手をつくこともない。アルズにとっては初めてでも、体に馴染んだ動作に過ぎなかった。


「怪我覚悟で跳んだのに……。本当になんともない」


 アルズが振り返ると、視界の全てを壁が埋め尽くす。


 物音がしたので視線をあげれば、身を乗りだした兵士が驚愕に目を見開いていた。


(流石に飛び降りてまで俺を追いかけはしないだろう……)


『来るぞ』


「え?」


 突如、目の前に人影が降りてきた。人影の外套が捲れ、下に着たダークブルーの隊服が一瞬現れる。


『我等を尾行してきた者だ』


 人影は細身だが長身で、ルイドよりも身長は拳一つ大きい。雑踏の中では頭一つ、抜けでるだろう。


 アルズの警戒を余所に人影はフードを外し、短い黒髪と陽に焼けた肌を陽に晒す。アルズはその際に一瞬視界に映った指先を妙に印象深く感じた。指は節くれ立っており、騎士や兵士というより、鍬や鋤を握り土にまみれてきた農民の手に見えた。アルズの知らないことではあるが、この直感は正しい。男は元々は農民だったが、才能を認められて凱皇騎士隊に抜擢された。


 名はフレッド・バーラン。歳は二十三。先日の襲撃には参加せず、内城壁付近に潜み後方支援を担当していた。現在は襲撃に加わった四名とルイドとの間で連絡係を担っている。


『やはりこいつか。面倒だな』


(面倒? 何故だ?)


『ルイドの次に強い魔力を有している。能力の相性が悪い上に、大量の魔力を前日に使ったばかりの貴様では――』


(……!)


 アルズは八咫烏から情報を引きだしたかったが、フレッドが口を開くため、相談の余裕はなくなる。


「ルイド隊長、昨日は何故……」


 ――潜伏先に来なかったのかとフレッドは遠まわしに追及する。歯切れが悪く、視線は左右に揺れた。ルイドならば質問の意味を理解できたし、フレッドが怖ず怖ずとした態度をしている理由も分かるはずだが、アルズはどちらも検討がつかない。


「すまないな。ちょっとした問題が発生した」


「え?」


 アルズは当たり障りのない返事で誤魔化そうとしたが、たった一言で相手に不信感を与えてしまった。フレッドの黒い瞳が細くなり警戒の色が浮かぶ。彼の知るルイドは、配下の者に「すまない」とは口が裂けても言わない。


(なんだ。俺は何か拙いことを口にしたか?)


 相手が警戒を強めたと分かっても、アルズは続けるしかない。


「精霊武具に問題があるかもしれない。お前の精霊武具を見せてくれ」


「精霊武具に問題が?」


 偽りの騎士隊隊長は手を出す。可能なら戦闘を避けたい。このまま穏便に精霊武具を受けとって破壊してしまえばいいと思っている。


 慎重で偵察能力に秀でるからこそ後方支援を任されたフレッドは、差し出された隊長の手に懐疑の視線を落とす。


 アルズは、ルイドとフレッドの関係を知らない。


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