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4-3.アルズはフレデリカを護るため、敵に頭を下げて助命を懇願する

(兵士があいつにタペストリーを渡したら、フリッカが殺される! どうする! シヴァも兵士もみんな殺された! 俺なんかが戦っても勝ち目はない。考えろ……! 俺がフリッカを護るんだ!)


 アルズは顎からこぼれる血で床を汚しながら這う。


 脚が動くようになった。腕を引き寄せるのと同時に床を蹴るようにして前進する。騎士が落としたであろう剣が肘に触れた。無視する。シヴァや兵士達が敵わなかった相手に、自分が通用するとは思えない。


(……こいつはさっき「殺すのは王族と兵士だけだ」と言っていた。……そうだ!)


 ルイドの部下がフレデリカにタペストリーを覆い被せた。


 下がっていたルイドが一歩前に出る。


「待て!」


 もはや考えている猶予はない。破れかぶれではあったが一縷の望みに賭け、アルズは声を張る。口を動かすだけでも砕けた顎に痛みが走り視界が明滅するが、アルズは懇願する。


「そいつは王族じゃない! 殺さないでください!」


「……なんだと?」


 平民に過ぎない画家は未だに命がある。敵の目的は王族の殺害と、それを妨害する者の排除だ。そこにアルズは光明を見いだし、賭ける。


「フリッカは王族ではありません」


 アルズは全身を引き裂こうと襲いくる痛みに耐えながら上体を起こす。膝立ちになり、戦う意思がないことを示すため両掌を上にして床に置き頭を下げた。


 攻撃時の音が聞こえない。アルズは床を見下ろしたまま、訴える。


「フリッカは王族に召し抱えられているだけの平民。私の妻です……。お願いします。本当のことを申し上げますから、私と妻の命だけは……」


「本当のことだと? 画家風情が命乞いにしては妙なことを言うな。……続けろ」


 アルズは頭を下げたままだが、声音から相手が自分に体を向けたことを察する。訝しむ言葉には関心が濃く色づいていた。


 同情を引くために弱者を演じるまでもなく、アルズは痛みを堪えながら喋るため体は抑えようもなく震える。少しでも気を抜けば悲鳴をあげそうになるのを、フレデリカを助けたい一心で耐える。


「フラダ王国は隣国ペールランドと同盟を結ぶべく、政略結婚を推し進めていました。王国の兵隊は貴方方の攻撃を事前に察知したため、身代わりを用意したのです。本物の王女は今朝、ペールランドへ向かわれました」


 アルズは伏したまま、ルイドの鼻で笑う声を頭上に聞く。


「身代わりだと? ふん。見え透いた嘘だ」


 言葉とは裏腹に、相手は明らかにアルズの言葉を嘘だと切って捨てられないでいる。


 口元の血を拭い、アルズは顔をあげる。


「嘘ではありません。証拠がございます」


「証拠だと?」


 アルズはルイドの表情を見て、ここまでは狙いどおりであると知った。ルイドの目的が王族の根絶やしなら、本物の王女の情報を必要とするはずだ。


「証拠をお見せします。失礼……」


 震える膝で立ち上がろうとして失敗したアルズは、這いながら段上に落ちていた肖像画を取りに行く。


「それは貴様が持っていた絵か?」


「はい」


 アルズが肖像画の元まで行くと、ルイドがそちらへ近づく。アルズはルイドの興味をひけていることを確信する。


 そして、ルイドの背後でフレデリカがタペストリーを除けて顔を出すのが見えた。僅かな時間で目元が赤く腫れ、頬がやつれている。


 見慣れた笑顔とかけ離れた表情を見ると、アルズは顎の傷以上に胸が痛んだ。


(フリッカ……君だけは絶対に助ける……)


 アルズは布がかけられたままの肖像画を持ち上げてルイドに向ける。

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