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9-1.八咫烏が接近中の魔力を感知する

(シヴァが王子だっただろ。だからここ数年はあいつに紹介状を書いてもらえば、何処に行っても盛大に歓迎してもらえた。ある村なんて、入る前から総出で出迎えの列を作ってな。その話をしたらフリッカが自分も一緒に行きたいって……)


 思い出話は尽きないほどあるが、シヴァとフレデリカの名前をあげたせいで急にいたたまれなくなったアルズは、自分から始めた話題を中途半端に打ち切る。


 ここでアルズはようやく、精霊が気を利かせて昨日のことから意識を背けさせようと、話の聞き手になってくれていたのかと思い至った。


(知り合ったばかりのよく分からない奴だが……。悪い奴ではないな……)


『……? どうした。何か面白いことでもあったのか? 明確に思い描け。でなければ我に言葉として伝わらない』


(なんでもない。気にするな)


 僅かに足取りを軽くして暫く進むと、クレープを焼く屋台があった。


(さっきのエルフが食べていたクレープはこの屋台か? でも、匂いが違うな)


 アルズは鼻をひくつかせ何度か匂いを嗅いでみる。蕎麦粉の焼ける香ばしい香りが真っ先に鼻に飛び込んでくる。果物のジャムは塊のような匂いになってアルズの鼻を叩く。しかし、先程エルフ達とすれ違った時ほどの香しさはしない。


「お兄さん、一つ買っていく? すぐに焼けるよ」


 人族の女がえくぼを浮かべながら、熾火の上に置いた平たい石を木べらで叩く。


(さっきのは嗅いだことのない匂いだったし、珍しいジャムだったんだろう。売り切れたのか)


 アルズは店主に軽く首を振ってから屋台を通り過ぎた。


(大通りは駄目だ。誘惑が多すぎる。多少は遠回りだが裏道を行くか)


『……いや、このまま進め』


(何故だ?)


『近くで何者かが魔力探査を実行した』


(魔力探査? なんだそれは)


『精霊武具使いを探す手段と思え。……背後に魔力反応が接近中』


(……どうしてここに精霊武具使いが居る?)


『一定の距離を空けたまま尾行している』


(皇国の連中はフリッカを探しに行ったんじゃないのか……。もしかして、ルイドと合流するつもりだったのか? とりあえず人の少ない所へ行こう)


 左腰の鞘にそっと触れ、アルズは前日の出来事を思いだす。城の騎士は間合いの外から、甲冑ごと両断された。あれほどの威力を、賑わった通りで放てば大惨事になる。


 アルズは早歩きで路地裏に足を踏み入れた。軍靴の底が高く短い音となり、家屋の作る隧道に反響する。


『何故人通りの少ない方へ移動する』


(人を巻きこむわけにはいかないだろ。ついてきているのか? ……駄目だ。通りから漂ってくる甘い匂いが強すぎて分からない。八咫、教えてくれ。敵は追跡してきているのか? 俺には果物の木が背後に居るようにしか感じない)


『歩調を強めたお前にあわせて一定の距離を保っている』


(そうか。……せめて外城壁の外に行きたいな……。大勢の市民が収穫祭のために外城壁内に集まっているから、市街へ行けば人は少なくなるはずだ)


 狭く湾曲した路地を何度も曲がると、隘路の先に壁が見えてくる。


『貴様が気にしている壁は前方二十メートルのあれか?』


(メートル? その単位は分からないが、あれが都市を囲む最初の城壁だ)


『勢いをつけて駆け上がれ。皇国の精霊武具使いはそうやって侵入した』


(駆け上がる? 大人十人はある高さだぞ)


『可能だ』


(そんなことが……)


『可能だ。この体は特に優秀だ』


(分かった。試してみる!)


 小さく頷き、アルズは壁に向かって踏みだす。


「くっ……!」


 自身の認識以上に力があり、アルズは一歩目で姿勢を崩しかけるが、二歩目で修正して走る。まるで体が走り方を覚えているかのような感触。


 左右に迫る煉瓦造りの家並みが一瞬で背後に流れた。予想以上の加速にアルズは目を大きくする。外套のフードが捲れ上がり、炎のように赤く逆立った髪が顕わになる。


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