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5-1.アルズは肖像画で、フレデリカに想いを告げる

「御推察のとおり私は宮廷画家です。フラダを離れる王女様の姿を描き残しておくように、国王様から依頼されておりました。こちらが、本物の王女様のお姿です」


「なに?」


 ルイドがさらに一歩前に出る。


 アルズは躊躇わず、一気に肖像画の布を捲る。


 ルイドが短く呻り、顔をしかめる。


「む」


 ルイドの背後から肖像画に視線を送っていたフレデリカの変化は、遥かに大きい。


「あ……」


 フレデリカの瞳に瑞々しい色が戻る。


 肖像画に描かれた人物の瞼は一重で鼻が大きく、全体的に野暮ったい。似てはいるものの、フレデリカとは別人に見える。


「アルズ……」


 絵が描き直された意味を理解したフレデリカは玉のような涙を幾つもこぼした。アルズは処罰される覚悟で、お見合いを破断させようとしていた。たとえ破談が叶わない場合でも、想いを伝えようとした。それは、アルズとフレデリカが互いに想いあっていることを意味する。


 シエドアルマ皇国の爵位を持つルイドもまた、異なる解釈ではあるが、彼なりに肖像画の意味するところを理解した。肖像画は美しく描くのが慣例だ。まさか、見栄えを悪く改変するなどとは想像もしない。国王が嫁ぐ娘の姿を思い出として残そうとしたのなら、似せて描かれたはずだ。


「肖像画に描かれた人物……。似てはいるが別人か」


 ルイドは画家の技量を疑うが、すぐにその疑いを捨てる。肖像画は細部まで丁寧に仕上げられており、力量は十分に見える。シエドアルマの貴族であるルイドは、肖像画の女が手にした舶来の扇子や、壁に掛けられた世界地図の寓意も理解し、これが本物の肖像画だと確信した。絵画に寓意を込める技法は南の大国ランソワから周辺国に波及したため、シエドアルマ皇国の貴族にもフラダの絵画を読み解くことができたのだ。


 つまり、画家の言葉は正しく、この場に居る女は王族ではない。


「随分と若いようだが、貴様の腕は確かなようだ」


「我が妻フリッカは王女様と背格好が似ているため、替え手として城で雇われておりました」


「ちっ。そういうことか……」


 ルイドはアルズの思惑どおりに勘違いした。即座にルイドは新たに浮かび上がった疑念を整理する。


「少数の部隊を動かしたというのに、フラダ王国はどうやって事前に我等の襲撃を知った? 何処から情報が漏れた……。俺の戦功を妬む者が敵と内通していたのか……? ジョルジオ……。いや、ターナーか」


 考えに没頭しだしたルイドを刺激しないように、アルズはそっとフレデリカの元に移動する。ルイドの部下達も事態を静観しているようだ。


 アルズはフレデリカの傍まで行くと、背に腕を回して抱きしめる。


 二人とも怯えているため体の震えは大きい。アルズは力を込めてフレデリカを抱き寄せる。


「フリッカ。お前のことは絶対に護る……」


「アルズ……」


 フレデリカは泣きながらアルズの背中に手を回す。傷をいたわるようにそっと触れる優しい手つき。二人が抱き合うのは実に四年ぶりのことであった。


 フレデリカが王女になってから、アルズは意図的に距離を置いていた。身分が違うのだから気安く触れられる存在ではない。しかしアルズは今、かつて嵐や雷に怯えていた妹を励ました時のようにしっかりと抱きしめる。


 ルイドはそんな二人の様子を片目に見た。


「王族が宮廷画家如きと抱き合うなどありえん。ならば、この男の言葉は疑いようもない。……おい。本物は今朝、出立したと言っていたな」


「は、はい」


 呼びかけられたアルズは慌ててフレデリカを放し、ルイドに体を向ける。不興を買うわけにはいかない。


「一行の特徴は?」


「詳しくは存じておりませんが、人目を引かないように城の馬車は使わず、世話係も護衛も最小限だったと聞いております」


「そうか」


 ルイドは肖像画を指さし、部下達に指示する。


「これが王女の顔だ。お前達はペールランドに通じる街道を捜索しろ。派手な馬車が行列を作っているとは限らない。行商人や巡礼者を装っている可能性もある」


「はっ!」


 ルイドの部下達が素早く部屋から出ていく。些細なことで睨まれたくないため、部下の行動は迅速だ。


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