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04

 夏休みが終わった。

 私は海辺のコテージから実家へ帰宅。

 

 再び実家からの王立魔法学院への通学がはじまった。

 

 始業式の日。

 

 屋根裏部屋で目を覚ます。

 メイドが用意してくれる少量の水で洗面を済ませる。

 冷えたパンをかじり、水だけ飲んで家を出る。

 両親に挨拶をしたけれど返事はない。

 まあ、いつものことだけれど。


 授業前の教室は騒がしかった。

 夏はどうやって過ごしていた?そんな話題で大騒ぎだ。

 私はいつも通り蚊帳の外。

 自分の机に着席して、一人静かに教科書を読んでいた。

 そして、挨拶してきたアンヌマリーと少し夏休みをどう過ごしていたかを話した。

 アンヌマリーは随分日に焼けていたけれど、変わらず天使のように愛らしくて可愛らしかった。

 優しい彼女だけが私の救いだ。


 退屈な始業式の後、授業が始まった。

 

 一限目は校庭での実践訓練。

 教員が召喚した下級モンスターを魔術で倒す事が、今日の課題らしい。

 以前の私が一番苦手だった授業。魔法が使えない私は、いつも校庭の隅っこに座って見学だった……。

 

「さて、リンジー。

 君はいつも通りの見学で。

 どうせ、『無能令嬢』の君には何も出来ないだろうからねえ」


 ハゲた中年教員がそう言い、他の生徒達の笑いを誘う。

 見慣れた光景だ。

 

 だが、今日からは全てが変わる。


「先生。私にもやらせて下さい」


 私は並ぶ生徒たちから、一歩前に歩み出た。

 そして冷ややかな声で教員にそう告げた。

 

「……なに?」


 露骨に驚いた顔をするハゲた中年教員。

 私は構わず続けた。

 

「私も実践訓練に参加します。

 下級モンスターと言わず、中級でも、上級でもいいですよ。

 先生が召喚できる中で、最も強いモンスターを召喚して下さい」


 私は淡々と言った。

 ざわめく他の生徒達、アンドルー。

 心配そうにオロオロするアンヌマリー。

 うん。そうなるよね。

 普段教室の隅っこでもじもじしているだけの私が、急に目立つ行動に出たんだから。

 

「おいおい。アンドルーに婚約破棄されて、リンジーは自暴自棄になってしまったようだぞ。

 誰か止めてやれよ!死んじまうぜ」

 

 クラスメイトのお調子者がそう叫び、皆がどっと笑った。


「うるさいわよ!」


 私は振り返って、鋭くその生徒を咎めた。

 その剣幕にお調子者はビクリと肩を震わせる。


「な、なんだよ。『無能令嬢』リンジーが随分生意気な……」


 なにやらモゴモゴ言っているけれど、私は無視して教師の方に向き直る。

 

 私の様子が普段と異なることに気が付いたようだ。

 他の生徒達は段々と静かになってきている。


「リンジー。

 君はそうやって周囲の気を引いて目立ちたいのか?

 授業の邪魔をするのもいい加減にしなさい」


 ハゲ教員は、なんとか威厳を保とうと高圧的に指示してきた。

 私も怯まず言い返す。

 

「先生こそ、下級モンスターしか召喚できないからそうやって渋るのではないですか?

 もし先生にそういった能力があるのでしたら、上級モンスターを召喚してみせて下さい。

 私が倒しますので」


 どよどよどよ……。


 クラスメイトのどよめきが起きた。

 

 ハゲ教員の顔色が変わった。

 彼は後悔するなよ、とかなんとか、色々な悪態をついた後、魔法を発動してモンスターを召喚。

 校庭に魔法陣が現れ、その中央に黒い霧が沸き起こり、形をなしていく。


 ブラックリザードマン。


 A級魔法使いが対等に戦える程度の強さのモンスターだ。

 モンスターレベルは、中級の上といったところか。

 なんだ。

 上級モンスターを呼べといったのに、こんなものか。

 

 リザードマンは耳をつんざくような咆哮を上げて体を揺らし、己を囲うように並ぶ生徒達を睨みつけはじめる。

 慌てた他の生徒達は、各自魔法発動の構えをとって臨戦態勢に入る。

 一部女生徒は悲鳴をあげ、逃げようとしている。

 

 何を焦っているんだか?


「『爆ぜろ』」


 私の一言で、ブラックリザードマンの肉体は震え、中心から弾け飛んだ。

 

 その肉片は四散し、グラウンドに転がり、やがて黒い霧となって消えていった。

 わずか十秒ほどだった。

 グラウンドからは魔物、魔物との戦闘の痕跡が消えた。瞬殺。

 他の生徒達は皆静まり返っている。

 身動きひとつ出来ないようだ。

 

 こんなことができる者は、このクラスにはいない。

 いや、魔法王国と呼ばれるこの国にも、片手の数ほどしか存在しないだろう。

 私に覚醒した能力は、それほどまでに圧倒的だった。


「あ、私、魔術を発動できるようになりましたんで。

 『ゼロ級』ですから、地水火風、光と闇、全ての魔法が自在に操れるようになりました。

 威力はこの通り。

 それでは、今後はそういうことでよろしく。

 あ。先生、上級モンスターは召喚できないんですね。

 ちょっとがっかりです」


 私は表情を変えずに淡々と宣言。

 そしてハゲ教員を一瞥いちべつ

 

 教員は恐怖で引きつった表情をしている。

 今にも漏らしそうなほど体を震わし、足はガクガクだ。

 情けない。

 なにか言ったらどうなんだか。


 私以外の生徒達も石像のように動かず、静まり返っていた。


(続く)

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