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8-2.住み慣れた家を出る

 食事を終えたアルズは、羊皮紙にフラダの地図を描き始める。


「先ず倒すべき敵は四名。フラダ王国とペールランドを結ぶ街道のいずれかで、居もしない本物の王女を探しているはずだ」


 街道は北側、中央、南側の三本。


「相手の立場になって考えれば、最も警戒するのは中央の街道だ。唯一、他国に出ることなくペールランドまで行けるからだ。北の街道はディットルランドに向かう。高峰が連なり道幅も狭くなるから馬車は使えない」


『画家の割に随分と地勢に詳しいようだな』


「画家だから、だ。絵の背景画に世界地図を何枚も描いたからな。他国に向かう主要な街道なら数は限られているから嫌でも覚える。世界地図を背景に載せることにより他国との繋がりを強調することが、昨今の流行だ」


『成る程な。我には理解できぬ類いの話だ』


「中央の街道に全員が居ると思う。敵は四人。仮に三方へ分散していたとしても、俺の体は一つ。中央に行くしかない」


『計画に水を差すようだが、皇国の精霊武具使いはもう一人居る。貴様が見た者の他に一名が城の外で待機していた』


「そうか。いずれにせよ、この体ならいきなり襲われはしないだろうし、上手いこと武器を奪って破壊する」


『消極的だな』


「ただの画家に正面切っての戦闘を期待するな」


『安心しろ。貴様が使用する肉体は優秀だ。よく訓練されている上に、魔力適性が強い。そこに我の力が加わるのだ。他者の後塵を拝することはない。仮に敵が五人一纏めに居たとしても我等が圧倒する』


「この体は優秀かもしれないが、中身は絵筆の使い方しか知らない」


『我が助言する。そうだな。先ずは闘争心を備えろ。貴様の性格は兵士に向いていない』


「分かりきったことを言うな。なんだったら俺は五人の敵と戦わずに、遠くから顔を盗み見て、人相画を描いて国中にばらまいてもいいんだ。国を豊かにして、貧乏人でもパンを食べられるようにしてくれた国王は慕われている。弑逆の大罪人なら、国民が草の根を分けてでも探してくれるはずだ」


 アルズは右の拳を左の手のひらに打ち付ける。


「しまった。広間に居た時、敵の顔を観察しておけば良かった……」


『あまり情けないことを口にするな。精霊武具使いを殺すと言え。復讐心に身を焼け』


「……復讐は遂げてみせる。もちろん、その時が来たら躊躇わずに仇を殺すつもりだ。だけど、画家なりの戦い方だってあるかもしれないだろ?」


『そうか。多少は期待しておこう』


 当面の方針が決まったアルズは旅の準備を終え家を出る。


 玄関ドアを閉じようとすると、急に腕が鉛の芯でも入ったかのように重くなった。


『……未練は焼き払え。小烏丸は火を放つことはできないが、石畳に打ち付ければ火花くらいは散るぞ』


「八咫。お前の言葉が本気か冗談か分からない……」


 両手でそっとドアを閉めると、アルズは何度も振り返りながら、住み慣れた家を離れた。


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